ROLLY×萩原健太が語る、世界を魅了し続けるクイーンの偉業「違和感のようなものが彼らの本質」
第2時限目
続いてアルバム『A Day at the Races(華麗なるレース)』(英国:1976年12月10日、日本:1977年1月9日 発売)に話は移る。「1976年の日本における洋楽ヒット」として、バリー・マニロウ「歌の贈りもの」(「I Write the Songs」)、ボズ・スキャッグス「Lowdown」、Chicago「愛ある別れ」(「If You Leave Me Now」)、ダリル・ホール&ジョン・オーツ「追憶のメロディ」(She's Gone)、エリック・カルメン「All By Myself」などがメドレーで流された。
「商業主義がますます進んで、“売れない”レコードは出してもらえない時代。だから下手な演奏はなくてあたりまえ。その分、一流ミュージシャン同士のセッションが盛んになって、より洗練された音楽が増えていく。そんな流れの中でアダルト・コンテンポラリーなものが人気を呼び、広がっていった」【萩原】
「QUEENのアルバムではマルチトラックの分離がさらに際立ち、進化している」【ROLLY】
このアルバムから萩原が敢えて選んだ1曲は「You Take My Breath Away」。
「やはりコーラスが前作よりも洗練されている」【萩原】
「The Beatlesの「Because」みたいな曲ですよね。アダルト・コンテンポラリー路線を取り入れているけれど、ブライアンはハードロック志向。この頃からフレディは、だんだんブライアンのギターがやかましいと思い始めていたはず(笑)。でも僕は好き。「You And I 」では新しいことにも挑戦して、特に「The Millionaire Waltz」はブライアンの才気がほとばしっている。あの、泣きじゃくった後で遊園地のメリーゴーラウンドに乗っているみたいな感じ。あの世界観が出せるロックギタリストはこの人以外にいない!」【ROLLY】
「ブライアンのギターにはブルースっぽさがないけれど、クラシックの伝統とロックが融合していると思う。さすがBBCプロムス(世界最大級のクラシックフェス)の国」【萩原】
「あらゆる音楽のいいところだけが集まっている、いわば闇鍋パーティーのようなゲテモノ感がたまらない。特にフレディはマレーネ・ディートリッヒのキャバレー音楽やエディット・ピアフのシャンソンにも傾倒していた。「伝説のチャンピオン」(「We Are The Champions」)をよく聴くとシャンソンの「パリの空の下」(「Sous le ciel de Paris」)からの強い影響が感じられるはず」【ROLLY】
当時のヒットナンバーと比較しながら、独創的な方向へと変化していくQUEENのサウンドを、音楽評論家とプレイヤーの両方の視点から解説したほか、コアファンも頷ける楽曲の背景も学べる充実した時間となった。
第3時限目
ここではその「伝説のチャンピオン」や「We Will Rock You」を生んだアルバム『News Of The World(世界に捧ぐ)』(英国:1977年10月28日、日本:1977年11月25日 発売)を解説。「1977年の日本における洋楽ヒット」として、ABBA「Dancing Queen」、The Eagles「Hotel California」、フリートウッド・マック「Dreams」、アンディ・ギブ「恋のときめき」(「I Just Want to Be Your Everything」)、ELO(Electric Light Orchestra)「Telephone Line」、The Emotions「Best of My Love」などがメドレーで流された。
「“売れる”音楽の究極のかたちとしてディスコサウンドの台頭。英国では逆にその反動で、バンド回帰的なパンクの人気が高まる。その一方でアメリカのロックが持っていたスピリッツが消えつつあった時代……The Eaglesの「Hotel California」はその内部告発のような象徴的な曲だった」【萩原】
「このアルバムでのQUEENは、シンプルさと作り込み要素が共存。サウンドもカラッとあっけらかんなかんじ」【ROLLY】
このアルバムから萩原が敢えて選んだ1曲はベースのジョン・ディーコンが書いた「永遠の翼」(「Spread Your Wings」)。
「経済不況の英国で、パンクがその怒りをエネルギーにして爆発させているのに対し、この曲はバーで床掃除をしている若者サミーに向かって、もっと夢を追え“翼を広げて遠くまで飛べ”と激励している。同じ世相を背景にしている曲でもこんなに違う。そこがとてもQUEENらしい」【萩原】
「フレディもパンクには相当びびっていたと思います。自分たちの音楽のことを内心、時代遅れかも……って。でもその不安を吹き飛ばすかのように「伝説のチャンピオン」や「We Will Rock You」を歌って開き直るのがQUEENのすごいところ。それが40年近く時代を経て、いまだに色褪せずにこうして世界中を熱狂させているところが素晴らしい」【ROLLY】
「直球の強さです。世相を超えたオリジナル」【萩原】
「そしてギタリスト的な視点で、僕が好きなこのアルバムの1曲は「うつろな人生」(「Sleeping on the Sidewalk」)。ブライアンの音が下がりきらないトレモロ、最高。エディ・ヴァンヘイレンやリッチー・ブラックモアとはまた全然違う最強さ」【ROLLY】
まだまだ語り足りない、弾き足りない様子を講師陣からも感じる中で、あっという間に講義の時間も残りわずかに。ROLLYも講義が進む中で、純粋なQUEENファン、ブライアン・メイ信者としてどんどんヒートアップ。最後の最後まで、惜しげも無くギタープレイを披露した。
ホームルーム
最後にまとめのホームルーム。結局、QUEENの魅力ってひと言で何? 特に映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観て目覚めた若いファンにアピールするとしたら? という質問に対して……。
「結局、QUEENは単なるロックバンドじゃないんです。そういうバンドとしての性質を考えたときに感じる違和感のようなものがまさに彼らの本質。そこをリスナーとして追求して、どんどん扉を開いて進んでいくのがQUEENの楽しみ方。皆さんもさらにその冒険を続けてみてください」【萩原】
「ブライアン・メイの魅力も今、この会場にいる皆さんが誰よりも理解していることでしょう(笑)。今日は集まってくれてありがとうございます。またお会いしましょう」【ROLLY】
萩原健太の専門家らしい含蓄のある話と、ギターを片手に演奏しながら言葉よりも雄弁に語るROLLYのトークに惹き込まれた2時間。ここには書き切れなかったが、参加者から集めたROLLYへの質問コーナーも大いに盛り上がりをみせた。次回は9月7日にPart.3とPart.4の同日開催が決定している。
(取材・文=東端哲也/写真=(C)M.Kiyomoto)
■イベント情報
『音楽・映画連動講座「ボヘミアン・ラプソディ」Part 3 & Part 4』
開催日時:2019年9月7日(土)
Part.3:13:00〜15:00終了予定
Part.4:17:00〜19:00終了予定
講師:Part.3: 未定 Part.4:未定
MC:矢口清治
ゲストMC:萩原健太(Part.3、Part.4共に解説)
場所:音楽の友ホール(東京都新宿区神楽坂6-30)
チケット代:各¥3,000(税込)
詳細はこちら
<概要>
『ボヘミアン・ラプソディ』最終章が9月7日に開催。1st SessionをPart.3とし、1978年発表の『JAZZ』から1984年発表の『THE WORKS』までを解説予定。2nd SessionをPart.4とし、フレディ・マーキュリーのソロワークに焦点を当てて解説予定。今回もゲストMCは萩原健太氏が務め、他の講師はまだ未定となっている。