映画『ポケモン』20周年記念作品主題歌はどのように生まれた? 本間昭光×Aqua Timez太志対談

本間昭光×太志、映画ポケモン主題歌対談

「神曲に手を加えるって、「モナリザ」に落書きするようなものじゃないですか(笑)」(本間)

――お二人が作った曲を、実際に林 明日香さんが歌ったのを聴いた時はどうでした?

太志:林 明日香さんの歌がまた壮大なんですよ。でも僕はそのギャップがいいと思えたし、難しい言葉を使わなくてよかったと思いました。すごく尊いものになっていたので、だから逆に言葉はこれくらいシンプルで、一番大事なのはこういうことなんだという普遍的なものが書けたのは、本当に奇跡だと思いました。オリジナルの「オラシオン」は「祈り」という意味で、一番最後の部分で書いた<一人で頑張らないで>という言葉は祈りでもあるし、ピカチュウからサトシへの思いでもあって、それはしっかり入れたいと思いました。林さんが歌うと心にすっと入ってきますよね。歌も本間さんのアレンジもさすがでした。

――本間さんは林 明日香さんというボーカリストの歌をどういう風に受け止めましたか?

本間:言葉の扱いが丁寧かつ的確という感じでした。うまい歌と、伝わる歌というのは違って、林さんの歌は後者で、だから歌詞が心に全部入ってくると思うし、歌がうまい人でも歌詞が伝わってこない人はいます。そこはたぶん太志さんも感じていると思います。ここの歌詞を強く歌って欲しいと思っているところが、林さんは自然にできている。

――歌の後のアウトロが、長めですよね。

本間:わざとそうしていて、レコーディング時にもメンバーに細かく説明しました。そのうえで、譜面では説明できない機微のようなものを、ちゃんと音に入れてくれました。パッと1回終わって、シーケンスだけ残るところも、その決意と気持ちの余韻で、冷静になりつつ、これからも一緒に歩いて行こうという気持ちを、アウトロで表現しているんです。やっぱりポケモンに参加できるというのは、なかなかないことなので、映画をご覧になった皆さんの心の中に残るような作品を作りたい、残したいという想いが強くありました。神曲に手を加えるって、「モナリザ」に落書きするようなものじゃないですか(笑)。だから絶対失敗できないし、「モナリザ」の額縁をさらに合うものに変える感覚というか。すでにある素晴らしいものを、さらに良くすることの難しさを感じつつ、でも構えすぎず、楽しんでできました。

――それにしてもやはり印象的で効果的なストリングスでした。聴き手の気持ちに寄り添い、感動を増幅させるというか。

本間:編成は4・4・2・2・1(第一ヴァイオリン4、第二ヴァイオリン4、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1)で、しっかり聴かせたかったので。でも1コーラス目は余計な倍音が出ないように弱音器を使っていて、響きすぎないようにとそーっと弾いて、ドラムが入ってくる2コーラス目から弱音器を外して、そこからバーンと鳴るようにしました。ピアノの音もクラシカルにならないように弾きました。編成は大きいのですが、シンプルに聴こえるようにしました。エンニオ・モリコーネが劇伴でやりそうな感じで(笑)。

――岡本さんは、完パケを聴いてどう感じましたか?

岡本:エンディング主題歌として、20年間の着地点をちゃんと作ってくださって、そして、20年の歴史の中で作曲の宮崎さんが産んだ、最高峰の曲のひとつ「オラシオン」という神曲が、さらに新たな力を得た事に、もう感謝しかなかったです。最高のものを創っていただきました。

――ポケモンファンの方は、耳が肥えていますよね。

岡本:そうですね、10年前に一度劇伴で使っている曲なので、それこそファンはみんな知っている曲ですし、サプライズ的に発表は公開ギリギリにしようと思っていました。でもやっぱりポケモンのファンの人にアナウンスした時に、いい風に捉えてくださる方もいれば、邪推される方もいるだろうなとは思って。そこはすごく人任せな言い方ですが、あらゆる声を凌駕するには、作品そのものの力で凌駕するしかないと思っていましたので、そういう意味ではいただいた時に「キた!」と思いました。

ーーここで、このプロジェクトの“首謀者”で、レコード会社の担当プロデューサー・岡田宣さんにも、制作秘話を伺いたいと思います。

岡田:オケが完成した時に、これはいけると思いましたが、でも歌が乗ってない以上まだ半分しか完成していないという事で、でも程なくして、岡本さんから林 明日香という名前が出てきて、なるほどと思いました。曲の元になったのが10年前の作品、歌い手が14年前に一度主題歌を歌っている、となるとこの作品は、全て20周年ということを軸に進むんだと納得したというか。最初彼女は、ポケモンの曲をまた歌える、嬉しい、というノリでしたが、曲が持つ意味とか経緯を話し、理解してもらいました。難しいインスト曲に歌詞をつけて、そして歌い上げつつもシンプルな歌詞を“きちんと”伝える事ができる歌手というと、彼女は適任でした。思い通りの歌が録れました。

――まさに全員の「祈り」が林さんの歌で昇華された感じがしました。先ほど太志さんが「祈り」の意味を最後に込めたとおっしゃっていましたが、改めて「祈り」って何だろう、それをどう表現すればいいんだろうと思うと、やっぱり難しい言葉ですよね。

太志:「願い」ともまた違いますよね。強い気持ちが漏れ出そう、でも言葉にできないという事もあって、だから言葉にはしないほうがいいこともたくさんあると思います。でも作詞というのは、音楽という力を借りるという側面があるから、すごく素直な言葉も、メロディやグルーヴみたいなものに乗って、聴き手にまっすぐ届いていくと僕は思っています。例えばライヴも祈りに近いと思っていて、それは音楽もそうですが、MCひとつとっても、みんなでハッピーになりたいという気持ちを込めているので、それ自体が祈りだと思っています。

――本間さんはAqua Timezの歌詞、太志さんが書く詞はどんな風に感じていました?

本間:以前から、素直でシンプルなところが一番の魅力だと感じていました。今回の曲のようなA-B-A構成の楽曲は特に難しくて、そこにシンプルな言葉をどう乗せていくかが難しいと思いましたが、イントネーションの扱いが秀逸だと思いました。自然に入ってくるんですよね。イントネーションに違和感があると、聴いている側は絶対引っかかってしまいます。あれだけ音の高低差が激しい曲に、違和感のないイントネーションの並びを、ちゃんとはめ込んでいくというのは、なかなかできません。そこがあるからこそ、自然にお客さんの耳と心に入っていくし、林 明日香さんの歌い方も当然大きいのですが、歌詞の乗せ方にテクニックがあって、そこが太志さんのすごいところだと思います。

太志:今回は試行錯誤しましたが、それも含めて制作って面白いなって思うんです。こういう風に話せるし、あのときああでしたねとか、そう思うと物事が一回で全部うまくいくなんて、実はつまらないというか。サトシとピカチュウもそうだと思うけど、なんとなく遠回りしながら、途中ケンカして、でもすぐに仲良くなるのではなくて、何かがあって距離が近くなると思うので。僕もバンドをやっていてそう思うし、近道ではなく、遠回りしたからあの景色を見る事ができたよねって思い出話になるので。だからこの「共に歩こう」でよかったのかなと。今日こうして話ができるのも共に歩いてきたからだと思うし。ここに集約されているなと思います。

岡本:オリジナル「オラシオン」を生み出して頂いた宮崎さんと、今回の20周年版「オラシオンのテーマ ~共に歩こう~」を生み出して頂いた本間さん、太志さん、林 明日香さんに感謝しかないです。

(取材・文=田中久勝/撮影=石川真魚)

■リリース情報
『オラシオンのテーマ ~共に歩こう~』
楽曲ダウンロードはこちら
※元となった宮崎慎二の楽曲「オラシオン」と林 明日香「小さきもの」も合わせて、各音楽配信サイトで好評配信中。

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