小野島大の新譜キュレーション 第18回
Tim HeckerからDisclosureまで 小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜の傑作/佳作
2カ月のご無沙汰でした。いつも通りエレクトロニックな新譜からご紹介します。
今月は傑作/佳作が多くとても全部は紹介しきれませんが、まず真っ先に挙げておきたいのがカナダの電子音楽家ティム・ヘッカー(Tim Hecker)が、日本の雅楽の音楽家と共演した新作『Konoyo』<Kranky>。タイトル通り、あの世とこの世の境目の濃密でサイケデリックな夢の中にたゆたっているような強烈な音響アートです。先日東京・渋谷でスタートした本作のツアーは、ここ数年味わったことのないような凄まじい非日常体験でした。間違いなく今年度のベストライブであり、ベストアルバムのひとつだと思います。ストリーミング配信でも聴けますが、できれば2枚組のバイナルで、できうる限りの大音量で聴くことをお勧めします。
デンマークのバンド、Lust For Youthのハネス・ノーヴィドの別ユニットKYOの通算4枚目『All The Same Dream』<Posh Isolation>は、ニューヨーク出身のシンガー、ジェウルーをフィーチャーしてのアルバムです。Lust For Youthは凡庸なシンセポップで特筆するものはありませんが、これはちょっと凄い。IDM/エレクトロニカとエレクトロニックR&Bを縦断するようなダークでエクスペリメンタルなトラックに、ジェウルーの呟くようなスポークンボーカルが乗り、鮮烈かつディープなサウンドを作り出しています。サーペンウィズフィートやアントニー、フランク・オーシャンといった人たちにも似た狂おしくエモーショナルな世界は必聴です。
日本人DJ/プロデューサーのShunji Saitoによるソロプロジェクト、Fugenn & The White Elephantsの5年ぶり新作が『Elevated Petal』<PROGRESSIVE FOrM>。生音と電子音が優雅に、流麗に交錯する美しく雄大なエレクトロニカ。ときおりエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーに通じるようなブロークンビーツを織り込みながらも、叙情的でメランコリックでスケールの大きな展開を聞かせます。作り込みの緻密さと丁寧さは見事で、以前よりもエキセントリックな面が薄れ、よりシネマティックでドラマティックになって、聞きやすくなったと言えるでしょう。プログレファンにもゴシックサイケデリックな女性ボーカルファンにもお勧めです。
ベルリン出身のペーター・ケルステンことローレンス(Lawrence)の2年ぶりの8作目が『Illusion』<Dial>。相変わらず非常に繊細で洗練されたディープ〜テックハウスを展開。音数を絞ったミニマルなサウンドながら、ふくよかで広がりのある空間表現を実現しています。ベテランらしい手練れの職人芸に酔いたい1作。
UKテクノの奇才パウエル(Powell)の新作『New Beta』<DIAGONAL>はvol.1とvol.2の2部作。いずれも限定バイナルのみでリリースされていたものが配信リリースされたものです。80年代ノイエ・ドイチェ・ヴェレを思わせるチープでジャンクでエクスペリメンタルでマッドな電子音が交差するレフトフィールド・テクノ最前線です。MVもクルってますね!