あいみょん×ビッケブランカ×平野義久……『獣になれない私たち』のセリフ以上に雄弁な音楽

 新垣結衣と松田龍平がW主演を務めて話題の水曜ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系/以下、『けもなれ』)。『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)への出場も決定した注目のシンガーソングライターあいみょんが手がけた主題歌「今夜このまま」は、彼女特有の毒と官能がリアリティとユーモアにベクトルを変え、その分しっかりとドラマに寄り添った作品になり、作家性の幅を発揮している。

ビールが大人のしがらみを洗い流す

あいみょん『今夜このまま』

 『けもなれ』は、新垣演じるOLの深海晶と、松田演じる会計士・税理士の根元恒星が、クラフトビールバーで偶然出会い、見ず知らずの他人だからこそ言える外では言えない本音をぶつけ合いながら、傷つき、癒やされ、また明日へと踏み出していく物語。脚本を『アンナチュラル』(TBS系)や『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)などを手がけた野木亜紀子が担当した、コメディタッチのラブストーリーではあるが、複雑に張られた伏線と、登場人物たちが抱えるさまざまな問題が少しずつ明らかになるたびに、胸の奥に切ない気持ちが広がっていく。

 その主題歌を歌うあいみょんは、2016年に「生きていたんだよな」でメジャーデビューしたシンガーソングライターで、強烈な個性を放つリアルで刺激的な歌詞の世界観が話題に。彼女にとって初となる書き下ろしドラマ主題歌「今夜このまま」は、自分の持ち味を保ちながらも、『けもなれ』の登場人物たちが“それでも”明日を生きるために、すべてを飲み干し洗い流してくれる爽快さと、本音を受けて止めて寄り添ってくれる温かさが感じられるものになった。

 社会に出ると思い通りにいかないことが少なくない。理不尽な上司、やる気のない後輩、恋人とも上手くいっていない。言いたいことはたくさんあるが、それを言ってしまえたらどんなに楽になることか。複雑な世間のしがらみに絡め取られまいとして、それでも必死に一本の糸をたぐり寄せながら生きていくのが、大人という生き物。そんな大人たちが、その日をリセットして再び明日と向き合うための必須アイテムのひとつがお酒だ。子どものころは、父親が酔っ払って帰ってくる姿を見るのは好きではなかったが、今では新橋のガード下で帰りに一杯なんていう気持ちがよく分かるようになった、という人はきっと少なくないはずだ。実際にドラマでは、登場人物たちの交流の場としてクラフトビールバーが設けられている。とりあえずの一杯が、鬱屈した日常から自分を解放し、そこからまた新しい物語が生まれるのだ。あいみょんの「今夜このまま」は、社会でさまざまなものと戦いながら自分が欲するものを追い求めていく大人の気持ちを、ドラマのキーアイテムである“ビール”になぞらえながら、登場人物たちの心情を絶妙に表現して聴かせている。

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