あいみょん「今夜このまま」を音楽的に考察 小沢健二、フリッパーズギターからの影響も?
小沢健二などの影響を感じさせるR&B的なクールさ
サウンドの観点から言えば、アコースティックギターの弾き語りを中心としたフォーキーなアレンジながら、ところどころR&Bやダンスミュージックを思わせるビートの太さが感じられるのが面白い。現在のJ-POPシーンでは、バンドであれシンガーソングライターであれ、ロック的なバンドアンサンブルが優勢な傾向があるように思う。その点、あいみょんはむしろR&Bを消化した90年代末のJ-POPに近いかもしれない。
その結果として浮かび上がってくるのが、サウンドの重心の低さだ。「今夜このまま」で一番耳に残ったのは、ドラムのチューニングの低さ。打ち込みで芯のある低めのキックやスネアによって、楽曲全体にぐっと迫力が出ている。過去の曲に目を向けてみても、楽曲・アレンジ共にR&B的なクールさを強調している「愛を伝えたいだとか」や、打ち込みのドラムやパーカッシブなサウンドがくまなくはりめぐらされた「満月の夜なら」もサウンドの重心の低さが際立っている。アレンジャーとして一貫して関わってきている田中ユウスケ(agehasprings)の采配によるところもあるのかもしれないが、小沢健二やフリッパーズギターに憧れていたというあいみょん本人の資質も大きいはずだ。
あいみょんは、シンガーソングライターとしての表現力はもちろん、ポップスの書き手としての才覚にも溢れたバランス型のミュージシャンだと言える。しかしそれは単に優等生的というわけではなく、J-POPという大きな看板を堂々と背負えるだけの力量を持つという点で、稀有な才能だ。「今夜このまま」の巧みさに酔いしれつつ、彼女の活躍に期待したい。
■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
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