草なぎ剛の演技はなぜ多くの人々を惹きつける? 1年ぶりドラマ出演への期待
1月27日、およそ1年ぶりに俳優・草なぎ剛が帰ってくる。しかも、描かれるのは私たちの心に深く訴える重厚なテーマだ。NHKスペシャル『未解決事件 file.06「赤報隊事件」』(NHK総合)。これまで地下鉄サリン事件やロッキード事件など、日本中を震撼させた未解決事件を追うシリーズの最新作だ。今回取り上げられるのは、1987年に起こった朝日新聞阪神支局での発砲事件。この事件で2名の記者が死傷、だが犯人が捕まることはなく、15年前に時効となった。
「芝居をするときはいつも試行錯誤です」今回、朝日新聞特命取材班記者の樋田毅を演じた草なぎは、NHKのインタビュー(参照)にこう答えている。「何も考えないで感じたまま演じることで、 むき出しの感情になるのかとか、あるときはトーンを抑えたほうが気持ちが出るんじゃないかとか」サラリと述べているが、この感覚をそのまま動きにできるというのが、草なぎの最大の強みだろう。
彼の演技に惚れ込んだ脚本家・演出家は、数知れず。俳優に多くの注文を出すことで知られるつかこうへいが、「僕は1度も演技に注文をつけていない」と絶賛したのも有名な話。 「穏やかな笑顔の奥に哀しみが隠れ、静かなたたずまいの身中には秘やかにケモノが眠る」 と続けている。
直木賞作家でもある松井今朝子は、「草なぎは舞台でただ座って新聞を読んでいるだけで、 逆に明治の青年がそこにいるようにしか見えないのである」と語り、脚本家の坂元裕二も「もし俳優のオリンピックがあったら、日本代表は草なぎさんです」と話したほど。
草なぎ剛を見ていると、心の中に永遠の少年がいるように思える。子どもはその純粋ゆえに、ドキッとするような残酷さを持つ。世の中をクリアな瞳で見つめ、その怒りを、そして哀しみをまっすぐに体現する。そこには、まっすぐ生きていく本能的な強さがある。
草なぎの演技が“そこに生きている人”として、見る者を引きつけるのは、誰もがかつて子どもだったときの無垢さに訴えかけるものがあるからではないだろうか。俳優としてどう評価されるか、自分自身がどう見られているか……といった、草なぎ剛という器に対する雑念はない。だからこそ、役の感情がダイレクトに届く。それが考えずに、感じたまま演じられるということなのではないか。
「今回はタイミング的に、新しいファンサイトも立ち上げて、 僕的にはまっさらな状態での撮影だったので、 あまり深く考えずに挑めたのもよかったかもしれません」とも語る草なぎ。大人になれば“まっさらな状態”となるのを、恐れる人もいる。ましてや積み上げてきたものが大きくなるほど、そこを守ろうとしがちだ。また、“こうあるべき” というこだわりや言葉に縛られることも少なくない。多くの目にさらされる仕事であれば、なおさらだろう。
だが、草なぎはいつもそんなしがらみにとらわれることなく、少年の心を持ち続けているように思う。「いろいろ吸収する時期なのかもしれないね。それでまた自分の作品に影響が出てくるといいし。人生はいつまでたっても勉強だと思うし、それで自由に……」香取慎吾と共にパーソナリティを務めているラジオ『 ShinTsuyo POWER SPLASH』(bayfm)では、国民的アイドルの地位や俳優としてのキャリアなど、過去の栄光に執着しない言葉が印象的だ。