市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第3回
X JAPANはU2よりも27年早かった!? 市川哲史が明かす、無料配信にまつわる秘蔵エピソード
iTunesで購入した音源をiCloudで自動的にダウンロードする私の端末にも、はい、U2の新作『Songs of Innocence』が勝手に居坐っていた。
なんかもう、いきなり笑わせてくれるタイトルで、どこまでもU2っぽい。
宗教紛争に反核運動に反アパルトヘイト、薬物依存対策、アフリカ貧困救済、アムネスティ、エイズ対策プログラム支援、あげくに第三世界の最貧国の債務帳消しと、「趣味は社会貢献でーす♡」なボノが、私はうざい。 典型的な<富める者ならではの正義感>で全てを解決した気になっている、実に迷惑な男だ。大体昔から、自分で「イノセント」だの「無垢」だの口走る輩ほど、信用できないではないか。
しかしその圧倒的な思い込みパワーほど、強烈なものはない。そんな<笑えないドン・キホーテ>の妄想ワールドを、私は他人事として愉しんできた。
今回は愛しのラモーンズやら母親やら故郷やらと、個人的な思春期を唄った内省ソングだらけなだけに、ボノ版『四重人格』と好意的に解釈できなくもない。なのでいつもより嫌味なく聴ける佳作ではあるけれども……でもとりあえず要らないなあ、これ。
アップルのiPhone新商品説明会で発表された9月9日から、フィジカル音楽メディアであるCD版が全世界発売される10月13日までの間、U2の5年ぶりのアルバム全11曲がiTunesで無料配信中だ。119ヶ国5億人強におよぶユーザーのDL代金の最大総額――およそ107億円は、ご親切にもアップル持ちである。
とはいえ、欲しくもないU2に貴重な保存容量を食われる理不尽を呪う声が殺到したアップルが、削除ツールを慌てて用意したというオチも素晴らしい。
この壮大な笑い話から私が最初に連想したのが、なぜかX JAPANだったりする。