小袋成彬が明かす、“シンガーソングライター”としての目覚め「洋楽を焼き増していくのが無理だってわかった」

小袋成彬、“SSW”としての目覚め

「宇多田さんは歌詞にすごく厳しい方」

ーー基本的には言葉と音楽ってどっちが先に出てくるんですか。

小袋:言葉です。

ーーでも、プロデュース業は音をいじることが多くないですか?

小袋:いや、僕が編曲することって2割くらいしかなくて、基本的には小島と酒本なんですよ。僕はDTMを使わなくて、メロディを考えたり、詞曲に徹することが多かったんですよね。だから最初から言葉ありきなんですよ。スタイルとしても一緒にスタジオに入って、セッション的に作るとかじゃなくて、「じゃ、俺は詞曲作ってくるから」って別ブースに行ってメロディ作ってあとで組み合わせたりするだけで。小島くんは俺より持っているサンプル数も多いし、彼がエンジニア的立ち位置になることが多いんですよ(笑)、僕は彼がいないと全然できないし、逆に彼は歌が歌えないから俺がいないとそういうのできないし。

ーーアイデアがいっぱいあって、モジュールで作ったものを組み合わせた割には、歌とメロディの印象の方が強い作品ですよね。何なら全部弾き語りでも成立するような。あと、全体的にエモーショナルな印象も強いんですが。

小袋:僕はトラックがほぼ完成した状態で歌入れに入るんですよ。歌入れは3回か多くて4回しか入らない。歌入れだけはモジュールだけじゃなくて、一筆書きで歌いきるんです。何回でも歌えるんだけど、3回に集中して録らないとダメだと思っているから、他のアーティストのプロデュースをやっていても「ここだけうまく歌えるまで何回も録りなおす」っていうやり方が腹立たしくて、それはやりたくないなと決めていたんですよ。結果、エモーショナルな部分がすべて歌に集中していると思います。

ーー歌だけは一気に歌いきる、というのは面白いですね。

小袋:感覚を空けて、一回終わったら精神を統一して、少し時間を空けてから歌ってという流れでした。

ーーだから、一筆感があるんですね。アルバム曲の中から最初に世に出てきたのが「Lonely One feat.宇多田ヒカル」だったので、ものすごい凝ったものというか、ああいうとんでもないアレンジが次々に出てくるのかなと思って構えて聴いたら、歌とメロディが強くて、逆にビックリで。

小袋:そもそもシングルを切ろうと思ってやってないんですよ。「Lonely One feat.宇多田ヒカル」はスタッフが決めたんです。でも、あれはこのアルバムを表すものではないと、むしろ歪なものだからと、少しだけ反対したんですけど、プロに任せようと思って、最終的にはお願いしました。

ーーそういえば、小袋くんのメロディって、意外とJ-POP感がありますよね。

小袋:そこからは、もう逃れられないですね(笑)。

ーーその逃れられなさも含めて、「この作品では曝け出したんだな」って思ったんですよ。だって、そうじゃないものにしようと思えばできちゃう人なわけだから。

小袋:いろいろやっていくうちに、洋楽を焼き増していくのが無理だってわかったんですよ。3年前くらいから、いろんな手法を試したんだけど、母音がはっきりしていて、音節がない、一つの発した言葉で一文字しか表せない、日本語の独特なものって、玉置浩二さんみたいな歌い方じゃないと表現できないんですよ。僕は自分がやっていることはフォークソングの延長だなって思っていて。南こうせつさんのようにいきなり語りだしてから歌うとか、頭をすっごい空けてから後ろに詰めるとか、そういう感覚が日本語のグルーヴとして染みついているから、それを念頭に置きながら歌っていたんですよ。

ーーそこは意識的だったんですね。

小袋:日本語的なグルーヴをあえて出そうと思ってはないんですけど、日本語で自分のなにか身体的なリズムを出そうとしたら、そうなるしかないとは思っていたんですよね。

ーー宇多田さんは今回、プロデューサーとしてどういう風に作品へ関わったんですか。

小袋:宇多田さんは歌詞にすごく厳しい方で、僕がメロディを適当にごまかしたり、歌詞の表現がユルいと、バシバシ指摘してくるんですよ。「これは最後まで考えてるの?」と聞いてくるんです。僕は完成したと思って聴いてもらっても「まだ」と言われたり。そういう押し問答がずっと続いて、嫌いになるんじゃないかという時期もあったんですけど(笑)、次第にそこにはちゃんとメソッドがあることに気づいたんです。「ここにこういう言葉を使えばこういう印象があるだろう」とか、宇多田さんは他者の視点を見る力があまりに優れているんですよ。僕は彼女がいないと歌詞がここまでうまく書けなかったと思うし、独りよがりになっていたと思いますね。

ーー基本的に自分の中から出てきたもので作っているけど、このアルバムに関しては宇多田さんが唯一の他者だったというか。

小袋:そうですね。宇多田さんは「これは誰に対して歌っているのか」というのを全く聞いてこないんですよ。でも、「私にとってはこれは母の曲なんだけど、私だったらこういう歌詞を書く」と言ってくる。僕が自分で歌詞を書いて、元カノとか昔の友達とか家族のこととも言わずに出すと、それを悟っているのか、明確な指摘をしてくるんですよ。わざわざそういうものを言葉で説明するまでもなく、自分のものとして個人化して、それが適切なものかどうか判断する。だから、芸術家としてすごいなって思いました。

ーー宇多田さんってそこまでプロデューサーっぽいんですね。

小袋:彼女はずっとプロデューサーだと思います。僕なんかよりもずっと。人がどう思うとか、そういうことを考えることに長けている。宇多田さんの曲は普遍性がある歌詞って言われますけど、僕はそういうのは興味がなかったんですよ。僕がやっていたのは個人的なものの中から普遍性を見つけていくっていう作業に近かったんですけど、彼女はできてきたものに対して、どう人が受け取るかってことに関してしっかり考えて、普遍性を持たせられるポップスのミュージシャンって感じでした。

ーー他に感じたことは?

小袋:ベースはスーパーローを入れたりしているんですけど、そこに関して宇多田さんは何も言わなかったですね。僕が全く意に介してないところを見てくれたし、僕が固執しているところに関しては好き勝手やらせてくれて、ちょうど良かったです。

ーーだから、結果的に普遍性を目指したような印象を受けるのかもしれないなと思いました。ちなみに小袋くんは、山のように現行の音楽を聴いているわけじゃないですか。そのあたりの影響は、どのくらい出ていると思いますか。

小袋:食い漁ってますからね。どのくらい、か……結構入ってると思うんですけど。

ーー僕は「このぐらいしか現行のトレンドを入れてないんだ」という印象でした。非常に慎ましく聴こえるというか。同時代性はあるけど、トレンド感が強くない印象の方が強い。だから普遍性があるなって。

小袋:じつは先日、ゴスペルを観に行ったんですよ、外国人の人がやってるマジなもの。神の前で涙を流す人がいて、思わず笑みが溢れるくらいすごいんですよ。それを見た時、音をトレンドとして取り入れるおこがましさみたいなものを感じました。ああいうものをチャンス・ザ・ラッパーやケンドリック・ラマーが小さいころから子供ながらに経験していて、疑問を持ったりしているものを、表層だけかいつまんでやるのは失礼じゃないかと。だから、あまり海外のトレンドを意識しないようにーーといっても自然に意識しちゃうし、出ちゃうんですけど、なるべくしないように意識はしました。

ーー歌の部分についても聞きたいんですけど、ファルセットにこだわりはあるんですか。

小袋:いろんな理由がありますね、「Game」がファルセットで入るのはもともと弾いてたエレピの200キロヘルツがかなりうるさくて、地声だとハウっちゃってたんですよ。だからファルセットじゃないと歌もピアノも引き立たないなと。あと、技術的なことなんですが、声を張るギリギリのところは、僕はファルセットでもうまく張れないタイプで。それだと下手に聴こえたり、自分で気持ちよくないんですよ。だからそこを避けて歌ったりして、自分の声の特徴に合わせると、こんな感じになるんですよね。

ーー音楽的な理由なんですね。

小袋:声がもともと高かった、というのはありますね。aikoさんの曲のキーがちょうど良かったんですよ。そうするとファルセットで歌うしかなくて、彼女の高いところとか、やたらうまくなったんですよ。

ーーそろそろ終わりですけど、「E. Primavesi」に参加したクリス・デイヴのドラムの話ってたくさん聞かれただろうから、やらなくていいですよね?(笑)。

小袋:いや、そんなに聞かれてないですよ(笑)。クリスはまじめなところもあるし、行きの電車でも僕が作ったデモを聴いてて、きちんとコピーしようとするんですよ。でも、コピーされても面白くないから、もっと自由にってリクエストすると、本当にカッコいいドラムを叩いてくれました。

ーーこの曲って通しで叩いてるんですか? それとも後で切り貼りしました?

小袋:ノータッチですね。タイムもひとつもいじっていなくて、唯一トリガーを掛けたくらいです。それはDaft Punkの『Random Access Memories』で、ジョルジオ・モロダーがトリガーを掛けているのを知っていたから、やってみたかったというだけで。

ーーこれは、クリス・デイヴの良さが存分に出てますよね。

小袋:彼が活きるのはBPMが140あたりのテンポ感だなと思っていました。

ーーデモを聴かせて、割と忠実にやろうとしたのを自由にしてもらうように調整したらこうなった、ということですか。

小袋:3回録ったんですけど、そもそもトラックを作り込んでなかったんですよ。他のセッションをやったときに、俺が思うクリス・デイヴっぽいデモ音源を作り込んでわかりやすくしたら、それ通りにやってくれて。嬉しかったんですけど、「俺が思うクリス・デイヴが叩いたら、それは本当にクリス・デイヴなのか?」という疑問が出てきて(笑)。人に任せるのはあまり好きではないんですけど、クリス・デイヴは天才だし、心中するつもりで任せたんですよ。

(取材・文=柳樂光隆)

■リリース情報
『分離派の夏』
発売:4月25日(水)
価格:¥3,000(税込)

<収録曲>
01. 042616 @London
02. Game
03. E. Primavesi
04. Daydreaming in Guam
05. Selfish
06. 101117 @El Camino de Santiago
07. Summer Reminds Me
08. GOODBOY
09. Lonely One feat. 宇多田ヒカル
10. 再会
11. 茗荷谷にて
12. 夏の夢
13. 門出
14. 愛の漸進

■配信情報
小袋成彬 プレイリスト「分離派の冬」

■ライブ情報
『小袋成彬 ワンマンライブ』
日時:5月1日(火)開場:18:00 開演:19:00
会 場:渋谷WWW
チケット:¥3,800(税込)※オールスタンディング / ドリンク代別
4月7日(土)一般発売スタート
問い合せ:Zeppライブ 03-5575-5170(平日:13:00~17:00)

『VIVA LA ROCK 2018』
日時:5月3日(木・祝)、4日(金・祝)、5日(土)
※小袋の出演は3日のみ。出演ステージ・時間は後日発表。
会場:さいたまスーパーアリーナ
公式サイトはこちら

■関連リンク
小袋成彬 アーティストサイト
小袋成彬 レーベルサイト

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