小熊俊哉が選ぶ、2018年洋楽ロック年間ベスト10 今もアップデートし続けていることを強く実感

1.The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』
2.Kacey Musgraves『Golden Hour』
3.Yves Tumor『Safe in The Hands of Love』
4.Mitski『Be the Cowboy』
5.Shame『Songs of Praise』
6.Snail Mail『Lush』
7.David Crosby『Here If You Listen』
8.Sen Morimoto『Cannonball!』
9.Unknown Mortal Orchestra『Sex & Food』
10.Angelique Kidjo『Remain in Light』

 「洋楽ロックの年間ベストアルバム」というお題をいただいてから、しばらく真面目に考え込んでしまった。相変わらず各方面で「ロックは死んだのか?」と議論が交わされるなか、今年も難しい一年であったことは、ロック的なクリシェを周到に回避したArctic Monkeys、かたやブラックミュージック、かたやメインストリームポップに接近しながら活路を見出そうとしたジャック・ホワイトとMuse、ついに新作を出すことができなかったVampire Weekendというそれぞれの苦戦ぶりが物語っている。

 しかし、少なくとも自分にとっては、ロックが今もアップデートし続けていることが強く実感できる一年でもあった。そんなふうに思えたのは、The 1975の最新作があまりにも素晴らしかったからに他ならない。

The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』

 上掲したベスト10作については、今と向き合う姿勢や、ジャンルを前進させようという野心、ポジティブで開かれた表現、これからのシーンを担う若さや希望、過去を再定義するビジョンを意識しながら選んでみた。The 1975の最新作はそれらのポイントを全て満たしているだけでなく、ポストジャンル化が進行し、線引きが曖昧になった時代に対する最良のアンサーにもなっている。

 まず驚かされるのは多彩なサウンドで、ポストパンク、トロピカルハウス、ネオソウル、フォーク、ラウンジジャズと、一曲ごとにスタイルを横断していく。散漫に感じさせないのは、膨大な情報量を纏め上げるセルフプロデュース能力と、80'sポップ愛に根ざした持ち前のメロディセンス、表情豊かでエモーショナルな歌声が軸にあるから。そこにインターネット/SNS時代における空虚感を扱った歌詞が添えられることで、カラーの異なる全15曲は一編の物語へと昇華されていく。

 各方面でRadiohead『OK Computer』と比較されているように、壮大なるUKロックヒストリーも一手に引き受けながら、リル・ピープへの追悼やエモラップに対する目配せもあるなど、「語りたくなる」切り口がいくつも散りばめられているのも傑作たる所以だろう。日本でも本作のリリース直後から絶賛するツイートが飛び交っていたが、あんな光景を見たのは本当に久々だ。ここ数年のロックにおける閉塞感がウソみたいに、ポップかつ軽やかな仕草で「時代を映す鏡」としてのアティテュードを取り戻したのは、歴史的と言えるくらい大きな一歩だと思う。

Kacey Musgraves『Golden Hour』

 そんなThe 1975すら上回りそうなスケール感で、カントリーという保守的なジャンルを鮮やかに刷新したケイシー・マスグレイヴスは、この連載でも触れた未来的なサウンドや歌心はもちろん、女性やLGBTQコミュニティに捧げた歌詞も2018年の気分を反映していた。筆者がフジロックで取材した際に「LGBTQであろうと、そうでなかろうと、人間はみんな同じように愛を感じ、寂しさを感じ、自由に好きな人を選ぶ権利を持つべきだと思う」と語っていたのも印象深い。(参考:ケイシー・マスグレイヴス、Soccer Mommy、 Caroline Says……心洗われる“歌モノ”新譜5選

Yves Tumor『Safe in The Hands of Love』

 3位は坂本龍一のリミックス集にも参加したYves Tumorが、名門Warpからリリースした出世作。張り裂けそうなノイズ、相反するようにポップな歌メロ、生々しいインダストリアルビートが組み合わさり、刺激的な音像を提示している。セクシーで混沌としていて、現代的な生きづらさをエモーショナルに音像化したようなアルバムだ。

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