水曜日のカンパネラが目指す、自由なエンターテインメント「“祝祭を担当した人”ぐらいの立ち位置にいたい」

水曜日のカンパネラが目指す自由なエンターテインメント

 主演で歌唱担当のコムアイと楽曲制作を手掛けるケンモチヒデフミ、それ以外を担当するDir.Fによる3人組、水曜日のカンパネラがメジャー1stフルアルバム『SUPERMAN』を完成させた。2016年6月リリースの『UMA』以降メジャー・レーベルに活動拠点を移し、ファッション誌や各地のフェス、TV番組出演を含むボーダーレスな活動を活発化させてきた3人が、世界情勢がひっ迫する現代に焦点を当てたのは、武力ではなく文化を用いて新しい時代を切り開いた過去の偉人たち。CD版とUSB版の2種類が用意された全編には、「坂本龍馬」や「チャップリン」、ガーナの創造神「オニャンコポン」、日本創世記の神話をモチーフにした「アマノウズメ」まで、情報過多のエクストリームとも言える魅力的な世界が広がっている。今回はコムアイとケンモチヒデフミに、作品の内容やメジャー・デビュー以降の変化、そして様々な境界線を横断する彼女たちのエンターテインメントについて訊いた。(杉山仁)

「上手く表現することに徹した」(コムアイ)

ーー今回のタイトルは『SUPERMAN』ですが、ここにはどんな意味が込められているんですか?

コムアイ:これは結構前に決めた話で、デジタルシングル『SUPERKID』を出す頃には、もう『SUPERMAN』にしようと思っていたんですよ。その中から数曲出すということで、EPの名前が『SUPERKID』(『SUPERMAN』の子供)になりました。でも、『SUPERMAN』に決まるまでは結構迷いましたね。アルバムのテーマを考え始めたのも結構前で……。

ーー前作『ジパング』だと、コムアイさんが鉄工所で開催されたレイブに遊びに行って、そこから鉱石が人の手を介してシルクロードを渡っていくようなイメージが生まれました。

コムアイ:今回は……何だろう。能面とか?

ーー能面ですか?

コムアイ:私は2016年の1月頃、仕事をほぼお休みして大学の卒論を書いていて、そこで能を調べていたんですよ。そうしたらすごく面白くて。能は「現実の世界にどうやってこの世のものではないものを出現させるか」という芸術で、そのスキルが高ければ高いほど「いい能」とされているんです。それをどうやって作るのかを具体的に説明している本を読んでいたら、能には「翁」という面があって、一番格が高い演目もそれを使っているということを知って。しかも、他の面は怖かったりおどろおどろしかったりするのに、「翁」の面は目がへの字で、ちょっとほにょほにょしてるんですよ(笑)。つまり、温かさで人を包み込んだり、「何があっても大丈夫だ」と感じさせるような面だったんです。今回のアルバムは、曲を作る前から「そういうアルバムになったらいいな」と思っていました。

ーーそれがどんな風に『SUPERMAN』というタイトルに繋がっていくんでしょうね?

コムアイ:まずはそれで、色んな文化人を曲名にしたいと思ったんですよ。これまでもそういう曲はありましたけど、今回はいつもよりそこを意識したというか。「坂本龍馬」や「チャップリン」もそうだし、本当はキング牧師も入れようと思ったんですけど、今回は「文化の力」や「戦うこと以外で世の中を切り開いたり、イマジネーションを授けるような存在」をフィーチャーしたかったんです。

ーーつまり、水曜日のカンパネラにとってのスーパーマンは、アメコミ・ヒーローのように拳を使って戦うのではなくて、「文化を用いて戦う存在」だということですね。

コムアイ:そうそう。それに、「私たち自身がスーパーマンだ」と言っているわけではないんですよ。スーパーマンは2016年の日本にはいないけど、いつか出て来てくれると思うし、それならその瞬間に立ち会いたい、ということで。今回はそういう人を応援するような気持ちで歌いました。だから「グッズを作りましょう」という話になっても、いわゆる「ザ・スーパーマン」な雰囲気の赤と青のイメージや、シンボルのようなものは避けて作ったんです。

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ーー曲としてはどの辺りからできはじめていったんですか?

ケンモチ:アルバムには入っていない「松尾芭蕉」をプリウスさんのCM曲として作って、その流れでまずは「チャップリン」を作りました。それから「カメハメハ大王」や「アラジン」ができていった感じですね。最近は僕のトラックも新しくしていかないと、「これは前やりましたよね?」と言われることが多いんです(笑)。だから、音楽的には『ジパング』のタイミングでやれていなかったことや、アプローチの違うものを取り入れましたね。

コムアイ:いろんなの聴いてましたね。

ーーどんなものを聴いていたんですか?

ケンモチ:(DJ Diamondを流しながら)たとえば、こういうジュークっぽいものとか。あと、通年聴いていたのはClap! Clap!とかですね。

コムアイ: Clap! Clap!参考にしているの結構多い、(頭の斜め上を指しながら)ずっとこの辺にある感じで。

ケンモチ:歌が乗っていないからありがたいよね(笑)。

コムアイ:似ようと思っても似せられないから、思い切り参考にできる(笑)。今に限ったことではないですけど、ケンモチさんって本当に掘るパワーがすごいんですよ。

ケンモチ:一応、コムアイが気に入りそうなものの中で「これはもうやったな」「これはすでにいるアーティストっぽくなるな」と、予想しながら掘っているんですけどね。

ーー今回は、「坂本龍馬」「オニャンコポン」などでサンプリングを大胆に使っているのも印象的でした。

ケンモチ:コムアイが「自分の声が鳴り続けているとアルバムに起伏がなくなっちゃう」と言っていたんですよね。だから、ボーカル・グループにメンバーの歌い分けがあるように、コムアイ以外の声を入れて新鮮さを保とうと思ったんです。

ーーその結果、以前よりも楽曲に詰まった情報量がさらに増えています。

コムアイ:制作中、(曲の情報量を)減らそうという話が全然出なくて……。私も出来上がったものを聴いて「情報過多だなぁ」と思っていたんです(笑)。今回は1曲ずつ完成させるように作ったんですけど、本当は(情報量が)「80」の曲と「130」の曲の間に、「20」の曲があった方が流れとしてはいいじゃないですか。でも、通して聴いてみると「80」以上の曲ばっかりで(笑)。それで1曲、「20」みたいな曲も作ろうとしたんですよ。

ケンモチ:でも、スケジュール的に間に合わなかった!

ーー(笑)。また、歌詞の面でも情報量満載という感じですね。一休さんがキットカットを食べていたり、チャップリンが料理番組に出演していたり、カメハメハ大王が職質を受けていたり、DJスサノオの選曲で天照大神(あまてらすおおみかみ)とアマノウズメが「アガって↑」いたり……。

ケンモチ:今回はよりふざけようと意識した感じはします(笑)。

コムアイ:とはいえ「坂本龍馬」は名言(「日本を今一度せんたくいたし申候。」)からはじまる素直スタイル(笑)。

ーー(笑)。龍馬の偽名の「才谷梅太郎」が登場するのも面白かったです。

ケンモチ:気づきましたか? あと、自分が印象に残っているところだと「アラジン」のド頭の「アラジンコンパウンド(コンパウンド=研磨剤。アラジンが魔法のランプをこする動作にかけている)」は、自分で作っていても「この言葉以外ハマらないな」と。この間、爆笑問題の太田光さんが、「俺だって新しい音楽を聴くよ。水曜日のカンパネラとか。『♪アラジン~』」と歌っていたんですけど、やっぱりその部分を覚えてくださっていたんですよ。

コムアイ:私は「アマノウズメ」の〈朝帰り/アマノウズメ/タクシーを待つ〉ですかね。ぼーっと待ってる感じが浮かぶし、「タクシーを待つ」という普通の歌詞が上手くハマったと思うんです。あと、「世阿弥」は「のうのう」とか「ひょうひょう」とか、音と歌がぴったりハマった曲。カンパネラの曲はデモ段階でケンモチさんが作ったガイドのメロディが入っているんですけど、それを自分の脳裏に焼き付かない程度に聞いて、トラック自体を信頼してどう歌うのか構築し直しました。それって当たり前のことだと思うんですけど、これまでやっていなかったんですよ。写真撮影もそうですけど、私はショートケーキのイチゴみたいに、色んな現場で他の人が用意してくれたものに(仕上げとして)最後に乗ることが多くて。だから、もっと上手く乗れる存在になりたいと思うようになってきたんです。それで今回は、ケンモチさんたちが用意してくれたことを上手く表現することに徹しました。

ケンモチ:今回はどの曲も、コムアイ自身のこだわりの歌い方が出てきた感じはしますね。

ーー「チャップリン」の歌い方もかなり面白いです。

ケンモチ:最初にできた曲が「チャップリン」だったんで、みんな結構困惑したんですよ(笑)。また変な曲から出来ちゃったなぁって。

コムアイ:でも、私も最初の方にできた曲の中では一番気に入っている曲ですね。

ケンモチ:それとは対照的に、最後の方にできたのが「一休さん」「世阿弥」「アマノウズメ」。「坂本龍馬」も結構遅かったかな。

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