米津玄師が考える、音楽表現の過去・現在・未来「自分はスクラップの寄せ集めみたいなもの」

米津玄師が考える、音楽表現の過去・現在・未来

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「健康的で生産的な生活の方が、カッコいいんじゃないか」

――そんな中から生まれてくる表現についてですが、『Bremen』のインタビューでは、初期の頃は「自分が美しいと思うもの」に夢中で、同作においては「普遍的でみんなが楽しめるもの」にフォーカスしていたと話していましたね。その点で、今作でもモードの変化はありましたか?

米津:自分が美しいと思うものから、普遍的なものへというのは、何かの反動なのかなと思います。そして今は、とにかく遠くに行きたい、という感覚が強かったですね。自分がここにいるんだとしたら、ここじゃないところであればどこでもいいから、遠くに行きたい。それが結果として、やっぱり普遍的なものを作ることにつながっています。

 言葉が難しいのですが、生産的なものを作りたい、とは思うんです。聴いてくれた誰かに対して、ほんの少しでいいからポジティブな方に作用するものでありたい。聴いてくれる人を暗い気持ちにさせたり、死にたいと思わせるんじゃなくて、生きていく上での糧になるようなものでありたい、と思います。

――その点で言うと、蔦谷好位置さんも参加された「LOSER」は、これまでの緻密に構築していく楽曲とはまた違い、いい意味での乱暴さというか、バンド的な破れかぶれ感のある楽曲ですね。

米津:自己嫌悪というか、同族嫌悪というか…そういうところから生まれた曲です。自分が今いる場所から遠くに行きたい、というのは、自分がこういう人間だからこそ、こういう場所が嫌いなんだ、ということが前提なんですよね。だからこそ、自分で自分のケツを叩くような感覚で作りました。

――ロック史に残る“反逆者”である<イアン>や<カート>という名前も出てきますね。彼らに共感しつつ、それと同じことをしてもしょうがない、というメッセージもあるのかなと思いながら聴きました。

米津:どっちかって言うと自分もそっち側の人間だと思っていて、ふたりに共感するところはめちゃくちゃあるんです。でも、最近になって、それと同じことをやるのはダセえな、と思うんですよね。これも何かしらの反応だと思うんですけど、逆にもっと健康的で、すごく生産的で、例えば、一日三食ご飯を食べて、できれば運動もして、夜は遅くとも11時には寝る……みたいな生活の方がカッコいいんじゃないかと。そっちの方が、実際は面白いと思うんです。自己嫌悪の裏返しだったり、いろんな理由があると思いますが、今はそっちの方に行きたいな、という感じがすごくしていて。

――<愛されたいならそう言おうぜ>というフレーズが印象的でしたが、これも確かに、昔の米津さんなら言わないフレーズかもしれません。

米津:元々の性質としては、常日頃不機嫌でいた人間なので、何かに対してよく怒っているし、“これおかしいだろ”って思うこともめちゃくちゃあるんです。ただ、直情的に怒って、その怒りで何かを沈めようとするやり方って、浅ましいじゃないですか。そうじゃなくて、もっとうまいやり方で解消しろよ、と思うんです。頭ごなしに怒鳴りつけても何も変わらないから、表現上はなるべく朗らかに、という感じはありますね。

――サウンド面では、『Bremen』で示された米津さんの音楽スタイル、つまり歌やメロディの強さやドラマチックさ、練り込まれたアレンジという“必殺技”を踏襲するのではなく、新しいものをやっていこうという意気込みを感じました。

米津:これは分かりやすく、最近ヒップホップが好きでよく聴いていて、それを自分に取り入れたらどうなるのかな、と。とは言え、ゴリゴリのヒップホップをやるつもりもなくて、あくまで日本におけるロックン・ロールとして、ヒップホップのニュアンスを加えてみようと思ったんです。

――ヒップホップも新旧幅広いですが、どのへんがフィットしますか?

米津:昔のものも好きだし、最近のものも好きですが、一番はカニエ・ウェストですね。あの人はすごいバランス感覚の持ち主だと思います。ぶっ飛んでいることをやりながら、それを最終的には成立させる、ギリギリのチキンレースができる人だというか。それをすごく尊敬していて、自分もそういうものが作れたらなって。

――音楽のスタイルに加えて、カニエの表現者としてのあり方にも共感していると。実際にヒップホップ的なリズムや言葉の乗せ方がうまく馴染んでいると思いますが、ご自身ではどうでしたか。

米津:ヒップホップとの親和性は、実は前からあったのかな、と思いました。ヒップホップという形ではなかったものの、言葉遊び的に、気持ちよさを重視して言葉をいじくり回して音楽を作るということはけっこう前からやっていて、「ゴーゴー幽霊船」なんて完全にそういう曲です。譜割りや言葉の乗せ方をすごく考えて作ってきたところもあったので、意外と前からやっていることだな、と。ただ、本当にうまく言葉が乗っていないと、伝わるものも伝わんねえな、と思うんですよ。周りの音楽を聴いていても“手持ち無沙汰な音だな”“伸ばしときゃいいだろ、で埋めてるな”と思うこともあって、自分が作るときは、完全にかっちり、言葉が音に全部当てはまっていないと気が済まない。

――音に合わせて言葉を入れ替えることも?

米津:土壇場で変えることもよくありますね。

――なるほど。「LOSER」についてはずっと続いているある種の音の快感、その新しい展開と捉えられると思いますが、「ナンバーナイン」は音の組み立て方自体がこれまでにないものですね。

米津:プロデューサーとしてmabanuaさんに入ってもらったので、今アメリカなどで流行っているエレクトロっぽい手法で作れないかな、というところからスタートして。そもそもは、自分一人で作ってもいいけれど、人とやった方が楽しいし、クオリティも高くなるだろうと思っていろんな人を見てまわったなかで、ちゃんと分かってくれる人だと思ったのがmabanuaさんだったんです。charaさんとか、プロデュースを手がけられた人の楽曲を聴いて判断したんですけど、本当に話が早くて大正解でした。「こういうのがやりたいんです」と言ったら、すぐに分かってくれて。

――エレクトロへの関心は、ここ数年で深まっている?

米津:そうですね。最近は結構そればっかりになってるところもあって、それが今は一番楽しいです。これから先どうなるかわからないですけど。

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