追悼ヨハン・ヨハンソン、ポストクラシカルの旗手としての功績を振り返る

 アイスランド出身の作曲家、ヨハン・ヨハンソンが2月9日死去した。死因は不明。ドイツ・ベルリンの自宅アパートで死亡しているのが発見されたという。享年48歳。あまりに若い死である。

 ヨハン・ヨハンソンは、2014年公開、スティーヴン・ホーキング博士の実話に基づく映画『博士と彼女のセオリー』(ジェームズ・マーシュ監督)内の楽曲で、ゴールデングローブ最優秀作曲賞を受賞。翌2015年には『ボーダーライン』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)の音楽において、米国アカデミー賞作曲賞、BAFTA(英国アカデミー賞)作曲賞等にノミネート。その後、2016年『メッセージ』、2017年『マザー!』等、近年、映画音楽において世界的に存在感を高めていた。

 昨年公開された映画『ブレードランナー 2049』は、『ボーダーライン』『メッセージ』のヴィルヌーヴ監督の作品ということもあり、当初、ヨハンソンの名前が作曲家としてクレジットされていた。ところが公開直前の2017年夏、彼の降板が発表される。1982年の前作は、ヴァンゲリスによる壮大な電子音楽が、リドリー・スコット監督の映像に独特の光彩を与えていた。ヨハンソンは、続編でヴァンゲリスをどのように継承するのか? 超越するのか? そんな対比を楽しみにしていただけに残念だった。

ヨハン・ヨハンソン『オルフェ』

 一方、“純音楽”の領域でも、彼は同世代のマックス・リヒターとともに、ポストクラシカルの旗手として名を馳せた。

 ポストクラシカルとは、クラシック音楽ならではのアコースティックな響きとミニマルな様式美により、ここ数年、静かなブームになりつつある音楽だ。かつてはニューエイジ、アンビエントといったジャンルに包括されていたが、ヨハンソンは、アコースティック楽器の音をデジタル処理し、生音と電子音を高度に融合。クラシック音楽が持つ荘厳かつ厳粛な作風で、ブライアン・イーノやジ・オーブといった従来のアンビエントとは一線を画したジャンルを確立した。

 20世紀末、クラシック音楽の嫡流である「現代音楽」が実験と前衛の隘路に入って大衆性を失う中、彼の音楽は「耳への優しさ」と芸術性を調和した点で特筆される。

 2016年には、ヨハン・ヨハンソンはアルバム『オルフェ』を、クラシック音楽の名門レーベル<ドイツグラモフォン>よりリリース。詩集のような美しいアルバムが、彼の遺作となってしまった。今後、クラシック音楽にも大きな影響を与えようとしていただけに、ショックは大きい。

 冥福を祈りつつ、ヨハン・ヨハンソンのユニークな音楽を知るアルバム3枚を紹介したい。

『オルフェ』(2016年) 

 先述した<ドイツグラモフォン>からのデビュー作かつ最後の作品。1曲が3分前後、最長で5分弱、ふとした瞬間をスケッチしたような15曲からからなる「響きの詩集」。彼のオリジナルアルバムの中では、耳に心地よいサウンドトラックのように楽しめる。ライナーノーツの中で、彼は「これまでに私が制作したアルバムと異なり、本盤では、あるコンセプトや物語が音楽に結びつこうとしなかった。(中略)私は完成を急がず、何年ものあいだ、周期的に成長を促してやった。」と述べている。一生の集大成にふさわしい静謐な遺作だ。

Johann Johannsson – A Song For Europa

『IBM 1401, A User’s Manual』(2006年)

 「IBM 1401」は1959年に世に出た大型コンピュータ。アイスランドでIBM社の保守責任者を務めていたヨハンソンの父が、ある日、コンピュータのメモリから電磁気が漏れて、ラジオを近づけるとチェロのような低音が発生することに気づく。父はその音に魅了され、このコンピュータを楽器として奏で、録音を残した。それから40年後、ヨハンソンはこの録音へのオマージュともいえるアルバム『IBM 1401, A User’s Manual』を世に出す。弦楽オーケストラの美しい前奏の後に、神父の説教のようにIBM 1403 Printerのマニュアルが読み上げられる。テクノロジーの葬送ミサのような不思議な魅力を持つ作品だ。

IBM 1401 Part 1 – Rotterdam

『映画「メッセージ」オリジナル・サウンドトラック』(2016年) 

 2017年日本公開。突然地球に現れた未知の飛行物体が、人類に何を伝えようとしているのか? その解読に挑む人間の姿を描くSF映画。アカデミー賞「音響編集賞」受賞作品。ゼロ年代以降の彼の作品の中では電子音を比較的重視しており、アンビエントに近い作風を持つ。また、上記の『オルフェ』や『IBM 1401』では、チェロやピアノというアコースティック楽器の響きを重視しているのに対し、このアルバムではボーカルをエフェクト処理し、壮大な立体感を持つコーラスを編み出している。音響を活かせる空間でこそ聴きたい作品。

Jóhann Jóhannsson – Heptapod B [From “Arrival” Soundtrack / Pseudo Video]

(文=鍵盤うさぎ)

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