ジョルジャ・スミス、ジェイミー・アイザック……2018年に更新されるアーバンメロウ4選

KIRINJI

KIRINJI『愛をあるだけ、すべて(初回限定盤)(DVD付)』

 今のポップミュージックと向き合うこと。そのなかで自分らしさを見失うことなく、代替不可能な表現を打ち出すこと――ここまでの3作と同様、アクチュアルなサウンドを獲得するための強い意志が、KIRINJIのニューアルバム『愛をあるだけ、すべて』からも感じられます。2016年の前作『ネオ』でギアを入れ替えたバンドは、ここで生演奏とエレクトロニクスの融合をさらに推進。筆者が行ったインタビューで、リーダーの堀込高樹は「今のポップスと並べても違和感のない音にしたかった」と語っていましたが、メロウな透明感とファットな音圧を兼ね備えたプロダクションに加えて、The Weekendを意識した「新緑の巨人」、ドレイクの「Passionfruit」にインスパイアされた「silver girl」のように、作曲/アレンジ面でも同時代のアーティストからの影響を貪欲に取り込んでいます。

 さらに、現行のヒップホップ/R&BやEDMを意識した邦楽勢の多くが、上っ面のコピペか替え歌くらいに落ち着きがちなのに対し、KIRINJIは自分たちのポップスと矛盾のない形で血肉化しているのも特筆すべき点。「(古い)ポップスや歌謡曲からの影響を殺すことなく、今の感じにアップデートさせようと心掛けました」と堀込も語っていますが、人生のタイムリミットを憂いる行き場のない感情と、容赦なく回転し続ける時計の針をディスコティークなダンスサウンドで表現した「時間がない」や、酔いつぶれた女の子の千鳥足を、J・ディラ〜グラスパー以降に普及したリズムのよれで再現した「After the Party」はその真骨頂でしょう。これが通算13作目ですが、KIRINJIは間違いなく今がベストだと思います。

KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』アルバム・ダイジェスト映像

参考:MIKIKI/KIRINJI 『愛をあるだけ、すべて』堀込高樹、全曲解説――バンド再出発から5年、〈バンドっぽくないもの〉が出来た理由

TAMTAM

TAMTAM『Modernluv』

 最近のKIRINJIが好きな人にもオススメしたい四人組がTAMTAM。アーバン〜ジャズ~サイケ~ラウンジなどを自在に越境し、新境地を切り拓いた2016年の前作『NEWPOESY』も傑作でしたが、先ごろ公開されたオフィシャルインタビューで「僕らには過去を嗜好する気持ちが極端にない」「新しいビートでかっこいいことをやるほうが文化的にも正しい」と清々しく語っていたように、他の追随を許さないオンタイム思考はさらにエスカレート。その経過報告と言わんばかりに、新作『Modernluv』でも音楽性のレンジを大幅に拡張させています。

 摩訶不思議で躍動感のあるアンサンブルが印象的だった前作に対し、ニューアルバムを牽引するのは硬質なビートと抑制の効いたグルーヴ。ラッパーのGOODMOODGOKUを迎えた気怠くラグジュアリーな「Esp feat. GOODMOODGOKU」、TR-808のビートに乗せて入江陽と歌うホーリーなデュエット「Sorry Lonely Wednesday feat. 入江陽」といったR&B調から、人力アフロビートを交えたトロピカルハウスの独自解釈「Morse」、密室的なダンスホールにクラシカルな弦のフレーズが重なり合う「Nyhavn」などのフロアライクな楽曲まで、バントの枠に囚われない音楽的冒険を展開しています。

 このように、どれだけ音で攻めても日本語ポップスとして成立しているのは、歌とリリックがずば抜けて秀逸だから。フェミニンな情感とその裏に隠れた諦念、遊び心に富んだ言葉選びに唸らされる「Goooooo」は、マンブルラップを意識したという愛くるしいフローも併せて本作のハイライト。過剰にエモーショナルでありながら、それを爆発させるのではなく、さりげなく行間に滲ませるようなボーカルもまた唯一無二でしょう。KIRINJIとTAMTAMの対バンが実現したら最高だなー、それはすごく気が利いてるなー、と勝手なことを言い残して本稿を締めようと思います。

TAMTAM - Esp feat. GOODMOODGOKU

参考:TAMTAM Tumblr/『Modernluv』オフィシャルインタビュー

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部、音楽サイ『Mikiki』を経て、現在はフリーで活動中。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

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