森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.79
NICO Touches the Walls、SHE'S、DADARAY…洋楽的アプローチが楽しめる新作
友人と話していると「最近のバンドはどうも子供っぽくて聴く気がしない」という声も聞くが、じつはいまのシーンには大人のリスナーの鑑賞に堪えるバンドが確実に増えている。そこで今回は、洋楽的なアプローチと深みのあるボーカルが楽しめるバンドの新作を紹介。ぜひ、年末のフェスに参加したときの参考にしてほしい。
毎年11月25日(イイニコの日)に行われている自主企画イベントを幕張メッセで開催(出演は東京スカパラダイスオーケストラ、クリープハイプ、パスピエなど)、デビュー10周年イヤーに向けた動きを活性化させているNICO Touches the Wallsの新作『OYSTER -EP-』は、新曲5曲(DISC1)、DISC1と同じ曲のアコースティックバージョン(DISC2)による2枚組EP。グルーヴィー&ソウルフルなアンサンブルが楽しめる「Funny Side Up!」、NICO流のオルタナフォークと呼ぶべき「カレキーズのテーマ」、ネオソウル以降の潮流を汲むサウンドメイクとシックなメロディが絡み合う「bud end」など音楽的な意匠を凝らした楽曲が並んでいるが、これは彼らが器用だからではなく、光村龍哉(Vo / Gt)を中心にした試行錯誤の末に獲得した結果に他ならない。様々な音楽を聴き、研究し、自らの楽曲に取り入れる。その地道なプロセスのうえにこそ、現在のNICOの音楽的な豊かさがあるのだと思う。
昨年10月にリリースされた1stアルバム『Guess Who?』が数多くの音楽メディアで絶賛され、11月~12月にかけて行われたワンマンツアーも速攻でソールドアウト。さらにJamiroquaiの日本武道館公演のサポートアクトに抜擢されるなど、本格的なブレイクが確実に近づいているNulbarich。2nd EP『Long Long Time』には、90年代ヒップホップ直系のトラックとエキゾチックな音像を組み合わせた「In Your Pocket」ロッキンなギターリフ、ブラッミュージックの要素を含んだビートを軸にした「Spellbound」など、バンドの中心であるJQのルーツが色濃く反映された楽曲を収録され、Nulbarichの音楽性がより深く堪能できる。軽快なソウルネスと呼ぶべきボーカルも魅力的だ。
Mae、Copelandに代表されるピアノエモ、U2、Coldplayといったスタジアムロックをルーツに持ったSHE'Sの2ndアルバム『Wandering』。プロデューサーに片寄明人氏を迎えることによって、洋楽的な構造を持ったサウンド、ドラマティックなメロディが前景化し、このバンドの魅力がわかりやすく表現されている。結婚式をテーマにしたリード曲「White」、ソウルミュージックの要素を取り入れたダンスチューン「C.K.C.S.」などポップに振り切った楽曲が増えていることも本作の特徴だろう。その中心にあるのはソングライターの井上竜馬(Vo / Pf / Gt)の歌。甲高い声を突きさすように歌うボーカリストが多い現在のシーンにおいて、ふくよかな中音域を活かした彼のボーカルスタイルは本当に貴重だ。