ライブハウス『WWW』代表を直撃
ライブハウス『WWW』はいかにして生まれ、どこに向かうのか 代表・名取達利氏を直撃
「自分がやりたいことを突き詰めていったら、ホテルに辿り着いた」
――手応えを感じたのは、どれくらい経ってからでしょうか?
名取:実は結構最近なのですが、3年目終わって「なんとかなるかもな」と思い始めたことは確かですね。よく考えたら、ライブハウスとして形状がすごく変わっているから、定着するのは大変に決まってるんです(笑)。
――普通は平らにして、沢山お客さんが入るようにしますからね。
名取:当時はスタンダードなものを造っても埋没してしまうかなと思ってました。ただ、スリバチ状になっていて、平らなスペースは前のほうだけで真ん中から後ろはずっと階段ですから、暴れたいような人たちは使いにくい。
――他方で、アーティストによっては見やすいという声もありますし、変化をつけることができる会場だと思います。
名取:面白い使い方や、実験しようとしてくれる人たちがいるから、自分たちも「こう使ったほうが良いのでは?」と提案できました。そういう人たちのおかげもあって見た事ないような光景も見せてもらってきました。
――チームを立ち上げてからも、名取さんが経営面と現場の両方を見ていたのでしょうか。
名取:そうですね。経営面と現場を両方自分で見ることに対してはすごくこだわりがあります。現場の目線を経営に直結してフィードバックしたかったですし、その逆も同じくです。今は5年経って、少し安定してきましたが、最初は持続可能な事業にするべく、とにかく試行錯誤の繰り返しでした。僕が全部を決めたら多様性が生まれないから、スタッフの裁量をできるだけ拡げることも大事にしてきましたが、そうすると経営面でコントロールが効かなくなる部分もあるし、自分自身の仕事をビジネス的にリアルタイムに評価するのも難しいと思っていました。だから中長期的なプランを自分で描いて、今はここがダメでも数年掛けてこうしていく、を繰り返しやらないと理想に近づけないと思いました。僕は基本的に音楽のことを考えるときに、あまり商売のことを考えたくない。だからこそ、現場の最前線ができるだけそれを考えないで済むよう自分でバックエンドの経営面も見ようと。中長期的に強度のある経営計画があれば、現場の多少の失敗は飲み込めるし、音楽的な部分に集中できる環境も作れる。結局、音楽というのは、現場のミクロな部分というか、「自分の部屋で聴いてるものが最高だ」というような価値観に帰結するもので、そういう感覚をできるだけそのまま現場に持ち込めるようにしたかった。
――そのためにチームを作ったわけですね。
名取:イベンターさんに使ってもらうために、営業的な工夫をどうするのかは大切で、ノウハウが必要とも思いましたが、まったくのゼロから始められるというところが逆に強みでもあると思ったのであえて経験者をチームに入れないようにして、みんなで考えながらやることを大事にしました。会社的には組織図の端にある辺境の事業部という感じなんですけど、その辺境感がたまらない(笑)。リスクを取ってでも好きなことをやるには監視の目を逃れて辺境へ向かうぞと(笑)
――なるほど。ではイチから育てたスタッフとともにWWWを確固たるものにしたうえで、2号店を作ると。
名取:そこまで2号店的なイメージはないですけどね。どちらかというと拡張するという感じのイメージです。2号店とは便宜上言っていますが、両方あわせてWWWという感覚です。
――では、シネマライズが閉館したタイミングと一致したことも大きかったのでしょうか。
名取:そうですね。WWWのキャパシティが450名で、2号店が700名の予定なので大きくは変わらないのですが、2号店はフロアがフラットでクラブユースにもいい構造なので、差別化はできるかなと。2号店にもWWWと同じくラウンジ的なスペースも作れるので、合わせて4つの個性的なエリアが一体になって使えることは魅力的だと感じました。
――状況によっては、すべてのエリアを同時に使用することが可能になる予定とのことでしたね。
名取:設計中なのであくまで計画段階ですが、まあそれが特に新しいかたちというわけでもないですけど、やれたら面白いなと思いますし、実現に向けて動いています。
――ちなみに2号店以降、将来の構想はあるのでしょうか。
名取:あくまで理想なので聞き流してほしいんですけど(笑)、自分がやりたいことを突き詰めていったら、ホテルに辿り着いています。
――ホテルですか。
名取:ホテルといっても格式ばったものではなく、フロントマンはライブハウスにいそうな連中でよくて、東京のカルチャーを体感できるような。もちろん、屋上や地下に音楽の鳴るスペースがあって。
――コンセプチュアルなホテルということですね。最近池袋にオープンした『BOOK AND BED TOKYO』のようなところでしょうか。面白そうです。
名取:そうですね。レストラン、バー、ギャラリー的な映画も上映できるようなスペースもあって残りは客室みたいな。ホテルなら地方のアーティストのサポートや海外アーティストのレジデンシーなんかもできますし、文化が混ざっていくプラットフォームになる。この場合ソフトが重要ですが、そこはWWWと連動できる。自分がやりたいことを拡張していくと、そうなるのかなと。まあ、またイチからやるのは面倒なので、将来やる気が残ってればですけど(笑)。吉里氏はホテルのコンサルやサポート、地域の街づくりなども手掛けているので、一緒にやれれば可能性はなきにしもあらずという感じでしょうか。自分は衣食住だけで満足できないというか文化が無いとつまらないので、日本のカルチャーや音楽を感じられるホテルがあれば良いと思いますし、世界中からそういう人が集うようなところがあるというのは自分の描いている文化的に多様性のある場所の究極系だと思うので、実現できたらいいですね。
(取材・文・写真=中村拓海)
■2号店情報
店舗名:未定
住所:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル2F(1号店と同じビル)
開店予定日:2016年9月(予定)
http://www-shibuya.jp