メジャー1stシングル『Morning Glow』インタビュー
SHE'S 井上竜馬、メジャーへの決意を語る「“ピアノロック”というワードのアイコンになりたい」
トリッキーに進化するダンスロックと、いわゆるYOUTH WAVEと称される次世代インディバンドだけが若い世代のバンドの中軸を成すわけじゃない。メロディがこれほど推進力になっているバンドは久しく表舞台に登場しなかったのでは? と思うほど、バンド全体が歌うように曲を組み上げていく、それがSHE’Sの特徴だろう。アンサンブルの重要な位置にピアノを配置した彼らの音楽は、これまで、ポップシーンはともかく、日本のロックシーンでメインストリームに駆け上がることはなかった“ピアノロック”。なぜこのスタイルを選び、掲げるのか? メジャーデビュー・シングル『Morning Glow』のリリースを機にソングライターでフロントマンの井上竜馬にその理由を訊く。(石角友香)
「好きなバンドの芯には、メロディが豪快で覚えやすいという共通点がある」
――井上さんの最初の音楽体験ってなんですか?
井上:小学校1年の時に一回り上の従兄がピアノを弾いてるのを見て、「僕もピアノ弾きたい」と親にお願いしたのがきっかけです。それからもJ-POPなどは全く聴かず、クラシック音楽を聴いて、ピアノを弾いてって感じやったんですけど、小学校の4、5年頃、母の車で流れるJUDY AND MARYやBUMP OF CHICKENを聴くことが、ロックサウンドに触れるきっかけでした。でも自分から積極的にCDを買うとか聴き漁るとかではなく、車でかかってたら聴く程度だったんですけど、中学の時にラジオでELLEGARDENが流れてきたのを聴いて、初めてどハマりしてCDを買い漁って、コピーバンドしてっていうのが、バンドをやることになったきっかけですね。
――自分からピアノをやりたいと言ったのは、何が楽しそうだったんでしょう?
井上:ちっちゃい頃なんで、そこまで衝動的な感動は覚えてないんですけど、でもそっから辿ってきた音楽とか、聴いている音楽を考えても、ピアノのきれいな音や透明感が好きなんやろなと思いますね。
――ピアノ教室は何歳まで?
井上:中学3年生までですね。当時の映像を見ると、「うわ、俺うま!」とか思うんですけど、今はもう独学で。高3でSHE’Sやろう、ピアノロックやりたいなと思った時には、指は全然動かないし、楽譜も読めなくなってて、高校からはずっと耳コピでやってます。あれ、不思議ですよね。
――ピアノ、どれぐらいまで上達しましたか?
井上:練習が嫌いなガキで(笑)、先生にわがまま聞いてもらって好きな曲を好きな時に弾くっていうスタイルで。ベートヴェンやモーツァルトは好んで弾いてたけど、ショパン全然弾けへんとか。
――自分で好きな作曲家が分かってたんですね。
井上:単純に曲のクセってクラシックにもあるんで。バッハは賢いスーツ着たメガネの人っていうイメージがあって。ベートーヴェンは言葉数も少ないし近寄りがたいけど喋り出したら実はフレンドリーみたいな(笑)、そういうイメージがあったので、とっつきやすい作曲家の曲を弾いてました。何考えてるかわからない人は弾かなかったですね、シューマンとか。
――井上さんは、モーツァルトが好きそうですね。
井上:(笑)。一番弾いてました。楽しんでそうな感じがすごい好きやったんですよね。
――クラシックピアノに挫折して、他のジャンルに転向する人もいると思うんですが、井上さんの場合ELLEGARDENに出会ってしまったと。でも何か相通じるものを感じます。
井上:そう言われますね。メロディの感じとか歌い方とかも。でもクラシック以降に聴き始めた音楽って、全部洋楽で。僕にとってたぶん、体や耳に馴染むのが邦楽より洋楽やったっていう。
――ELLEGARDENも邦楽と思ってなかった?
井上:そうです。最初、洋楽やと思ってたし。でも聴いていくうちに日本語もあって「日本人なんや」って気づいたぐらいで。そこからELLEGARDENのルーツになってる音楽を辿っていって、ウィーザーとかニュー・ファウンド・グローリーとか、ポップパンクに手を出していって。YouTubeの関連動画でピアノロックバンドを見て、「うわ! 何これ?」って、その新鮮さにカルチャーショックを受けたんです。J-POPにピアノの音があるのは当たり前なぐらい馴染みがあるんですけど、ロックの衝動感のあるサウンドの中に、すごい透明感と存在感があるピアノが舞ってるように鳴ってるっていうのは、僕にとって新しさしかなかった。今でこそピアノロックってちょっと浸透しつつあるんですけど、その時は全然なくて。なので、「これは自分がやるしかない」というか、「俺ピアノ弾けるし、できんじゃない?」と思って始めました。
――ちなみにウィーザーやニュー・ファウンド・グローリーの関連動画では何が出てきたんですか?
井上:最終的にジミー・イート・ワールドに行って、ジミー・イート・ワールドはピアノはないんですけど、エモのジャンルをどんどん掘り下げていったときにメイってバンドにたどり着いて、もうそれが僕にとって人生変えるぐらいの出会いやったというか。だからピアノエモとかピアノロックをやろうと思ったのはメイがきっかけですね。
――井上さんの場合、それらの音楽にエモやクラシックの概念ありきで惹かれてるわけじゃないですね。
井上:すごく根源的な話ですけど、ジャンルレスでいいものはいい。メロディを第一に聴きますし、クラシックだとしてもストリングスのメロディラインだとか。リスナーから入ってるからリスナーが一番聴く部分を理解してるつもりなんで、作曲でもこだわるのはメロディラインっていう風にはなりますね。
――ELLEGARDENも楽曲が良かったわけですよね?
井上:そうですね。それまで別にパンクロックが好きだったわけでもないし。彼らの曲って、今のメロコアや2ビートの感じではなく、普通の8ビートでちょっと疾走感がある曲が主体だったんです。「これがメロコアか」とかじゃなくて、単純にロックサウンドで声がよくて歌がよくてメロディがよくてって感じでのめり込んだんで。好きなバンドの芯には、だいたいメロディが豪快で覚えやすいという共通点はありますね。