Official髭男dism、初の日本武道館公演で作り上げた“音楽そのものが鼓舞する空間”
「Pretender」がオリコン週間ストリーミングランキング7週連続1位(7月15日付)、「ノーダウト」も7位にランクインし、2曲同時TOP10入り記録でも6月3日付から7週連続という快挙を成し遂げたOfficial髭男dism(ヒゲダン)。日本における音楽ストリーミングサービス開始以降の新しいヒットの形を体現している彼らが、初の日本武道館公演を『Official髭男dism one-man tour 2019』の追加公演として、日程としてはツアーの中盤にあたる7月8日に開催した。
武道館公演に向けて、様々なビッグアーティストの公演を観に行くだけでなく、会場の場所によって音がどう聴こえるか、どんな演出が参考になるかをメンバー同士で共有してきたとインタビューで話していた4人。目標の地というよりは、いかに良い音と演奏、そして自分たちらしい演出で楽しんでもらうかが焦点だったように思う。その答え合わせという意味合いも頭の片隅に入れて、ライブを見たのだが、それ以前にまず客層の多様性に驚いた。若いカップルがこんなに目に付くことも珍しく、街中と地続きのような日常的な光景が広がっていたのだ。もちろん女性同士も多く親子連れもいる。こういう光景はCDがミリオンセールスをバンバン出していた時代か、ドームクラスを完売するようなアーティスト以外ではあまり見られない。やはり楽曲の浸透度のなせる技なのだろう。
会場に入ると目に飛び込んでくるのはバンド名のイニシャルを表した「HGDN」の巨大電飾。これまでの手書き文字風ロゴとは随分イメージが異なるエンターテインメントショーの趣き。さらには左右のスタンドまで伸びた花道、後方の客席も解放したため、センターステージではないが、360度から見られるステージセットであることも新鮮だ。それらが実際に演奏で生きてくる。
定刻より10分ほど遅れて場内が暗転した際の大歓声と悲鳴のボリュームは12,000人の期待値を表す。ホーン隊とキーボード、パーカッションのサポートメンバーを含む9人がステージ下から登場する様子は、ヒゲダンのキーワードであるチーム感を象徴しているかのようだ。スタートは藤原聡(Vo/Key)のアップライトピアノ弾き語りからの「115万キロのフィルム」。二人の未来を焼き付けるにはいくらフィルムがあっても足りないという、プロポーズソングにも取れる曲だが、この日はヒゲダンとオーディエンスの関係性のようにも受け取れた。サポートキーボードがいることで藤原のパフォーマンスの自由度が上がったことも大きなステージで映える。「Tell Me Baby」での楢崎誠(Ba/Sax)の重心の低いベースと松浦匡希(Dr)のキックのバランスも分離も良く、スタンドの最上階まで横ノリとクラップをしているのが見える。曲が終わると拍手とともに大きなざわめきが起こった。
この日のバンドの“チーム感”に注目すると、「ブラザーズ」では楢崎がバリトンサックスに持ち替え、サポートキーボーディストがベースを担当。まずはホーン隊がステージ前方に出てきてアピール、さらにはステージの外周を松浦以外の8人が演奏しながら練り歩くという楽しい演出で魅せる。さらには松浦の短いドラムソロから、サブベースのような低音で、ライブでも先鋭のダンスミュージック的な体感を楽しめた。その後、小笹大輔(Gt)が「実家にKen Yokoyamaさんのポスターが貼ってあるんですが、それが武道館ライブのもので。あの日の丸を今自分が見てるなんて」と感極まっていると、藤原が「ちなみにこんなんあと15年は続くよ?」と言い、メンバーが口々に「25」「30」「いや100」と畳み掛け、藤原が「長生きしたいです。来年は4人で健康診断に行きます」と笑わせた。
さらにこの日がヒゲダンの初ライブから7年と1日であることを告げ、「この曲が武道館で響く日が来るとは」という藤原の言葉から「コーヒーとシロップ」へ。社会人経験もある彼らならではの、そして誰もが一度は働き始めてから経験する葛藤を描いた歌詞に感情が揺さぶられる。軽快な辛辣さを含む「ブラザーズ」とこの曲が自ずと繋がってしまった。作詞においても通り一遍の言葉の羅列をせず、しかも時にギリギリの心情もリアルに書ける藤原の才能を生で実感した。