Paul Stanley’s Soul Station、来日公演への期待 KISS ポール・スタンレーの音楽人生を紐解く

Paul Stanley’s Soul Station、来日公演への期待

 ポール・スタンレーが、来年1月に来日公演を催す。KISSの一員としてではなく、Paul Stanley’s Soul Stationというプロジェクトでライブを行うのだ。

ポール・スタンレー(photo by Ross Halfin)

 ポールとともに長年、KISSを率いてきたジーン・シモンズは今年10月、ヘヴィメタルのフェスである『LOUD PARK 17』に出演するため、Gene Simmons Band名義で来日した。ソロ活動である点はそれと同じだが、性格はまるで違う。Paul Stanley’s Soul Stationは、名称からも察せられる通り、ソウルやR&Bを演奏するプロジェクトなのである。しかも、そのライブで披露するのは、The Temptations、The Jackson 5、The Miracles、アル・グリーンなど、このジャンルにおけるクラシックのカバーだ。従来の彼のイメージとは、異なる方向性である。

 ポールは、自らの音楽人生の大半をハードロックバンドであるKISSに捧げてきた。ソロアルバムは1978年の『Paul Stanley』、2006年の『Live to Win』しか発表していないし、それら2作ともハードロックの範疇にある内容だった。

 KISSといえば1974年のデビュー以来、メンバー全員が顔に奇矯なメイクを施し、パイロテクニクスを多用した派手なステージを見せるショーマンシップで人気を得てきた。何度かメンバーが交代し、1980年代にはノーメイクの時期もあったが、ポールとジーンの2人でずっとバンドを引っ張ってきた。

 このうちジーンは、長い舌をチロチロと出して血糊を垂らし、口から炎を吹き、コウモリのごとくフライングする役回りである。そのキャラクターは、ザ・デーモンと呼ばれる。一方、右目の周りに星型をペイントしたポールはザ・スターチャイルドと呼ばれ、貴公子的な立場だ。KISSでは曲によってメンバーが交代でリードボーカルを担当するが、メインのボーカリストはポールである。2人は、コミックブックから飛び出てきたような一風変わったキャラクターとして音楽界に存在してきた。

 KISSはデビュー以来、一貫してハードロックを演奏してきたが、ゴリゴリのメタル原理主義者というわけではない。2015年に日本のアイドル、ももいろクローバーZとのコラボでシングル『夢の浮世に咲いてみな』を発売したことは記憶に新しい。彼らはハードロックを基調にしつつも、ファンを楽しませるためにはなんでもやってみようとする大らかな態度を昔から持っていた。

 アップテンポでギター、ベースの耳に残るリフやフレーズが多く詰めこまれ、激しいリズムでKISSのハードな面を代表する「Detroit Rock City」をプロデューサーとともに作曲したのは、ポールだった。ライブの定番であり、爆発の演出が頻繁になされてきた曲だ。その一方で彼は、アコースティックギターを基調にした失恋ソング「Hard Luck Woman」(歌ったのはドラマーのピーター・クリス)の作者だったし、ディスコ調リズムの「I Was Made for Lovin’ You」、キャッチーな甘いメロディを持つ「Shandi」を外部ライターと共作し、ヒットさせてもいる。KISSはもとからポップ志向だったが、なかでもポールはその傾向が強かった。

 短期間ではあったが、1999年にアンドリュー・ロイド・ウェバー作の人気舞台『オペラ座の怪人』に主演し怪人役を務めたこともある。また、ポールは、同ミュージカルの初演でヒロインを演じていたサラ・ブライトマンとのデュエット「I Will Be With You」(2008年)をレコーディングしている。

 このようにハードロックの範疇にとどまらない活動をしてきたポールのポップセンスを培った音楽のなかには、ソウルやR&Bなどブラックミュージックも含まれていたのだった。

 KISSが台頭した1970年代に日本のロック雑誌『ミュージック・ライフ』では、同時期にデビューしたバンドとしてKISS、Queen、Aerosmithの3つを並べることが多かった。このうち、Aerosmithは、初期からジェームス・ブラウンをカバーするなど、ソウルやファンクの影響が露わだった。また、Queenはオペラ風のコーラスなどクラシカルな印象があったが、後にはファンキーな曲やファルセットを使ったモータウン調のバラードなどを発表している。

 KISSに関していわれることはあまりなかったが、彼らも同じくブラックミュージックから影響を受けた部分はある。例えば、Soul Stationに関するポールのインタビュー記事を掲載した『Rock Cellar Magazine』では、「Anything For My Baby」のボーカルがジェームス・ブラウンの影響下にあること、「Got to Choose」のリフがウィルソン・ピケットからインスパイアされたとみられること、「Easy As It Seems」のソウル・フレーバーなどを指摘していた。他の曲にもその種の指摘をすることは可能だろう。

 この世代のロックアーティストは、少年期にロックだけでなくソウルやファンクにも親しんだ人が多い。ポール自身が『LA Weekly』のインタビューで、子どもの頃、The WhoやLed Zeppelinといったロックよりも前にソロモン・バーク、オーティス・レディング、The Temptationsといったソウルミュージックのライブを観たと語っていた。Paul Stanley’s Soul Stationは、そうした体験に基づいたブラックミュージックへのリスペクトなのだ。

 今回、来日するバンドは、KISSのエリック・シンガーがドラムを担当するほか、ベース、ギター、パーカッション、ホーン、2人のキーボード、3人のバックシンガーがいて10人を超える大所帯である。このことには、ポールのコンピュータ化された音楽に対する反発、本物の演奏を聴かせたい、クラシックとなったナンバーを元の形で再現したいという考えがあらわれている。スティーヴィー・ワンダーやアレサ・フランクリンなどの大御所、ピンク、クリスティーナ・アギレラといったスターとの共演歴があるミュージシャンが参加したバンドは、実力派揃いだ。

 そして、主役であるポールもKISSの時とは異なり、フェイスペイントはせず、鎧のようなコスチュームも着けずにステージに上がる。コミックブックから抜け出したようなキャラクターではなく、スタイリッシュな装いでモータウンやフィリーソウルの名曲を歌う。ハードロックを演奏する時の声の張り上げかたではなく、ファルセットも織り交ぜた、KISSよりもソフトでスウィートな響きの歌いかただ。

 Paul Stanley’s Soul Stationはまだ音源が発売されていないから、今回の来日が、いつもとは違うポールのポップシンガーとしての魅力を味わう貴重な機会となる。かつて、相棒のジーン・シモンズはソロで「Man of 1,000 Faces 千の顔を持つ男」という曲を発表したが、ポール・スタンレーも多くの顔を持つ男なのだ。エンタテイナーとして彼が生き抜いてきた理由は、そこにある。

(文=円堂都司昭/photo by Keith Leroux)

■公演情報
『BBL 10th Anniversary Premium Stage ポール・スタンレー』
【東京】
ビルボードライブ東京
2018年1月11日(木)、12日(金)
1st 開場17:30/開演18:30
2nd 開場20:30/開演21:30
※東京・平日公演は特別営業時間となります。

2018年1月13日(土)
1st 開場15:30/開演16:30
2nd 開場18:30/開演19:30

公演詳細

【大阪】
ビルボードライブ大阪
2018年1月15日(月)~17日(水)
1st 開場17:30/開演18:30
2nd 開場20:30/開演21:30

公演詳細

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