電気グルーヴが語る、楽曲制作の流儀「悲しみや怒りを無理やり同意させるのはカッコ悪い」

電気グルーヴが語る、楽曲制作の流儀

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「真顔か笑顔で歌える曲のどっちかしかない」(石野卓球)

ーー瀧さんの役者仕事もすっかり定着しましたが、それによって卓球さんとの関係性が変わったり?

瀧:まあ、やっぱり他の現場とは違いますよね。ここまでぶっ飛んだ人は、他のところにはいないっていうのもあるし(笑)。一応、自分のところですからね。だから、そこはストレスなく。逆に、電気グルーヴは、仕事っぽい感じではなくできているので、すごいラッキーなことだと思いますね。芸人さんとかでもコンビとかの場合は、ずっと仕事で一緒だから、いろいろ大変とか言うじゃないですか。そういうのとは違いますよね。

石野:芸人さんって、仲が悪くても人前に出たら、仲が良い体でやらなきゃいけないんでしょ? うちらは別に、そういうのないですから。今日は機嫌が悪いのでとか、さっきケンカをしたのでとか言いながら出ていくことができる。

瀧:うん、できるできる(笑)。

ーーステージも制作も、普段のお二人とギャップがないと。

石野:うん。そもそも、何かを演じるっていうのが……まあ、瀧は役者もやるから、演じるのが仕事でもあるんだけど、電気に関しては、演じるっていう意識じゃないもんね。

瀧:うん。

石野:で、特に俺は演技とかできないから……演じてやるんだったら、いくらでも方向性はあるわけじゃないですか。でも、うちらの場合は、演じるっていうかーーそう、そもそも電気の歌詞には、ひとつルーツがあって。悲しい表情で歌わなきゃいけない曲とか、怒りの表情で歌わなきゃいけないテーマの曲はやめよう。真顔か笑顔で歌える曲のどっちかっていうのがあるんですよね。で、それはやっぱり、芝居をしたくないっていうのがあって。まあ、人前に出たら、別に作り笑顔ぐらい作りますよ。ホントに楽しければ笑うし。でも、悲しい曲を歌うときに、毎回悲しい芝居をするのとか、「それ、ホントに音楽なの?」っていうのがあって。

瀧:歌い手の人と同じ気分、モードにならないと、入り込めない曲ってあるじゃないですか。そういうのとは違うし。だから、演じるっていうのとはちょっと違って、電気のときは、ステージの上って、ちょっとハレの場というか、やっぱテンション上がるじゃないですか。そこでの反応を、リアルタイムにうまいことやるっていう感じなので、もうオートマチックに近いんですよね。

石野:そう。だから、悲しみとか怒りの感情を人に無理やり同意させるのは、すごいカッコ悪いことだとうちらは思っているんですよね。たとえば、フェスで「今から悲しい曲をやります」って言って、みんなが悲しい顔して受け止めるのってさ……家でやれよっていう。

瀧:まあ、フェスのでかいステージとかで悲しいバラードをやったら、1割、2割の人の胸に響く部分はあるかもしれないですけど、一応フェスっていうのは、お祭りの場っていうか、みんなが楽しむために来ているところだったりするわけじゃないですか。

石野:だから、瀧はよく言ってますよ。「今だけは悲しい歌、聴きたくないよ」って。

瀧:ははは。

石野:あそこの「聴きいたく」のところが、すっごい気になるんだよ(笑)。

ーー(笑)。ちょっと話をアルバムのほうに戻しますと、今回のアルバムには今から約2年前にリリースしたシングル曲「Fallin’Down」のアルバム・バージョンも入っていて。そう考えると、結構長期にわたる楽曲が入っているとも言えますよね。

石野:というか、あのシングルが、結構メロウな曲調だったから……それでアルバムの曲順が最初から決まったようなところがあるんですよね。この曲が、この位置(全10曲中6曲目)にあるっていう。まあ、これはみんなも知っている曲だから、それがアルバムのなかのピークじゃないけど、そういう位置に入って……。

瀧:ちょっと窓が開く瞬間の曲みたいなやつね。

石野:そうそう。だから、その曲をこの位置に置けば、アルバムは何とかなるなっていう安心感もあって。それで、他の曲がスーッとできたところもあるんですよね。ただ、それとは逆に、伊集院(光)のために作った「人間大統領」(『伊集院光のてれび』のテーマソングとして書き下ろした楽曲)っていう曲は……。

ーーあれも2015年でしたか。

石野:そう。それも今回のアルバムに入れざるを得ないというか……結局1曲目にしたけど、最初は全然違うところに入れていて。

瀧:ちょっと、浮いてたんだよね。

石野:「Fallin’Down」とは逆だよね。この曲があるっていう安心じゃなくて、この曲、どうしようっていう(笑)。まあ、最終的にはアレンジすることによって、馴染んだんですけど。だから、その2曲が全然タイプの違う曲だったというか……「人間大統領」っていうのは、結構面白いというか、そっちのタイプの曲だし、「Fallin’Down」は、もうちょっとメロウで面白い要素は無い曲なので、その2曲をアルバムに同居させなきゃいけないっていうのが、最初からテーマというか使命としてあったんですよね。で、じゃあ、そのあいだを埋めるものっていうので、自ずと方向性が決まってくるというか。だから、そのどっちかがなかったから、あったほうの曲の方向性で、ガーッと行っちゃってたかもしれないよね。「人間大統領」しかなかったら、もっとふざけたアルバムになっただろうし。

瀧:そうだね。

ーー「人間大統領」と「Fallin’Down」が、アルバムの道しるべになったと。

石野:まあ、アルバムを作ろうって言ったときに、もうすでにあったのは、その2曲なので。

瀧:とはいえ、それがアルバムのすごいコアになっているわけじゃないんですけどね。この町とこの町には寄らなくちゃいけないってことが決まっているようなもので、そこが目的地なわけではない。

石野:そうだね。

瀧:こことここは絶対通るから、じゃあどのルートで行ったらいいだろうかって、途中の風景のこととかいろんなことを考えながら、組み立てていった感じですね。

石野:アルバムっていうのは、レコーディングに入って、そこでできた曲を並べてみて、それをまとめて出すのが、まあ通常じゃないですか。でも、うちらは最初からある程度曲順が決まっているんですよね。というか、ソロで出した『LUNATIQUE』ぐらいから、そういうふうにしているんですけど、そうすると全体の流れもわかるし、必要な曲っていうのも見えてくるんですよね。

ーーなるほど。

石野:で、9曲目に入っている「ヴィーナスの丘」って曲は、最初入ってなくて、その前の「トロピカル・ラヴ」と最後の「いつもそばにいるよ」が続いていたんですけど、あまりにも曲の温度差が激しかったんですよね。で、そのときちょうど「ヴィーナスの丘」を作っていたので、じゃあそれを入れましょうってことになって。ただ、ボーカルはうちらが歌わないほうがいいなっていうのはあって。で、男でもないし、若い女性の感じでもないし、誰がいいかなって思ったときに、(夏木)マリさんのことを思い出したんです。

ーー夏木さんが昨年4月に出したアルバム(『朝はりんごを食べなさい』)に、卓球さんが楽曲提供していましたよね。

石野:そうそう。マリさんとは去年の頭に一緒にやったし……それは今回2曲参加してもらったトミタ栞ちゃんも同じなんだけど、向こうから依頼がきたってことは、とりえずこっちに敵意は無いだろうっていう(笑)。それでマリさんにお願いして。だから、その曲だけ、ちょっとあいだが空いているんですよね。でも、マリさんが歌ってくれて、すごい良かったですね。

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