山手線をライブハウスにした、62分間のパーティトレイン 「62 MINUTES YAMANOTE LOOP」

山手線をライブハウスにしたパーティトレイン

 その人混みとフォトスポットを抜けて6号車へ。ここではOmodaka a.k.a 寺田創一が、巫女衣装と広い仮面を被った異形の姿でライブを繰り広げていた。8bitのチップチューンとハウスビートが融合した独自のサウンドと、ハイテンションなパフォーマンスに、オーディエンスが同じくハイテンションで応えている。「ひえつき節」「ギャラクシー刑事」などを披露した後には、観客にお菓子を配り、ペンライトのように振ることで、一体感を生み出したかと思いきや、おもむろに「特別ゲストを紹介します!」と言って、懐かしのゲームボーイカラーを掲げ、カオスパッドでトラックを鳴らし、オーディエンスにもそれを弄らせるなど、さらに混沌としたステージを繰り広げていた。

Omodaka a.k.a Soichi Terada by Suguru Saito / Red Bull Music Festival Tokyo 2018

 一通り楽しんで、改めて車内を見回してみると、いつもはスマホを眺めたり、寝たり、ぼうっとして過ごしていた車内の風景がまるで違うものに見える。満員電車のように混雑している車両の行き交いも、皆が声を掛け合って穏やかに行き来している。大声で騒いだり、座席の上に立ってはしゃいでいても、誰も目くじらを立てるものはいない。通り過ぎる駅のホームの人々も、不思議な顔で見ていたり、手を振ったりしている。車内からもそれに応えて笑いながら手を振り返す。いつものストレスや疲労感はどこにもなかった。電車に乗ることが楽しく感じられたのは、東京の街がこんなに鮮やかに見えたのは、いつ以来だろう。

 62分間の山手線の旅は、間違いなく魔法にかかった時間だった。音楽とそれを介しての人と人のコミュニケーションが、日常とは違う感情を生み出していた。この時間を過ごした人は、明日からいつもの山手線に乗っても、車窓の先に違う風景を見るのではないだろうか。日常にレイヤーとして覆い被さった非日常が、その後の日常を塗り替える。そういう奇跡を感じられたパーティトレインだった。

(文=石川雅文)

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