アリアナ・グランデ、ソランジュ、ケラーニ……高橋芳朗が選ぶ、女性R&Bシンガーの新譜4選

 昨年5月の来日公演も好評、去る3月25日には無事第一子となる女の子を出産したケラーニのミックステープ『While We Wait』。

ケラーニ『While We Wait』

 「待っているあいだ」というタイトルはこのプロジェクトが出産を目前に控えたなかで進められたこと、そしてこれが『SweetSexySavage』に続く新しいアルバムのプロローグであることを意味している。全9曲31分とコンパクトながら、ヒット・ボーイやボーイ・ワンダーのプロダクションを含む内容はなかなかに濃密。白眉はワーレン・フェルダー制作の「Morning Glory」で、これはもともとTLC「Waterfalls」をサンプリング使用していたもののクリアランスが間に合わずやむなくトラックを差し替えたとのこと。それでも、定番ブレイクビーツ「Impeach the President」を用いたケラーニの面目躍如といえる見事なTLC/90年代R&Bのオマージュに仕上がっている。オマリオン「Ice Box」の引用に加え、敬愛するミュージック・ソウルチャイルド(2015年のミックステープ『You Should Be Here』収録の「Down for You」で彼の「Just Friends (Sunny)」をサンプリングした過去がある)とのコラボが実現したオープニングの「Footsteps」も熱心なR&Bリスナーにはぐっとくるものがあるだろう。出産に臨む彼女の精神状態が反映されたのか、全編を包むいつになく穏やかなトーンが心地よい。

Kehlani - Nights Like This (feat. Ty Dolla $ign) [Official Video]
Kehlani - Nunya (feat. Dom Kennedy) [Official Video]

 最後はモデルとしても活躍する女性シンガーのジリアン・ハーヴィとプロデューサーのアストロ・ロウからなるLion Babeの2ndアルバム『Cosmic Wind』。

Lion Babe『Cosmic Wind』

 今回はインタースコープから離れてインディペンデントでのリリース。ファレル・ウィリアムスの関与はないが、引き続きアストロ・ロウがメインで制作を担っている。そのため、チャカ・カーンやベティ・デイヴィスも引き合いに出されたデビューアルバム『Begin』の艶やかなブラックネスはまったく損なわれていない。ジリアンの持ち味が存分に発揮されたグラマラスなブギーファンク「The Wave」を筆頭に、グラウンドビート調の「Hit the Ceiling」、Lion Babe流トラップ「Reminisce」、Disclosureとのコラボ「Hourglass」の続編的内容のトライバルなハウス「Sexy Please」、60'sソウルへの真摯なオマージュ「So Long」など、実に多彩な内容。サビでPet Shop Boys「West End Girls」を引用したうえレイクォンのラップをフィーチャーするという「Western World」の雑多さも良いアクセントになっている。ジリアンが標榜する「Futuristic Nostalgia」を地で行く全15曲だ。

LION BABE - The Wave ft. Leikeli47
LION BABE - Western World ft. Raekwon

■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

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