NMB48 山本彩は涙を見せずにステージを去ったーー輝かしい未来が見えた卒業コンサート
山本がドレスで登場したアンコールは、彼女にとっての最後のソロ曲であり卒業ソング「忘れて欲しい」からスタートした。〈涙ひとつも見せたくはない/だって新しい旅立ちだから/僕の背中を追ってちゃダメだ〉というフレーズは、卒業発表時、私がいなくなることがグループにとっての起爆剤になると話していたことを思い出させるとともに、ここまで感きわまることはあったが山本が涙を見せていないことにも気づかされた。1期生楽曲「卒業旅行」「三日月の背中」では、上西恵、山口夕輝など1期生卒業生が集まり、同窓会を見ているような錯覚に陥った。
本編がサマーチューン「僕らのユリイカ」、花火が打ち上がる中での「ずっと ずっと」で終わったように、NMB48らしくアンコール後半も明るいラストへと向かっていく。山本の卒業シングル「僕だって泣いちゃうよ」は、ポップな曲調からもそのイズムが最も現れた楽曲である。現役メンバー全員で披露されるステージパフォーマンスは、山本を先頭に大きな逆三角形を描いたフォーメーションに。美しいパフォーマンスダンス、そしてドアを開け外の世界に踏み出す山本の境遇を表している。アンコールラストはNMB48初のオリジナル楽曲であり、定番のライブチューン「青春のラップタイム」で締めくくられた。曲に入る前に山本が叫んだ「NMB48は私の青春でした!」が選曲理由の全てだろう。メインステージに山本、サブステージにほかメンバーという構図で、山本へのサプライズメッセージを伝えようとするが、(おそらく)リハーサルなしのため、「ありがとうございました!」がバラバラになり、「そこ、揃え!?」と山本がツッコミを入れた一幕も、笑いを忘れないNMB48らしいラストとも言える。
「この8年はNMB48にすべてを捧げて生きてきました。それはグループに対する責任感だけじゃなくて、自分の意思として、やりたいから、NMB48が大好きで大切で何よりも守りたかったからです。(中略)卒業してからも、今いるメンバーの道しるべとなるように。これからも山本彩、そしてNMB48に期待してください」
これは、山本が「忘れて欲しい」の前にファンへ向けて話したMCだ。山本は8年間もの間、NMB48のキャプテン、センターとしてグループを牽引してきた。潰れてしまいそうな時も、ここまで走り続けることができたのは、NMB48で一緒に頑張ってきたメンバーがいたからだ。2016年に開催された山本にとって最後の参加となった『AKB48 45thシングル選抜総選挙』において、彼女は「一人でNMB48というグループを背負っているとは思ってはいません。私の周りには支えようとたくましくて、頼もしいメンバーがたくさんいます。魅力あるメンバーに目を向けていただけると嬉しい」と話していたのが今でも忘れられない。先日開催された8周年記念ライブ『NMB48 8th Anniversary LIVE』では9年目のNMB48を思い、東京・渋谷TSUTAYAに設置された「忘れて欲しい」の展開においても山本は、「9年目に入るNMB48もどうぞよろしくお願いします!!」というメッセージを添えていた。
青春の全てを捧げてきた山本がNMB48を離れるということは、新しい時代の幕開けであり、グループにとって輝かしい未来が待っていることを示すサインでもある。もちろん山本のシンガーソングライターとしての道もまた、輝いているに違いない。最後に、ステージから伸びる階段を一段、一段上がっていく山本の姿を見て、そう確信させられた。
(文=渡辺彰浩)
■セットリスト
01.初めての星
02.転がる石になれ
03.ワロタピーポー
04.イビサガール
05.ナギイチ
06.絶滅黒髪少女
07.RESET
08.約束よ
09.ジャングルジム
10.抱きしめたいけど
11.孤独ギター
12.HA!
13.結晶
14.最後のカタルシス
15.星空のキャラバン
16.365日の紙飛行機
17.夢は逃げない
18.Bird
19.Blue rose
20.嘘の天秤
21.野蛮な求愛
22.友達
23.俺らとは
24.プライオリティー
25.太宰治を読んだか?
26.僕はいない
27.カモネギックス
28.甘噛み姫
29.北川謙二
30.僕らのユリイカ
31.ずっと ずっと
<アンコール>
32.忘れて欲しい
33.卒業旅行
34.三日月の背中
35.僕だって泣いちゃうよ
36.青春のラップタイム