Mr.Children、膨大なカタログ楽曲から浮かぶ様々な側面 サブスク解禁を機に紐解く
「社会を撃つバンド」としてのミスチルを知る
歌詞に関しては、「社会の欺瞞」について積極的に言葉を紡ごうとする姿勢も見逃せない。政治への言及や風刺精神を前面に押し出すことが今以上に少なかった印象のある90年代において、たとえばアメリカの庇護の下で平和を享受する日本について歌うようなスタンス(「傘の下の君に告ぐ」1997年3月、『BOLERO』収録)は異色だった。「日本で一番売れているバンド」がそういったアプローチをとっていたことは、ここ数年で改めて目立ちつつある社会問題にコミットするミュージシャンに、程度の差はあれ影響を与えているのではないだろうか。
他にもイラク戦争と国内での子供が巻き込まれた事件に触発されて生まれた「タガタメ」(2003年9月からラジオ限定でオンエアされた後に2004年4月『シフクノオト』に収録)などがあるが、一方で「フラジャイル」(1995年8月、「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」のカップリングとして収録)や「LOVEはじめました」(2002年5月、『IT'S A WONDERFUL WORLD』収録)のように、短絡的な社会正義を相対化するようなスタンスの楽曲があるのも指摘しておきたい。
「良質なポップバンド」としてミスチルを捉えなおす
今でさえ日本のポップスのど真ん中にいる存在として語られるミスチルだが、デビュー当初は「渋谷系」の文脈に位置づけられることもあるような「メインストリームとはひと味違うエッジーなバンド」だったことも忘れてはならない。ブレイク前の彼らの作品には、ギターポップテイストの「Mr. Shining Moon」(1992年5月、『EVERYTHING』収録)や「グッバイ・マイ・グルーミーデイズ」(1992年12月、『Kind of Love』収録)、ファンク調の「and I close to you」(1993年9月、『Versus』収録)など、昨今のインディーシーンから飛び出したバンド群ともリンクするような楽曲が多数収録されている。
「最新モードのミスチル」に触れる
セルフプロデュースへの移行やマネジメント体制の変更など、バンドとしての自由度が増している最近のミスチル。素朴な中に切ない雰囲気が感じられる「ヒカリノアトリエ」(2017年1月)やスケールの大きなロックソング「himawari」(2017年7月)などからは、バンドとしての大枠の音楽性は担保しつつ、90年代に彼らがシーンに飛び出してきたときに近い瑞々しさが強く感じられる。この先どんなアウトプットを見せてくれるのか、非常に楽しみである。
ここで挙げた切り口と作品はあくまでもいちミスチルファンによる恣意的なチョイスであり、おそらく濃いリスナーの数だけこういった「おすすめ」が存在するはずである。本稿を起点として、各人の「ミスチル論」を展開していただけるのであれば、書き手としては望外の喜びである。
楽曲がサブスクに解禁されたことで、ミスチルにまつわる議論をSNSなどで展開するハードルは間違いなく下がった。ここ20年ほどの日本のポップスのひとつの基準点とでも言うべきこのバンドの楽曲に改めて触れる人が増えることで、Jポップという文化に関する理解がより深まることを願う。
■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。