INNOSENT in FORMALが“和製Gorillaz”との期待を集める理由 両バンドの共通点から考察

INNOSENT in FORMALとGorillazの共通点

 ここ数年で顔ぶれが一新された印象もある邦楽シーン。新年の展望を占ううえで、気になるのがニューカマーの台頭だろう。Superorganismなど全16組が名を連ねた英BBC「Sound of 2018」のように、日本でも期待の新人リストを作るとしたら、ぜひ候補に加えておきたいのがINNOSENT in FORMALだ。

 昨年12月8日から各種サブスクリプションサービスで先行配信されている初のシングル曲「One for you」は、Spotifyのバイラルチャートで上位にランクインするなど、リスナーからの評判も上々のようだ。そんなINNOSENT in FORMALは、音だけでなく「魅せ方」にも注目が集まっている。というのも、彼らは「架空のカートゥーン・バンド」を大胆に演じているのだ。まずはここで、「One for you」のMVをご覧いただきたい。

INNOSENT in FORMAL「One for you」MV

 このMVでディレクターを務めているのは、DOTAMA「音楽ワルキューレ2」やtilt six「あなくろノイズ」などを手掛け、かのアジア発のメディアプラットフォーム「88rising」も注目しているKota Yamaji。二次元と三次元がシンクロする映像には、ユニークな光景が広がっている。そのなかでも強調されているのが、イラストで描かれたメンバーたちの姿。ストリート感あふれる独特のタッチは、新進イラストレーターのKCによるものだ。

 公式サイトによると、ぽおるすみす(Vo)、TOY BOY(Dr)、CANDY MAN(Gt)、Kuni the ripper(Ba)から構成されるINNOSENT in FORMALは、「映画のスクリーンの中から飛び出してきたロックバンド」なのだという。21XX年のNEO TOKYOを舞台とした物語設定など、詳細なバイオグラフィはリンク先を参照していただくとして(参考:INNOSENT in FORMAL公式プロフィール)、こういった漫画チックな設定が並ぶと、やはりGorillazとの比較は避けられないだろう。実際、INNOSENT in FORMALのInstagramにしても、実写の背景にイラストを重ねる手法など、現実世界にバンドメンバーが飛び出してきたように見せる、Gorillaz的なアプローチが散見される。(参考:INNOSENT in FORMAL 公式Instagram

 Blurのデーモン・アルバーンと、「カトゥーン界のSex Pistols」と呼ばれたジェイミー・ヒューレットによってGorillazが結成されたのは1998年のこと。2001年のデビューアルバム『Gorillaz』と2005年の2作目『Demon Days』はどちらもメガヒットとなり、ギネスブックにも「最も成功したバーチャルバンド」として認定された。その後の活躍については周知の通り。2017年には新作『Humanz』を引っ提げて、『FUJI ROCK FESTIVAL’17』のヘッドライナーも務めている。

 そのGorillazとINNOSENT in FORMALを並べてみると、アノニマスな覆面スタイルはもちろん、アウトロー気質を抱えたキャラクター設定、パンキッシュなビジュアルイメージなど共通項はいくつか指摘できそうだが、意外と近そうなのはサウンドの変遷ぶりかもしれない。

 1997年に「ブリットポップは死んだ」と宣言したデーモンは、誰よりも英国的なサウンドを奏でていた過去の自分たちと決別し、同時代のUSインディーに接近。名曲「Song 2」に象徴されるノイジーなギターロックを奏でることで、Blurは新境地を切り拓いていく。そこから紆余曲折を経て、Gorillazを結成する頃になると、デーモンの音楽的な好奇心はヒップホップやレゲエ、クラブサウンドにワールドミュージックなど、当時のロックバンド観では持て余すほど膨れ上がっていくことに。そのオープンマインドな志向性が花開いたのが、初期の代表曲「Clint Eastwood」だった。

 かたやINNOSENT in FORMALは、過去にレコーディングされたデモ音源「Everytime」(ototoyでフリー配信中)で、衒いのないグランジサウンドを奏でている。ドラムの鳴りからシャウトは『In Utero』期のNirvanaを彷彿とさせるもので、「One for you」との落差に驚かされるだろう。「Everytime」がどれだけ古い音源なのかは不明だが、どちらにせよバンドはその後、かなりの成長を遂げたとみて間違いなさそうだ。

 改めて「One for you」のサウンド面に着目すると、エレクトロニカ的な音響からブレイクするイントロや、骨太かつ空間を活かしたヒップホップ的なリズムセクションに、THE 1975~雨のパレードに連なる流麗なバッキングから、サックスのようなソロプレイまで弾き分けるギターワーク、オートチューンやエフェクトを駆使したボーカルの音響処理など、プロダクションの完成度にとにかく唸ってしまう。ラップの取り入れ方だけはオールドスクールだが、モダンな音作りとのギャップがむしろ気持ちよく、J-POP的な人懐っこさを生み出しているのがおもしろい。

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