YUKI、アルバム『forme』に溢れる音楽と歌への純粋な探究心 作曲陣の起用が示す“変化”を読む

YUKI『forme』に溢れる歌への探究心

 CDを買って音楽を楽しむとき、アートワークとともにブックレットに記されたクレジットを見る楽しさがある。作詞、作曲、編曲、演奏、アートワーク、レコーディング……この素晴らしい作品の誕生にどのような人が関わっているのだろう、と眺めるだけで心が躍る。

 YUKIが2月6日にリリースしたニューアルバム『forme』にも、そんなワクワクが詰まっている。YUKIが“2回目のソロデビュー”、“2度目の1stアルバム”のような新鮮な気持ちで約1年をかけて生みだした本作。「チャイム」(NHK『あさイチ』テーマソング)、「トロイメライ」(映画『コーヒーが冷めないうちに』主題歌)、「やたらとシンクロニシティ」(フジテレビ系ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』主題歌)といった先行配信含むシングル3曲に加え、普段から自身の頭や身体で鳴っている音、リスナーとして楽しんでいる大好きな音楽を、自分の歌と歌詞でどう表現できるのかーーYUKIの溢れる音楽と歌への探究心が一つの形となった作品だ。

 『forme』は、YUKIによるセルフプロデュース作。YUKIが全曲の歌詞を手がけ、ほぼ全ての楽曲の編曲に参加した。憧れの人、最近気になる人、長年の友人……アルバム曲は、YUKIがともに音楽を作りたいと思ったミュージシャンたちに楽曲制作を依頼。詞曲を手がけるシンガーソングライター、あるいはプロデューサーとしても活躍するミュージシャンたちが、“YUKIが歌ったらいいと思う曲”、“YUKIのためのメロディ”を生み出した。そのため、アルバムタイトルの「forme」には、“今のYUKIを表す形や姿”という意味のほかにも「for me=私のための」という意味が込められている。

 そういった『forme』の制作経緯を聞いて、ふと思ったことがある。ステージから降りたYUKIがどんなミュージシャンと交流を持ち、今どんな音楽に興味を持っているのかということは、これまであまり積極的に語られることがなかったということだ。YUKIがそれぞれの曲で伝えてきたメッセージにふれることはできても、音楽家であると同時に音楽愛好家であるYUKIの一面は、YUKIという完成されたアーティスト像の内にひっそりとしまいこまれていた。ソロデビュー15周年イヤーに発表された前作『まばたき』にて、ありのままの自分で、自由に歌うことを楽しむ所信表明を告げたYUKIから、今度はありのままの音楽的関心が詰め込まれたアルバムが届けられたのは素直に喜ばしい。

 アルバム曲を手がけた中でも、西寺郷太(NONA REEVES/「しのびこみたい」)、堀込泰行(「ただいま」)、Chara(「24hours」)は、長年親交がある愛すべきミュージシャンたち。西寺郷太、Charaとは編曲も共にし、「しのびこみたい」ではNONA REEVESのメンバーも演奏に参加。YUKIがリスペクトするそれぞれの持ち味が最大限発揮されながら、よき理解者でもある彼らのメロディがYUKIの歌手としての魅力を存分に引き出している。特にCHARA + YUKIやMean Machineなどで活動していたCharaとの「24hours」は、この二人だからこそなし得た新たな名曲の誕生だと思う。

 シングル『トロイメライ』収録の「かたまり」でもコラボレーションした津野米咲(赤い公園)作曲の「風来坊」ではトオミヨウ、20年来の仲である川本真琴の作曲・編曲「転校生になれたら」ではSTUTSが編曲に参加。疾走感ある「風来坊」、ノスタルジックな「転校生になれたら」の2曲は気鋭プロデューサーによるトラックメイクが歌詞の世界観を鮮明に浮かび上がらせるユニークな仕上がりだ。

 吉澤嘉代子(「魔法はまだ」)、前野健太(「口実にして」)、尾崎世界観(クリープハイプ/「百日紅」)といったYUKIがリスナーとして音楽を楽しんでいるというミュージシャンたちの作曲群からは、日本語が持つ美しさや儚さが伝わってくる。それぞれ言葉に生命が宿るような作風で知られる彼らから受けた刺激は大きいものだったに違いない。いずれも彼らのメロディが放つ独特なムードをまとった、YUKIの豊かな歌声の表情を楽しむことができる楽曲となった。

 さらにかねてからの憧れの存在、細野晴臣は「Sunday Girl」にて作曲・編曲・楽曲プロデュースを担当。細野晴臣のアコースティックギター&パーカッションに加え、細野晴臣のライブを支えるバンドメンバーも演奏に参加した。サビでは、細野晴臣がバックコーラスも行っており、YUKIとのハーモニーを聴かせる贅沢さ。YUKIは時にライブで歌うことを“自分へのご褒美”と表現することがあるが、「Sunday Girl」も歌手・YUKIへのご褒美のような一曲になったのではないだろうか。

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