BOØWYの真骨頂はライブにあり 伝説の『“GIGS” CASE OF BOØWY』を振り返る

 JR高崎駅に突如出現した「BOØWY 20170807 #BOOWY0807」という謎のワードはTwitterを中心としたSNSにてまたたく間に広がり、さまざまな憶測を呼んだ。そんな中、コアなファンであれば、この文字の羅列が何を表しているのかはすぐに分かったはず。“あの日”からちょうど30年の日であると。追って発表されたニュースは1987年に開催された伝説的ライブ『“GIGS” CASE OF BOØWY』の全演奏曲がライブアルバム『“GIGS” CASE OF BOOWY at Kobe』『“GIGS” CASE OF BOOWY at Yokohama』『”GIGS” CASE OF BOØWY -THE ORIGINAL-』としてリリースされることだった。

BOØWY『”GIGS” CASE OF BOØWY -THE ORIGINAL-』

 『“GIGS” CASE OF BOØWY』とは、“BOØWYのレパートリーすべてを演奏する”というコンセプトのもと、1987年7月31日神戸ポートピア・ワールド記念ホールと8月7日横浜文化体育館、2夜限定で行われたライブだ。初期曲から最新曲までの集大成ともいえる内容は大きな反響を呼んだが、このライブの約4カ月半後の12月24日にBOØWYは“解散宣言”をする。

 『“GIGS” CASE OF BOØWY』は、まさしく絶頂期であったBOØWYが、“最強のライブバンド”であることを世の中に知らしめたライブであり、これまでも幾度となく映像化、音源化され、長年に渡って語り聴き継がれてきた。その全貌が30年の歳月を経て今明らかになるのだ。昨年、ライブ活動に区切りをつけた氷室京介のこともあり、当時の熱き想いが再燃した人も多いことだろう。そうした今だからこそ、『“GIGS” CASE OF BOØWY』とはなんだったのか? そのライブと作品がもたらしてきたものを振り返りながら紐解いていきたいと思う。

擦り切れるほど見た聴いた『“GIGS” CASE OF BOØWY』

 BOØWYがロックの初期衝動だった世代にとっての『“GIGS” CASE OF BOØWY』といえば、ライブ自体もさることながら、やはり全4巻のVHS/βソフトだろう。曲順の異なるレーザーディスク版(全2巻)もリリースされたが、多くの人が持っているのはVHSビデオだった。バラ売りの4本を並べて完成する“BOØWY”の背表紙が部屋にあるだけで、なんだか無敵になった気分だった。

 当時はMTVの台頭もあり、ミュージック・ビデオが主流だった。アーティストや楽曲の世界観を表すためにシングル曲はもちろん、アルバム曲もビデオを作り、クリップ集などの映像作品をリリースするアーティストも多かった。ライブビデオがリリースされることは現在に比べると圧倒的に少なく、ましてやライブ全編を収録することなどはほとんどなかった。どのアーティストのライブビデオも必ず、オフショット的なものが挿入されていたり、ドキュメンタリー要素があったりしたものだ。

 そうした時代背景の中で、『“GIGS” CASE OF BOØWY』は映像化を想定したライブでもあった。リリースされた映像作品は2日間の素材が細かく編集され、ライブの流れを一切無視した曲順であったし全曲ではなかったが、全4巻27曲(LD版全2巻26曲)のボリュームは当時のライブビデオとしては異例だったのだ。であるから、ジャケットを羽織っていたヒムロックがすぐ次のカットでは脱いでる、タンクトップで汗だくで歌っていたのに、次曲では涼やかな顔をしたジャケット姿で歌っている……、そんな不自然な編集も、みんな当たり前のように受け入れ、テープが擦り切れるほど見た。収録されなかった部分は同ライブの写真集『GIGS』を見て補完しながら。

後半戦の盛り上がりの定番曲だった「IMAGE DOWN」で始まったことが、いつもと違うライブであることを物語る

 そして2001年、DVD化とCD化がされた。ビデオデッキとラジカセを繋ぎ、カセットテープに録音して、ビデオと同様にテープが擦り切れるほど聴いてきた思い出がとうとう正式な音源となった。とはいえ、レーザーディスク版を新たなフォーマットとして再発した形であり、VHS版で育ってきた身としては、曲順に違和感があった。本来であればこちらのほうが実際のセットリスト順に近いのだが、思い入れとは怖いものである。加えて、本作は結成20周年記念の一環としてマンスリーリリースされたものであり、『“LAST GIGS”』『1224』というBOØWY史の節目であるライブの初映像化に挟まれたため、そのインパクトも弱く感じてしまった感も否めない。

 2007年、長きに渡って馳せていた想いがついに現実となった。この年開始されたプロジェクト「20th ANNIVERSARY FROM BROKEN 2007-2008」のDVDセット『“GIGS” BOX』で全曲映像化、そしてライブアルバム『“GIGS” CASE OF BOØWY COMPLETE』がリリースされたのだ。これまで映像化、音源化されていた27曲に加え、初音源化となる12曲を加えた全39曲がセットリスト通りに並べられている、タイトル通りの“COMPLETE”だ。これで長きに渡って追い求めた青春の『“GIGS” CASE OF BOØWY』は終止符を打った、……はずだった。

 それから10年、今回の件である。「#BOOWY0807」というハッシュタグを見たとき、即座にその意は理解したが、何が起こるのかまではわからなかった。そうだ、“COMPLETE”とはいえ、神戸と横浜2日間の編集版であることをすっかり忘れていた。おれたちの『“GIGS” CASE OF BOØWY』の旅はまだ終わっていなかったのだ。

 今回、神戸と横浜、それぞれの音源が別々なものとしてリリースされる。長年に渡り、見て、聴いて、追い続けた『“GIGS” CASE OF BOØWY』の全貌が明らかになるのだ……、そう聞くとコレクターズアイテムのように思えるが、BOØWYの集大成とも言えるこのライブアルバムは、入門編としても最適だ。BOØWYをまだ知らない若い世代から「何から聴き始めたらよいのか?」と尋ねられることがあるのだが、私は決まってベストアルバムではなく、ライブアルバムを勧めている。なぜなら、BOØWYの真骨頂はライブにあるからだ。

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