桑田佳祐、「ひとり紅白」完結を振り返る 「歌謡曲はいろんなことをごった煮に飲み込んだニューミュージック」

桑田佳祐、「ひとり紅白」完結を振り返る

 12月8日放送の『ニッポンハム ムーンライト・ミーティング 桑田佳祐のやさしい夜遊び』(JFN系38局ネット)。冒頭、11月29日、12月1日、2日と3日間の日程で開催された『Act Against AIDS(AAA)』のコンサート、『平成三十年度! 第三回ひとり紅白歌合戦』について、「“ひとり紅白”とは言え、大勢の方にサポートを賜り、AAAコンサートはこれにて完結と相成りました」と挨拶を行なった。約4時間、桑田がひとりで新旧の名曲55曲を歌い上げた同コンサートを総括するスペシャルな放送回だ。

 本放送の収録日は、最終公演の翌日。興奮冷めやらぬなか、桑田は観客とミュージシャン、ダンサー、スタッフに何度も感謝を伝えていた。「私は歌いたい歌を歌っているだけなんですけども、ひとり紅白の“ひとり”というのは、実に逆説的でね。いつもそうなんですけど、ひとりじゃできないんだよね。みんなで毎日コツコツ作り上げた結果でございまして、お客さんに笑顔になっていただけたらよかったと思うんですが、終わってみると寂しいですね」として、冗談めかして「第四回もやるか?(笑)」と語るなど、ライブ翌日とは思えないバイタリティを見せていた。

 最終日の公演は全国の映画館でライブビューイングが行われたこともあり、リスナーから多くの感想メールが届いていた。歌謡曲の歴史を見るようなセットリストに注目が集まるなかで、「『ハナミズキ』(一青窈)のアレンジが、初日と二日目以降で違った」などの裏側も明かされた。桑田曰く、「会いたい」(沢田知可子)から、「雪の華」(中島美嘉)、「海の声」(浦島太郎/桐谷健太)など、バラードが続く流れで披露される曲だったため、初日の観客の反応を見つつ、盛り上がるアレンジにはできないか、と考えたという。ただでさえ、55曲という大ボリューム。そこまでこだわるかーーと感嘆してしまうが、桑田が心から信頼するメンバーたちが、そのアイデアを見事に仕上げてみせた。筆者も最終日の公演を観る機会に恵まれたが、桑田が「本当に難しい。カラオケにつき合わせちゃってすみませんね」とおどけて見せた「雪の華」も含め、ただの一曲も「カラオケ」と感じた曲はなく、演奏の圧倒的なクオリティと、桑田の心からの歌唱に圧倒された。

 この日のラジオでは、「ひとり紅白」のセットリストからその原曲をオンエア。例えば、一曲目は松山千春の名曲「大空と大地の中で」だ。加藤登紀子「知床旅情」と合わせて、今年、大きな地震に見舞われた北海道にエールを、というコンセプトで選ばれていた。あるいは、内山田洋とクール・ファイブ「中の島ブルース」。桑田が“ヅラ山田洋”に扮して歌うのは「ひとり紅白」の恒例だが、今回は映像で、俳優の大泉洋が特別出演。桑田は「うちの原(由子)さんが、大泉くんの大ファンでね。僕も好きなんですけど、お願いしたら忙しいなか、時間を割いてくれて。コメディアンとしても俳優としても素晴らしくて、(ステージ上で)誰も俺を見ていないことに気づいたんだよね(笑)」と、その裏側を明かしていた。また、公演では『リオの若大将』の映像とともに届けられた「ある日渚に」(加山雄三)、桑田が天才と評する弘田三枝子の「人形の家」などにもリクエストが集まり、コンサートの余韻を伝える。

 そんななかで、桑田が「歌謡曲」について語った場面も印象的だった。「よく、歌謡曲というと、若い人は『スナックを思い出す』なんて言いますけど、私のイメージでは、いろんなことをごった煮に飲み込んだニューミュージックなんですよ。スナックのような狭い空間を思い出すのもわかるけれど、僕にとっては、テレビの広いスタジオで、フルバンドやオーケストラがいて、タキシードを着て、華やかなレコード大賞や紅白歌合戦があって、花をつけて歌う尾崎紀世彦がカッコよかったなあと」。そんな憧れとリスペクトが、一曲入魂の丁寧な歌唱に繋がっていたのだろう。

 今回の公演で異色だったのは、「真夏の夜の夢」から「ひこうき雲」と、松任谷由実の名曲が2曲続けて披露されたことだ。そのあとに西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A)」、そしてさくらももこの詞に桑田が曲をつけた「100万年の幸せ!!」が続いたことも、ファンの心に残った要因だろう。桑田の自宅で打ち合わせをしているときに、少しだけやろうか、と決めたのが「ひこうき雲」であり、そのあとに今年空に旅立った西城秀樹、さくらももこの楽曲が続いたのは偶然だったようで、リハーサルを見ていた原由子に「あの曲順はすごいね。涙が止まらなかった」と言われてはじめて、桑田はその意味に気づいたそうだ。「やっている当人は気づかなかったけれど、何かのお導きなんでしょうね」と語っていた。

 リスナーからは、「もう見ることができない歌手の方の曲も聴けて、桑田さんが夢の共演のステージを叶えてくれたように思います。特に、桑田さんが歌う美空ひばりさんの『愛燦燦』では、ステージいっぱいが歌の愛に包まれ、感動しました」とのメッセージも。桑田は「『愛燦燦』もいい曲だよね。コード進行とか、編曲だとか、楽器の使い方だとか、とにかく学べるわけですよ。それをちゃんと教えてくれるのが、片山くんであり、(コーラスの)TIGERであり、カースケ(ドラムスの河村智康)であり、なんでも知っている御大・深町栄さんだったり。とにかく、3回やらせていただいて勉強になりました」として、あらためて感謝を述べていた。

 他の誰にもなし得ない、笑いと感動のステージを作り上げながら、当然のように「勉強になった」と語る桑田佳祐。AAAがその役割を終えると同時に、「ひとり紅白」も完結するが、その経験は桑田の血肉となり、新たな作品に生かされていくのだろう。次週の放送も、引き続き本公演が特集されるので、音楽ファンは聴き逃さないようにしたいところだ。

(文=橋川良寛/写真=西槇太一)

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『ニッポンハム ムーンライト・ミーティング 桑田佳祐のやさしい夜遊び』

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