あいみょん×ビッケブランカ×平野義久……『獣になれない私たち』のセリフ以上に雄弁な音楽

雄弁でありながら没入感を損なわない音楽

 このドラマでは、そんなあいみょんが歌う主題歌「今夜このまま」をはじめ、ビッケブランカが歌う挿入歌「まっしろ」、平野義久(ナチュラルナイン)が手がける劇伴といったさまざまな音楽が、実にドラマの内容や展開とシンクロしながら流れる。白い雪の情景に重ねながら、過去の過ちもすべて白紙に戻せたらどんなにいいか、と歌うバラードの「まっしろ」。美しく奏でられるピアノとともに、どこか淡々としながらも、想いを胸に抱いたような歌声が、ドラマ中に時折訪れる胸を締め付けるような切ないシーンと実にマッチする。晶が流れに身を任せてキスをしてしまう時、彼女の胸の奥に広がっている複雑な心情を、「まっしろ」は妙に言い得ている印象だ。

 平野が手がける劇伴も同様で、必要以上に自己主張することはないが、場面において重要な役割を果たしている。たとえば「愛していれば乗り越えられますか? 苦しくても辛くても」と晶が気持ちを吐き出すシーンや、涙を押し殺そうとするシーン。田中圭演じる花井京谷が、黒木華演じる長門朱里に「愛せなくてごめん」と言って、無言で荷物をまとめるシーン。平野によるストリングスとピアノのしっとりとしたサウンドが、まるでセリフの行間を埋めていくように静かに流れ、さりげなく想像力を掻き立ててくれている。

 獣になれない人たちが、本性を剥き出しにて本音をぶちまける時。言わなきゃ良かったという後悔。とっさにしてしまったキス。二度と変えられない既成事実……。登場人物の気持ちが大きく揺れ動いた時、そこに流れる音楽には、話題性や奇をてらったアイデアは必要ない。そこにあって欲しいのは、邪念のないドラマのためだけにある音楽と、視聴者とドラマをより重ねるための架け橋となる音楽だけだ。その点であいみょんの「今夜このまま」とビッケブランカの「まっしろ」、平野義久の劇伴は、実に絶妙なバランスを持ちながら、セリフ以上に雄弁だ。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。

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