アルバム『梵唄 -bonbai-』インタビュー
BRAHMAN TOSHI-LOWが語る、問いかけの先にあるもの「長くやりたいがためじゃなく、今をぶつけあってる」
これから知ることも、体験することもいっぱいある
ーー今回はゲストも多く参加してますね。そのへんも今回のBRAHMANの開かれた姿勢を反映していると思います。割り切れるものではないと思いますが、たとえば細美武士さんだったら、細美さんの声なり音楽性なりが欲しかったのか、細美さんという人間そのものが必要だったのか、どっちでしょう。
TOSHI-LOW:人間じゃないですかねえ。あまりミュージシャンとしてみんなを見てないっていうか。ミュージシャンとして呼ぶなら、コーラスの人を呼べばいい。上手なスタジオミュージシャンでもいいわけで、音楽だけだったら。でも、その人じゃなきゃいやなんだよなあ、というのがあるから。
ーーこれまでストイックにメンバー4人だけで作ってきた。そこで新たにゲストを迎えることに、葛藤や抵抗はなかったですか。
TOSHI-LOW:4人で鳴らしてる音に自信があるからね。「これ細美に歌ってもらいたいんだけどどうかな?」って訊いたら「いいじゃん!」って反応が返ってくる。BOSS(ILL-BOSSTINO/THA BLUE HERB)とやった「ラストダンス」ってあるじゃん(シングル『不倶戴天』に収録)。あれはブルースの要素が入った曲ができてきて、かっこいいんだけど、オレにはどうにもできない、どうしよう、ってなったのよ。そこで「BOSSにラップしてもらおうと思うんだけど」と提案したら、みんな「ハッ」としてピン! ときたみたいで。それも含めて閃きがあったし、それに対しての抵抗感みたいなものはなかったよね。きた! 面白いね! という反応だった。ウチとBOSSにしかできないものをやるべきだと思ったし、両方にとってチャレンジになったけど、最高のものができたと思ってる。アルバムには入らなかったけど。
ーーBRAHMANはいつもアルバムにカバーを1曲入れてますが、今回はソウル・フラワー・ユニオンやヒートウエイヴがやっている「満月の夕」です。共作者の中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と山口洋(ヒートウエイヴ)もゲストで参加してますね。BRAHMANはNHKのTV番組『The Covers』に出演した時、この曲をやはり中川、山口をゲストに迎えて演奏してます(2015年8月11日放送)。これはその時のバージョンですか?
TOSHI-LOW:ほぼ一緒。でも新しく録った。
ーーしかもアルバムの最後に、締めの一曲として収録されている。それだけの重みを持たせたかったということですよね。
TOSHI-LOW:「満月の夕」は、山口洋、中川敬より、今俺のほうが良く歌えるって自負がある(笑)。でもそれは当たり前なんですよ。俺は「今の『満月の夕』」を歌ってるから。あの人たちは23年前(阪神淡路大震災)の満月の話を歌ってる。その時はそれが良かった。あの時は2つのストーリーがあったわけですよ。どちらも間違ってない。瓦礫の中から見た月も、瓦礫の外側から見てる月も、どっちも正しかった(注:ソウル・フラワー・ユニオン=中川は被災地の中から見た風景を、ヒートウエイヴ=山口は、東京から見た思いを歌った。両者は微妙に歌詞が異なっている)。ミュージシャンが大震災という大きな出来事に出会い、ボランティアという形で中に入って感じたことを世に出る形で歌にした、その始まりだったと思うんです。ボランティアとかチャリティとか、ミュージシャンが何をすべきか、それを示した元年だった。そこから17年を経て、今度は俺たちがやるべき、向かい合うべき出来事(東日本大震災)が起こった。でもそこで自分たちが歌いたかった歌は、意外に自分たちのものではなかった。「満月の夕」の冒頭の旋律が、頭の中で鳴ったんですよ。瓦礫の街でね。それで弾き語りで歌い始めた。で、いつのまにかバンドでも歌うようになった。それは東日本の震災からの「満月の夕」なんです。だからあの2つ(中川/山口バージョンの歌詞)を内在させて歌った。それを俺たちは「今の『満月の夕』」として置いておくべきじゃないかと思って、録音して、こうしてアルバムに入れたんです。
ーーなるほど。
TOSHI-LOW:これがあったら、もし次のーー絶対あってほしくないけどーーミュージシャンが動かなければならないような社会的に大きな出来事があった時に、この歌を次の誰かが歌えばいい。そうやって歌い継がれていい曲だと思ってる。その時は売名だとか偽善だとか、そんなことを言われずに済むように、顔隠さなくてもいいように、そこで生きて、何かを感じたミュージシャンが素直にそういうことができるようになればいい。今の段階を踏んでるからこそ、違う時代になってほしいと思ってる。その中のひとつの答えとして「満月の夕」を入れたかった。それには中川と山口が必要だったということです。
ーー単なるお気に入りのヒット曲のカバーではなく、歌い継がれてきて、そして今後も歌い継がれるべきトラディショナルソングを、BRAHMANなりの新たな解釈で歌ってみた、みたいな、そういうニュアンスに近いのかもしれない。
TOSHI-LOW:うんうん、「ナントカ節」を歌ってみた、みたいなね。それでいいと思うし、それがカバーの姿であると。だから本当は口頭伝承でも良かったのかもしれないけど、それをアルバムっていう中に入れてもいいじゃないかと。さっき話した最後のピース、最後に入れるダルマの目として、自分たちの今を表すためにどうしても必要だったし、それは自分たちの曲じゃなくてもいいって、みんな思った。そこで自分自分しなくても、アルバム最後の曲だから自分たちの曲にしなきゃとか、そういう意識すらもないっていうか。カバーだろうがなんだろうが、やってしまえば自分たちの曲ですからね。だって自分たちの響きから人に伝わるんだから。知らない人から見れば「あんたらがやってる曲」だと思うんで。俺みたいなのが歌いにいって、じいちゃんばあちゃんに「サインしてくれ」って言われるような、あの頃の福島の状況を見て、俺は何を歌うか。そこで自分の歌にこだわるなんて意味がないと思って。
ーー中川敬も同じこと言ってましたね。
TOSHI-LOW:うん。でもその一方で、自分のオリジナルをとことん突き詰めたいって気持ちもあって。そういう意味でも、まだまだBRAHMANでやってることって面白えなって思うし、未だにワクワクするし。ただ以前はBRAHMANとOAUとソロで分けて考えてたところもあったんだけど、今はそれが一体化してる。それはちょっと予想してなかった。「満月の夕」を歌い出した時に、バンドでやるとは思ってなかったから。でもバンドでやったからこそ、中川や山口を受け入れる器ができたと思うし。
ーーなるほど。あの『The Covers』での「満月の夕」は感動的でしたよ。2人はああいう形で共演することを事前に知らされてなかったんですか。
TOSHI-LOW:ほんとは知らないことはなかっただろうけど、まあTOSHI-LOWが仕掛けるんだったら「どっきりカメラ」じゃないけど、乗ってやろうか、みたいなアニキ心はあったと思う。俺はあいつのことは好かんけど、お前が間に入るならやってやるよ、みたいな感じ。
ーー倦怠期に入った夫婦みたいですね。間に子供がいて初めて会話が成立するみたいな。
TOSHI-LOW:(笑)。はははは! 今でもその状態みたいですよ。オレを介して話してくるもんね。相手に直接言えっての(笑)。
ーーあと「ナミノウタゲ」という、ハナレグミの永積タカシが参加した曲もあります。以前TOSHI-LOWさんと永積さんの対談の司会進行をやらせてもらったことがありますが、その時2人で何かやろうって話が出て、それが今回こういう形で実現したのかなと思いました。
TOSHI-LOW:そうそう。いいすよね。あのあと、あいつと活動圏が近くなったので、よく会うようになったんですよ。俺とあいつはお互い違うシーンにいてすれ違いが多かったから、なかなか関わることがなかった。でもそこですごくフラットに、近所のコーヒーを飲む友達、みたいなところから始めてさ。時間が合えば飲んだり、ギターを弾いたり、乞われて2人でセッションをやったり。俺はさ、楽器始めて、家に友達呼んで弾いたり、ちょっとうまい奴に教えてもらったり、2人でちょっと歌ってみたりとか、そういうみんなが経験するようなことをやったことなかったけど、こういう気持ちなのかなあって感じていて。
ーーああ、なるほど。
TOSHI-LOW:で、ある日「清志郎セッション」(忌野清志郎ロックン・ロール・ショー中野サンプラザホールLove&Peace~2017年5月9日)に俺が出ることになって。そのリハの前にあいつに会ったら「清志郎さんに謝らなきゃいけないんだ」とか言い出すわけよ。「一回セッションの誘いを断ったら清志郎さんが気を悪くしちゃって、『ARABAKI ROCK FES』で会った時もすごく怒ってるみたいだった。結局会ったのはそれが最後で、すごく後悔してるんだ」みたいなことを言うわけ。なら行こうぜ! って言って多摩の清志郎のお墓に行ってさ。ネットの情報だけを頼りに探してね(笑)。お墓の前でビールで乾杯してさ。「タカシ、清志郎怒ってた?」「いや、怒ってなかったよ! 大丈夫だった!」とか言って満足して帰ってきた(笑)。そういう、ギター持ってガキが遊んでるみたいなさ。そういうことをここ1〜2年タカシとつるんでやってたわけですよ。音楽うんぬんとかハナレグミがどうとか関係なく人間として。
ーーつまり友達になったわけですね。今までミュージシャンとそういう付き合いをすることはなかなかなかった?
TOSHI-LOW:バンドってさ、人生のカウンターアクションだと思ってやってたからさ。ライブハウスで集まった奴と、対暴走族とパンチ合戦みたいなさ(笑)。ライブハウスの前の歩道橋から、走ってくる暴走族にションベンをかけるのに命を賭けるとかさ(笑)。そんなことばっかりやってたから。普通に友達と「そのコード、そうやって押さえるんだ」とかさ、あまり記憶になくて。
ーー10代の頃にできなかったことを今やってるみたいな。
TOSHI-LOW:そうやって音楽にワクワクするような経験がなかったからさ。そんな些細なことですらいっぱい残ってる。若い頃やってなかったことを今やれるのは、とても幸せなことだなと思ってね。ほかの人がやり尽くしてるようなことを俺はやったことなくて、初めて経験してるっていう。今から専門学校行っても嬉しいと思うもん(笑)。改めて音楽理論を学んでさ。「あっ、そういうことなんだ」って納得したりして。そういう音楽理論を教えてくれる友達ができたら楽しいなあと思うよ。ーー今まで知らなかったこと、経験してなかったことを知ろうとする気持ち、好奇心を持ち続けることって大事ですよね。年取ってくると「俺はもういいよ」ってなりがちだから。
TOSHI-LOW:俺は音楽って幅の淵しか通ってなかったことがわかったからさ(笑)。そこが俺の頂点、王道だと思ってやってきたけど、ほかの人から見れば、すげえ端っこの際(きわ)の崖っぷちみたいなとこでやってたんだなと。だから今はいろんなものを見てみたい。新しい音楽をほじくり出して聴こうとは思わないけど、今はすごくフラットだからさ。それは若いバンドに対しても、古い音楽に対しても、フラットでいられてる。売れてるものに対してのヤキモチもないし。幸せですよ、だから。
ーーここがBRAHMANにとって、TOSHI-LOWにとっての新たなスタート地点でもある、ということですね。これからの未来が楽しみだと、誰よりTOSHI-LOWさん自身が感じてるんじゃないですか。
TOSHI-LOW:うん。面白えだろうなって思うよ。これから知ることも、体験することもいっぱいあるからさ。
(取材・文=小野島大/写真=石川真魚)
■リリース情報『梵唄 -bonbai-』
発売:2018年2月7日(水)
【初回限定盤(CD+DVD)】¥3,685(税抜)
【通常盤(CD)】¥2,593(税抜0
[CD]
01. 真善美
02. 雷同
03. EVERMORE FOREVER MORE
04. AFTER-SENSATION
05. 其限(映画「ブラフマン」主題歌)
06. 今夜(映画「あゝ、荒野」主題歌)
07. 守破離(キックボクシングイベント「KNOCK OUT 公式テーマソング」)
08. 怒涛の彼方
09. 不倶戴天
10. ナミノウタゲ(映画「生きる街」主題歌)
11. 天馬空を行く
12. 満月の夕
全12曲
[DVD] 「尽未来際〜開闢〜」at 新宿ANTIKNOCK
01. FOR ONE’S LIFE
02. BASIS
03. SHADOW PLAY
04. DEEP
05. BOX
06. BEYOND THE MOUNTAIN
07. DOUBLE-BLIND DOCUMENTS
08. CIRCLE BACK
09. SHOW
10 .其限
11. 遠国
12. THE VOID
13. LOSE ALL
14. A WHITE DEEP MORNING
15. 逆光
16. FIBS IN THE HANDS
17. THE ONLY WAY
18. SPECULATION
19. EPIGRAM
20. CAUSATION
21. 鼎の問
22. 初期衝動
23. 賽の河原
24. 今際の際
25. 露命
26. 空谷の跫音
27. 終夜
28. ARRIVAL TIME
29. 汀に咲く
30. 警醒
31. 霹靂
32.
全32曲
<guest musicians>
track.6 Chorus:細美武士(the HIATUS / MONOEYES)
track.7 Vocal:KO(SLANG)
track.8 Trumpet:NARGO(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA) Trombone:北原雅彦(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)
Tenor sax:GAMO(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)
Baritone sax:谷中敦(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)
track.10 Chorus:ハナレグミ
track.12 三線 / Chorus / 囃子:中川敬(SOUL FLOWER UNION)
Guitar / Chorus / 囃子:山口洋(HEAT WAVE)
Chorus / 囃子:うつみようこ
■ライブ情報
『八面玲瓏』
2月9日(金) 東京・ 日本武道館
[Guest Musician]
ILL-BOSTINO(THA BLUE HERB)/KO(SLANG)/NARGO,北原雅彦,GAMO,谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)/うつみようこ/中川敬(SOUL FLOWER UNION)/ハナレグミ/細美武士(the HIATUS/MONOEYES)/山口洋(HEATWAVE)
『Tour 2018 梵匿 -bonnoku-』
3月3日(土)山口・周南RISING HALL
3月4日(日)広島・CLUB QUATTRO
3月7日(水)京都・MUSE
3月9日(金) 新潟・LOTS
3月17日(土)北海道・Zepp Sapporo
3月21日(水・祝) 大阪・Namba HATCH
3月23日(金)石川・金沢EIGHT HALL
3月24日(土)富山・MAIRO
3月26日(月) 奈良・NEVER LAND
3月29日(木)和歌山・SHELTER
3月31日(土) 岡山・CRAZYMAMA KINGDOM
4月1日(日) 鳥取・米子AZTiC laughs
4月4日(水)高知・X-pt.
4月6日(金) 香川・高松festhalle
4月8日(日) 愛媛・松山W studio RED
4月10日(火) 兵庫・神戸Chicken George
4月11日(水) 滋賀・U-STONE
4月17日(火) 鹿児島・CAPARVO Hall
4月19日(木)熊本・B.9 V1
4月21日(土) 福岡・DRUM LOGOS
4月23日(月) 岐阜・CLUB ROOTS
4月25日(水)長野・JUNK BOX
5月8日(火) 茨城・水戸LIGHT HOUSE
5月10日(木) 群馬・高崎Club FLEEZ
5月24日(木)山形・ミュージック昭和セッション
5月26日(土)青森・Quarter
5月27日(日)秋田・Club SWINDLE
5月29日(火) 岩手・盛岡CLUB CHANGE WAVE
5月31日(木)福島・郡山HIP SHOT JAPAN
6月2日(土) 宮城・仙台GIGS
6月5日(火)栃木・HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2
6月7日(木)埼玉・HEAVEN’S ROCK Shintoshin VJ-3
6月9日(土) 愛知・Zepp Nagoya
6月10日(日) 静岡・清水SOUND SHOWER ark
6月13日(水) 東京・Zepp Tokyo
6月14日(木) 東京・Zepp Tokyo