MYTH & ROIDが考える、アニメオープニングとグルーヴの融合「わざと金物を極端に少なくした」

ミスドが考えるアニメOPとグルーヴの融合

 Tom-H@ck率いるクリエイター集団・MYTH & ROIDが7月25日、7thシングル『VORACITY』 をリリースした。表題曲はTVアニメ『オーバーロードⅢ』(TOKYO MXほか)の主題歌に起用されており、2代目ボーカルのKIHOWにとっては初めてのアニメオープニングテーマだ。前作を“炎上覚悟”で作ったというTom-H@ckは今回この曲にどんな意匠を凝らし、KIHOWはそれをどう歌い上げたのか。2人に話を聞いた。(編集部)

「J-POPはシンバルやハイハットなどの金物を使いがち」(Tom)

KIHOW

ーーTVアニメ『オーバーロードⅢ』のオープニング(OP)テーマ「VORACITY」は、MYTH & ROIDにとって同シリーズ4回目の主題歌担当ですが、OPは初めてなんですよね。そして、KIHOWさんにとっては初めてのアニメOP曲でもあると。

KIHOW:OPとエンディング(ED)のどっちがいいという話ではないんですけど、OPの役割って観る人の気持ちを盛り上げた状態でストーリーのはじまりを迎えられるようにするものという印象があるので、自分の歌った曲がはじめにあって、物語の導入というか盛り上げ役みたいなものを担えるのはすごいなと思っています。

ーーOPのほうが疾走感や力強さを求められやすい傾向はありますよね。

Tom-H@ck(以下、Tom):レコーディングの際に、曲に合わせてこう歌おうという話はしたかもしれないですけど、OPだからこうしようとディレクションしたボーカルではないですね。

ーーMYTH & ROIDの曲すべてにいえることなのかもしれませんが、特に「VORACITY」は色んな音が入っているにもかかわらず、すごく綺麗にまとまっている印象を受けました。なんというか、KIHOWさんの声を最大限に活かすための“ボーカルが通る花道”がかなり丁寧に作られているというか。

Tom:KIHOWの声は、女性ボーカルのなかでは声帯や音域的な太さ・存在の大きさがあるので、言ってもらったような“花道”、つまりボーカルの存在する周波数帯にあまり他の音は入れていないですね。あと、ギターのパワーコードを使わずにルートを押さえて、ただ単に歪んだ音を出すだけではなく、オクターバーを使って上と下に倍音をつけて、厚みのある音を鳴らしてるんです。

Tom-H@ck

ーーだからギターが終始しっかりと楽曲の基盤を下支えする作りにもなっていると。その厚みを支えるベースに関しては、シンセベースをギターとユニゾンさせる形で作っているように聴こえました。

Tom:そうです。アナログのシンセベースを使ってて、さらに厚みを出しています。全体の作りとしても、アナログ的な太さをポップスの類でここまで突き詰めてやっている人は国内でも少ないんじゃないかという気がしています。

ーーKIHOWさんからすると、その花道が作られたうえで歌っているわけですが、歌いやすさのようなものはありましたか?

Tom:歌いやすさはないでしょ。ただただ難しいよ(笑)。

KIHOW:大変でしたね(笑)。要所で声のトーンや高さを変えたりして、切り替えが激しい曲なんですよ。そのぶん聴いている方にとっては飽きがこないでしょうし、繰り返し聴けばきくほど「ここはこういう風に歌っているな」と気づいてもらえるんじゃないかと思います。

ーー激しい曲なのに、声の切り替わりや抑揚のつけ方がはっきり聴こえてくるのは、たしかにこの曲の特徴ですね。あと、個人的にはビートの作り方が好きで。ハードな楽曲なのに、タムで刻んだシャッフルビートを使うというのは新鮮に聴こえます。

Tom:今回の曲は本当にネタの宝庫なんですけど、リズムで使っている音が、ハリウッドの現場でも使われているパーカッションと同じ音源なんですよ。日本でも少数の音楽家の間で広まっていて、僕自身もハリウッドに知り合いがいて、情報交換なども積極的にやっているので。

ーーああ! それは横山克さんから聞いたことがありますね(横山克が語る、『ガンダム 鉄血のオルフェンズ』劇伴の音楽的実験と仕掛け )。

Tom:でも僕の場合は劇伴ではなくポップスに使っているという。エンジニアさんにアレンジが完成する前に「全部の音のバランスを整えるうえで、ドラムのドコドコ感をバキバキに出したいんです」とお願いしていたり。リズムパターンに変化をつけるというのは、音楽的な挑戦でもあるんですが、音楽に詳しくないリスナーも「リズムが変わっている」ことはハッキリわかるし、そこを気持ちいいと言ってくれるんですよ。だからメロディを良く聴かせたいときには取り入れる手法でもあって、今回は特にそこの強いリズム感を意識しました。

ーー聴いた印象として生っぽく壮大な感じがするのは、その音源を使っていたからというのも大きいんですね。シンバルやハイハットといった金物が極端に少ないのは、おそらく意図的ですよね?

Tom:そうなんです。一番高いところにあるのはKIHOWの声にしたくて。日本のJ-POPって特にシンバル・ハイハットなどの金物の音を大きく使いがちで、それでグルーヴを作るのが、アレンジの基本だと染み付いているところもあるんです。でも、今回はわざと金物を極端に少なくして、高いところも切るようにしたんですよ。ドコドコ感を出すのに金物は邪魔になるというのも大きいです。ハイハットはスピード感を出したりグルーヴを変えるときに使うんですけど、今回は刻んでいるタムの音がその役割を果たしているので、無理に入れる必要はないかなと。

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