コダック・ブラック、ミーク・ミル、6ix9ine…モラルとクリエイティビティに挟まれるラッパーたち

XXXテンタシオン『SKINS』

 先ほども名前が挙がりましたが、今年はXXXテンタシオンが強盗犯に銃撃され命を失ってしまったり、マック・ミラーが薬物の過剰摂取によって自死してしまったりという悲しい事件に見舞われた年でもありました。昨年11月には、リル・ピープも薬物の濫用が原因となりツアーバスの中で息を引き取っています。XXXテンタシオンもリル・ピープも、サウンドクラウドラップという新たな潮流を率いていた新鋭ラッパーたちでした。彼らは、グランジやパンクのテイストをヒップホップと融合させ、まさにロックスター的な人気を誇っていたアーティストです。歌詞の中には悲観的/厭世的な描写も多いのですが、それがまた、若者たちの心を掴む要素になっていたのでした。そしてここ最近になり、彼らの遺作が相次いで発表されました。今年、傑作アルバム『?』をリリースしたXXXテンタシオンですが、彼は生前、『?』の他に、あともう2枚のオリジナルアルバムを準備中であり、どちらも短い尺の作品になるということを明かしていました。彼の死後、先日発表されたばかりのアルバム『SKINS』は計10曲、そして全長20分弱の構成です。カニエ・ウエストとBlink-182のドラマーであるトラヴィス・バーカーが参加した「One Minute」はネオパンクとも言える仕上がり。また、彼が生前に録音したボーカルは、すでにリル・ウェインのアルバム『Tha Carter V』やリル・パンプのシングルにもフィーチャーされています。彼が遺したもう一枚のアルバムも発表される可能性もあるそう。

XXXTENTACION - One Minute (Audio) (feat. Kanye West)
リル・ピープ『Come Over When You’re Sober Pt.2』

 そして、リル・ピープもまた、彼が生前にともにビジネスを行っていたエージェント、そして彼の実母やプロデューサーらの尽力により、アルバム『Come Over When You’re Sober Pt.2』がリリースされたばかり。前作よりもバーサタイルな輝きを放つ佳作であり、改めて彼がもし生きていたら……と痛ましい気持ちになってしまいます。

 両者のうち、特にXXXテンタシオンは、ネット上のビーフやソーシャルメディア上での過激な投稿、そして、性犯罪にも関与するいくつかの余罪を問われている身でもありました(彼の死後、過去のガールフレンドが訴えたDV容疑の罪は取り下げられました)。同時に、彼は地元の環境を変えるべく立ち上がろうとしていたところでもあったのですが、こうして悲しい結末を迎えてしまった今、コダック・ブラック同様、若いアーティストを取り巻く環境や、彼らのキャリアとアーティスト性をどのように守り、ディベロップしていくべきか、ということも今後はより語られていくべきなのかもしれません。ちなみにコダックはすでに故郷を離れ、カニエ・ウエストらも住んでいる西海岸の高級住宅地、カラバサスへ引っ越したと明かしていました。

Lil Peep - Cry Alone (Official Video)
シックスナイン『DUMMYBOY』

 また、現在、司法とキャリアの狭間にいるのが、テカシことシックスナイン(6ix9ine)です。これまでにインスタグラムなどで何度も炎上騒ぎを起こし、べテランから若手まで、あらゆるラッパーたちにビーフを仕掛けてきたシックスナインですが、麻薬の取引を行っていたとされるギャングとの関わりや、DV、殺人容疑などの罪に問われ、現在、係争中です。判決によっては30年以上もしくは終身刑になる可能性もあり得るとのことですが、そもそも、シックスナインは過去のインタビューで「当初はラッパーになる気は無かった。周りに“クールだから”と言われてやっただけ」だと言い、彼の弁護士も「ギャングスタ的な言動はラッパーとしてのイメージ作りのためであり、実際は無関係」だと証言しています。インスタグラム上には1,500万人以上のフォロワーがいるシックスナイン。彼はまだ22歳です。今となっては、彼がネット上の注目を集めるためだけに過激な行動に出ていた可能性も否定はできません。また、彼の様子をスマホのスクリーン越しに眺める我々リスナーや、彼の周りの大人のモラル(ちなみに今回、シックスナインとともに、彼が所属していた事務所の関係者も逮捕されています)についても、今一度考えねばならない時なのかもしれません。彼が今直面している状況は、ソーシャルメディアとヒップホップ、そしてギャングやバイオレンスといった要素がとても悲しい形で混ざり合ってしまった結果なのかなとも感じてしまいます。裁判沙汰の真っ最中にリリースされたアルバム『DUMMYBOY』は、ヒットシングル「FEFE」などにも後押しされ、リリースされるや否や、ビルボードの総合チャート最高位2位をマークしました。彼に判決が下された後、シックスナインは再びマイクを握るのかどうか、そして、ファンたちはどのようにリアクションをするのでしょうか。

6ix9ine, Nicki Minaj, Murda Beatz - “FEFE” (Official Music Video)

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
Twitter 
blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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