「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第31回 Maison book girl『Solitude HOTEL 2F』
Maison book girlが2ndワンマンで示した、アイドル・J-POPシーンにおける特異性
そして、つい「儀式」と形容してしまうのは、メンバーがほとんど自身の感情を見せないからだ。Maison book girlは内面を封印する。その姿は、ロック系のアイドルたちが感情を露わにしているのと対照的だ。BiSに在籍していた時代のコショージメグミと、Maison book girlになってからのコショージメグミとでは、パフォーマーとしての姿がまるで違う。そうしたMaison book girlのスタイルこそが、シーンの中で彼女たちを唯一無二の存在にしている。
「sin morning」から「film noir」へと続いたあたりでようやく気付いたのは、「ここまでMCがまったくない」ということだった。さらに、さらに、「film noir」から「remove」「last scene」「最後のような彼女の曲」「karma」「faithlessness」までは、トラックがノンストップで編集されていた。「last scene」では、フロアの最後部からでも井上唯が汗ばんできたのが見えた。フロアが暑いのだから、ステージはさらに暑いだろう。しかもノンストップのステージなのだ。
Maison book girlは、サクライケンタによる表現のプラットホームであると考えることもできるだろう。しかし、背丈も髪型も髪色もバラバラな4人のメンバーの容姿や歌を通すことによって、より間口が広いものへと変換されていることも重要なポイントだ。そして、内面を封印されていても、そこからなお滲む感情が、Maison book girlの魅力を増幅している。「faithlessness」の<裏切られて 裏切られて 裏切るの>というシリアスな歌詞も、Maison book girlが歌うことで、甘いポップスへと変換されてしまうのだ。
ノンストップだったトラックが止まったのは「SE」だった。メンバーが一旦ステージを去ると、蝉の鳴き声とピアノの音色が響きだす。「14days」は、ステージ上にメンバーが不在のままポエトリーリーディングが始まった。この「14days」も、「cloudy irony」や「karma」とともにメジャー・デビュー・シングルに収録されるのだ。スクリーンには野菜や果物、卵を包丁で切る映像が流され続ける。
メンバーがステージに戻ってきたかと思うと、4人とも本を手にしていた。「empty」は、エレクトロニカなサウンドをバックにしたポエトリーリーディングだった。「君って本当に綺麗だ、まるで心がないみたい」。そんな一節といい、Maison book girlの言葉は、自分がこの世界に存在してしまうことへの悲しみに満ちている。
「lost AGE」では、矢川葵も汗ばんでいるのが見えた。「lost AGE」から「bed」まで、フロアは熱気に包まれたままだ。本編のラストは「blue light」。そのメロディーは、聴く者に少し甘い感傷を残した。
「以上、Maison book girlでした、ありがとうございました!」という最後の言葉が、本編で唯一のMCだった。
アンコールのクラップは、「bath room」の7拍に対応したもの。しかも、普通ならアンコールのクラップはだんだん早くなりがちなものだが、ほぼ一定のBPMを維持していることに驚いた。
Maison book girlはTシャツに着替えて再登場。この日初めてとなる普通のMCがようやく始まった。満員のフロアを眺めながら、メンバーは即日ソールドアウトについて感謝の言葉を述べた。
そして、コショージメグミが「お知らせ大魔王から戦いを挑まれているので、魔法の言葉を一緒に言ってほしい」という主旨のことを言うので、指示された通りファンが「ポン!」と言いながら右手を広げたところ、スクリーンには告知が。2017年の初春にニュー・アルバム『image』がリリースされるという。
アンコールは2度目の「cloudy irony」から始まった。そして、続く「my cut」ではリフトの嵐となり、フロアの混沌ぶりも鮮烈だった。それはMaison book girlという独自の道を行くアーティストだから生みだせる空間だった。
こうしてニュー・アルバムの告知がされたものの、いや実はまだメジャー・デビュー・シングルすら発売されていないのだ。しかし、Maison book girlがアイドルシーンにとどまらず、広くJ-POPシーンでどのように受容されていくのか、さらに期待は高まった。Maison book girlが何かを「拡張」してくれるのではないか。そう感じさせるのに充分なライブが『Solitude HOTEL 2F』だったのだ。
(撮影=齋藤明)
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter
■セットリスト
opening SE
1.cloudy irony
2.snow irony
3.bath room
4.sin morning
5.film noir
6.remove
7.last scene
8.最後のような彼女の曲
9.karma
10.faithlessness
SE
11.14days
12.empty
13.lost AGE
14.bed
15.blue light
En1.cloudy irony
En2.my cut
■リリース情報
『river (cloudy irony)』
発売:2016年11月30日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD) 1,667円+税
通常盤(CDのみ) 1,204円+税
<CD収録内容>
1. cloudy irony
2. karma
3. 14days
4. cloudy irony (instrumental)
5. karma (instrumental)
6. 14days (instrumental)
※初回限定、通常盤共に同内容
<初回限定盤付属DVD>
・cloudy irony (music video) ・snow irony (live on Aug.9, 2016)
・film noir (live on Aug.9, 2016) ・bed (live on Aug.9, 2016)
・blue light (live on Aug.9, 2016)
■インストアイベント情報
・予約イベント
11月19日(土)タワーレコード新宿店
11月20日(日)タワーレコード渋谷店
11月24日(木)タワーレコード錦糸町店
11月25日(金)タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
11月27日(日)タワーレコード難波店、タワーレコード梅田NU茶屋町店
・リリースイベント
11月29日(火)タワーレコード川崎店
11月30日(木)新星堂サンシャインシティアルタ店
12月1日(木)タワーレコード八王子店
12月2日(金)タワーレコード横浜ビブレ店
12月3日(土)タワーレコード新宿店
12月4日(日)タワーレコード渋谷店
12月9日(金)渋谷 HMV&BOOKS TOKYO