YOSHIKI、“天然のポジティビティ”取り戻す 市川哲史の「X JAPAN紅白+格付けGACKT共演」評

 昨年大晦日の全国紙朝刊ラテ欄の番組表から、『第68回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)を書き出す。

 〈内村×有村×二宮司会豪華開幕を見逃すな!安室奈美恵が生歌唱!ラスト紅白で夢を歌う有村のひよっこ特別編桑田佳祐が主題歌熱唱嵐が贈る応援ソング!二宮が永世七冠羽生と内村驚きの共演挑む!?ブルゾンVS渡辺直美!AKBリトグリ欅坂46大知とTWICE対決郷×バブリー高校生も高橋一生吉岡里帆黒柳桐生ひふみんも躍る!?竹原高橋真梨子星野源福山名バラード聖子も復活Superfly水森飛ぶ氷川ド派手にエレカシ暴走松たか子YOSHIKI復活!?さゆり名曲ゆず歌い納め〉。はいはいはいはい。

 どんな手を使ってでも高視聴率を稼ぎたい気持ちはわかるけれど、提出する前に落ち着いて読み直そう。〈YOSHIKI復活!?〉っておもいきり書いちゃったら、せっかくの予定調和が台無しじゃん。

『「WE ARE X」オリジナル・サウンドトラック』

 2017年は、1月12・13日にYOSHIKI単独のクラシック公演@米カーネギー・ホール(『YOSHIKI CLASSICAL SPECIAL feat. Tokyo Philharmonic Orchestra』)。ドキュメント映画『WE ARE X』の公開が3月。X JAPAN1年遅れの英ウェンブリー・アリーナ公演が、3月4日(『X JAPAN LIVE 2017 at the WEMBLEY Arena in LONDON』)。しかし5月のYOSHIKI頸椎人工椎間板置換の緊急手術で〈人生数十回目の危機〉に見舞われ、ドラムを叩けない状況に。で、7月の日本公演を皮切りにスタートするはずだった『X JAPAN WORLD TOUR 2017 WE ARE X』が風前の灯と化すも、ツアータイトルに「Acoustic Special Miracle~奇跡の夜~」をくっつけたことで、ドラム抜きアコースティックX仕様6日間公演@大阪城ホール×2+横浜アリーナ×4が実現。瓢箪から駒の新パターンを、土壇場であみ出した。

 相変わらず、転んでもただでは起きない男である。

 で10月の〈好転しない容体に鞭打ち、自家用ジェットで映画プロモーションのために欧州各国を懸命に廻るYOSHIKI〉の図からの、12月31日『紅白』だもの。誰がどう考えてもいきなり「紅」かなんかでドラムを叩いて度胆を抜いて、〈奇蹟の復活エンターテインメント・ショウ in 紅白歌合戦〉でしょうよ。実際の本番でもやはり、「ENDLESS RAIN」終盤から突然ドラムセットに移動しての「紅」暴れ太鼓披露で、会場(とたぶんお茶の間)を盛り上げた。何一つ意外ではない。昔からXを知る者、観てきた者なら誰でも予測できる、これぞ〈永遠不滅のXスタンダード〉なのである。

 だがしかーし、今回の〈どんでん返し〉王はYOSHIKI太鼓復活ではなかった。

 そう。欅坂46、二度目の「不協和音」内村光良とのコラボ・バージョンにおける〈本当の限界パフォーマンス〉だ。楽曲が終わると同時に鈴本美愉が倒れるわ、手の痙攣(けいれん)が止まらない平手友梨奈と志田愛佳は他のメンバーに寄りかかり、支えられながら退場するわと、絵に描いたような過呼吸地獄で茶の間をざわつかせたのだから、こりゃ誰も勝てない。

 X JAPAN敗れたり。おそるべし欅坂。

 ぜひ今年の大晦日はディフェンディング・チャンピオンの欅坂46を倒すべく、YOSHIKIには捲土重来を図ってもらいたい。なんだそれ。

 そして一夜明けた元日は、GACKT51連勝中の新春特番『芸能人格付けチェック! これぞ真の一流品だ!2018お正月スペシャル』(テレビ朝日系)に初参戦するYOSHIKIを、私は偶然目撃してしまった。まあたしかにGACKTと最強タッグを組む絵面(えづら)は、実にわかりやすいだけに今後もばんばん招聘していただきたい。

 詳しい戦績に関しては各自勝手にググってくれ。それよりも私にはこの番組も含め最近のYOSHIKIに目立つ、〈子供返りしたようなはしゃぎっぷり〉が微笑ましい。ここ10年近く見たことなかった、天然のポジティビティが蘇っているではないか。

 ネットでも話題になっていたが、正解発表を待つ特別控室でTVに映っていようがいまいが一心不乱にポリポリとチーズおかきを食い続ける姿は、主戦場がまだ日本でhideもTAIJIも健在だった頃のような、ひたすら働きひたすら暴れていたときに通ずる屈託のなさに満ちていたのだ。そういえば昨年夏の6daysライブのMCあたりから、太陽系の話でYOSHIKIが「天王星、洗脳星」みたいなギャグを飛ばすなど、ToshIイジりも目立つ。

 今回も新作の納品が締切に間に合わなかったことをGACKTに自慢げに笑って話す姿も、私がこれまで114回ぐらいは見たデジャヴで、焦ってるようで実はおもいきり呑気というマイペースを取り戻した感がある。

 とにかくこの男は何かにふっきれたようで、それはそれでおめでたい話じゃないか。

 今春には米国有数のライブイベント『コーチェラ・バレー・ミュージック&アートフェスティバル』への出演も決定したようだし、あとは『DAHLIA』以来22年ぶりのオリジナルアルバムを完成させればいいだけだ。たぶん無理だろうけど、もう許す。

 わははは。

■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。著書に『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』(垣内出版)『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック)などがある。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる