OxTと考える、2人とアニソンを取り囲む“壁”の正体 「業界自体を一度リブートした方がいい」

OxTとアニソンを取り囲む“壁”の正体

 2017年に大ヒットを記録し星野源や平井堅までもが絶賛した「ようこそジャパリパークへ」の作詞・作曲・編曲を担当したミュージシャン・オーイシマサヨシ。かたや、アニメ『けいおん!』で一大ムーブメントを巻き起こし、最近では会社を立ち上げたり自身もアーティストとして活動する気鋭のクリエイター・Tom-H@ck。この2人がユニットを組めば向かうところ敵なし! 天下は2人の手の中に!

 ……と思いきや、どうやらそうでもないらしい。話を聞くと、彼らの周りにはどことなく「壁」のようなものがある。

 彼らを取り囲む「壁」――。

 それは縮小していくエンタメ業界が背負った逃れられない宿命なのかもしれないし、現実的でビジネスな問題なのかもしれない。あるいは、アニメという文化に対する人々の偏見なのかもしれないし、またあるいはあらゆる境遇を重ねた事で到達したある種のさとりの境地なのかもしれない。単純に、誰もが経験する人生の浮き沈みの一つの通過点に過ぎないのかもしれない。いや、恐らくそのすべてなのだろう。

 しかし、彼らは今、その選んでいる姿勢に対して確固たる信念を持っている。そうすることこそがOxTというユニットにとってのベストの方法なのだという強い確信を持っている。当記事に描かれているのは、決して走り過ぎず、アクセルを踏み過ぎることのない、”新大陸”への彼らのゆるやかな旅のひとコマだ。(荻原梓)

「日本でもっとやることがある」(オーイシ)

オーイシマサヨシ(左)とTom-H@ck(右)

ーー前回のインタビュー【OxTと考える、“遊び心がなくなった”アニソンの現状&オーイシが味わった“流行という混沌”】、かなり反響がありました。

オーイシ:見出しの発言、僕が言ってるみたいに見えてないですか?(笑)。

Tom-H@ck:大丈夫だよ、今回もこういう話をしていきたいよね。

オーイシ:そうか……最近Tomくんと話してて面白いなって思ったのは、「もう音楽で食べていけなくない?」っていう話だけど。

Tom-H@ck:補足すると、2人だけの話ではなくて、業界全体がみんなそう言ってるって話で。業界の友人とも話してたんですけど、これまでの音楽業界のなかでも、アニメ音楽はお金をちゃんと儲けられるシステムだったんですよ。例えば映像に音楽が使われると、大きいパーセンテージ配分が著作者に入ってきて。それだけでもお金が回る市場だったんですけど、最近はそもそもDVDやBlu-ray自体も売れなくなってきている。所詮フィジカルなので、CDと同じ道を辿っているんですよね。

 ただ、僕たちはそう言いながらも安堵しているところがあって。何故かというと、マンパワーでなんとかなってるんですよ。人ひとり食わせていくのは余裕なんです。だけど会社の人たち、メーカーの人たち、何十人とか何百人でひとつのプロジェクトを回すのは、音楽だけに関して言えばもう無理なんですよね。そういう話が現実化してきてて、でもそれを口に出して言わない人がほとんどだと思うんですよ。特にJ-POPは、フェスに出るようなバンドの中にも全然音楽で食えてない人もいるだろうけど、そんなカッコ悪いとこ見せたくないだろうから。でも、それをマンパワーで変えられる世の中ではないから、みんなでちゃんと声を上げて「この業界やばいね」って団結していった方がいいと思うんですよ。

オーイシマサヨシ

オーイシ:一度リブートした方がいいとは思うよね。業界自体を見直すというか。僕はいろんな経緯があって18年間のキャリアを右往左往してて。事務所に食べさせていただいてた時代もあったり、レーベルさんに食べさせていただいてた時代もあったり、フリーランスになった時代もあったり。色んなところを渡り歩いてきたんですけど、そんな僕から言わせていただくと、無駄遣いがやっぱり多い。それと音楽を作ってる本人に行き渡るパーセンテージの低さ。クリエイターさんたちのやり甲斐がなくなってしまったら、どんどんみんな擦れていっちゃいますし。

 いま、僕は事務所には所属してるんですけど、どっちかって言うと事務所の人間を食べさせてると思えるくらいのパートナーシップを結んでいて。昔みたいに事務所に雇われてるとか、レーベルに雇われてるという気持ちはさらさら無くて。そういう作家さんなりアーティストさんなりが、これからどんどん増えていくのが今後の業界の流れなんじゃないかな。

Tom-H@ck

Tom-H@ck:僕の周りでも、オーイシさんみたいな形で独立してアーティストを活動やった方が、上手くいってる人は多いんですよ。それはお金の面でも、クリエイティブな面でも、有名になれたとかって面でも。時代的には徐々にそうなっていくんじゃないのかな。勘違いして欲しくないのは、「一人が良い」と言っているのではないこと。メーカーさん、レーベルさん、アーティスト本人も含めて窮屈な古いやり方をずっと続けていくべきじゃないと。

オーイシ:そうやってアーティストがレーベルや事務所とWIN-WINの関係を築けるようになっていければいいですよね。

――その「業界が変わる」という話題に関連して、前回のインタビューの2人の言葉でとても印象に残っていることがありまして。それが、

「現状は、日本のアニメという文化を、日本人が自らの手で腐らせちゃってるという、物凄くもったいないことをしている。もっと自信満々にやっていいと思うんですよね」(Tom-H@ck)

「世界に誇れるアニメという文化を持っているのも日本なんだけど、自分から閉じ籠っていってしまうその感じ、それも言ってしまえばジャパニーズカルチャーなんだよね」(オーイシ)

――という……。

オーイシ:偉そうなこと言ってるなあ!

一同:(笑)。

――すごくいい言葉だなと思いまして(笑)。それでちょうど今年『けいおん!』関連楽曲がサブスクリプションサービスで解禁されたり、他の作品も続々と解禁になっていたり、アニソンが国内からだけでなく海外だったり、リアルタイム世代じゃない人たちからもアクセスしやすい状況になっていますよね。こうした「アニソンが世界に開かれて」いってる現在の流れをどのように見ていますか?

Tom-H@ck:実際海外へ行ってOxTやMYTH & ROIDでライブすると、自分たちのマニアックな曲まで海外の人が全部知ってるんですよ。それって凄いことじゃないですか。1,000人~1万人がひとつの会場に集まるわけですよ。日本で売れてなくても全世界の人を集めたら何万人って規模のマーケットになる。それは本当に良いことだと思う。ただ、最近思うのはやっぱり、その次を考えなくちゃいけないなって。

――その次?

Tom-H@ck:とはいえ「ニッチ」なんですよ、各国におけるアニソンって。まぁどの国でも所謂「サブカル」っていうものはそういう存在だってことで片付けられることでもあるんですが、「アニメ好きな人ってこういう人が多いよね」という固定観念が海外でもあって、それがどうしてもアニメカルチャーがメインストリームになれない「壁」になっていて。それをほぐしていきたいなって思うことがあるんです。そういった意味では、『けいおん!』みたいな作品が聴きやすい状況になるっていうのは、その作業のひとつなのかなとは思いますけど。

オーイシ:今の海外のライブやイベントの話で付け加えるなら、現状では経費を考えると意外と身入りが良くないんです。物販が売れなければ赤字で帰って来なくちゃいけないものもあったり。ただ、ファンはいるんですよ、めちゃくちゃ。僕たちのことを求めてくれてる方々の声はたくさん聞こえてくるんです。なので、すべてを包括してコーディネートしてくれる団体とかイベンターみたいなものがないと、結局今のままでは日本と海外を行ったり来たりしてもアーティスト側が息切れするだけと思いますよ。あと今の状況では、海外に行ってライブすることが日本向けのプロモーションで終わってしまってる感じがしていて。

――逆輸入的な。

オーイシ:そう。2パターンあるんですよ。ひとつは、本当に未来を見据えて世界で絶対に活躍しようと海外に打って出てるパターン。もうひとつは、レーベルとかプロダクションの建前でとりあえず行ってるパターン。

 実は僕、2018年はソロでの海外仕事を全部お断りしてるんです。ただ、OxTだけは楽しいから行ってるんですけど。ドメスティックに活動するクリエイターやアーティストも絶対に必要だと思うし、僕はそろそろ40歳に近いし、血気盛んに世界にチャレンジするみたいなのが薄いんです。もう少し足場を整えて、石橋叩きまくってから世界に飛び立ちたいなって思っていて。

Tom-H@ck:本当その通りだと思いますよ。

オーイシ:Tomくんは世界的にも通用する音楽を作ってたり、今回の『オーバーロードIII』のオープニングテーマもエンディングテーマもめちゃくちゃかっこいい。絶対に海外でも人気は出るんだろうなって思ってるんです。でも、単にJ-POPの延長で海外に行くようなのは僕はあまりオススメしないですね。やることを作るためにそれをやってるようなイメージがある。

Tom-H@ck:なんでもそうですよね。海外話だけじゃなくても、格好付けのためだけにやることって世の中多いじゃないですか。

オーイシ:より自主性を持って活動すべき、と言い換えられるかも。本気で本人が海外で活躍したいとか、海外で日の目を見たいという気持ちがあるならトライアルすべきですけど、雰囲気に流されるがままに行くぐらいだったら、日本でもっとやることがあるんじゃないかな、と思いますね。

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