今井寿と藤井麻輝によるユニット・SCHAFT再始動の衝撃ーー名盤『SWITCHBLADE』を改めて振り返る

『DANCE 2 NOISE』と「XEOレーベル」

 SCHAFTのはじまりは、ビクターエンタテインメント(現:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)より1991年にリリースされたコンピレーションアルバム『DANCE 2 NOISE』への参加だった。「001(91年)」から「006(93年)」に至るまで、計6枚がリリースされており(※ 現在は廃盤)、BUCK-TICKやLUNA SEAのメンバーをはじめ、THE MAD CAPSULE MARKET’S、町田町蔵(現:町田康)、北村昌士(YBO2)、福富幸宏(SODOM)、サエキけんぞう(パール兄弟)……といった異色の顔ぶれが並ぶ。ポップ性や大衆的なものは皆無であり、オルタナティヴ・ロックや電子音楽など、実験要素をひたすら突き詰めたものだった。

 ビクターは、BUCK-TICKが所属していた「Invitation(インビテーション)」が主力レーベルであったが、『DANCE 2 NOISE』のリリースを機に、「XEO Invitation(ゼオインビテーション)」レーベルが1992年に設立された。アルファレコードより移籍したSOFT BALLETを筆頭に、M-AGE、BRAIN DRIVE、COALTAR OF THE DEEPERSといった新進気鋭のアーティストがデビューし、SCHAFTもこのレーベルからリリースされた。

 『SWITCHBLADE』リリースの1ヶ月前の8月、興味深い作品がリリースされている。〈英独ニューテクノの先鋭リミキサーによるアンビエントミュージック〉と掲げられた、BUCK-TICKの『シェイプレス』だ。イギリスとドイツのエレクトロアーティストたちが、原曲をとどめることなくリミックスした作品である。エイフェックス・ツイン、オウテカ、ドクター・ウォーカー(エアー・リキッド)……といった面々からも、この作品の本気度がうかがえるだろう。そして『SWITCHBLADE』のリリースと同日の9月21日に、コンピレーションアルバム『REAL TECHNO INTELLIGENCE』がXEOレーベルよりリリースされた。『DANCE 2 NOISE』のテクノ特化ともいえる内容で、BUCK-TICKが『シェイプレス』とは別のリミックス楽曲で参加している。当時、クラブで“踊るテクノ”が一般的だったが、これは家で“聴くテクノ”を提示したアルバムである。90年代後半になると、デジタルロックやミクスチャーロックの台頭により、コンピューターを主とした音楽も広まるが、レコード会社とともにいち早くそうしたエレクトロ・ミュージックをメジャーで確立させようとしていたのである。

 SCHAFTは当時よりも後年からの評価が高いともいえる。しかし、それは「早すぎた」のではなく、むしろ「切り開いた」部分が大きいだろう。彼らから教えられたことが山ほどあるのだ。『SWITCHBLADE』を今改めて聴いても驚きを隠せない。形容しがたい非凡な音楽と、リマスタリングの必要性すら感じさせないほどに、細部まで行き届いた繊細なサウンドの洪水に飲み込まれると、「色褪せない」などという安易な言葉は似合わず、流行でも普遍でもない、次元の違うところにいたことを思い知らされるのだ。どこか無難や凡庸に甘えそうになる概念は、彼らの先鋭な実験精神によって、完膚無きまでに叩き壊されてしまう。

 現時点では2016年初頭に行われるライブのみの発表であるが、現在レコーディング中であるという。「ギターをギターらしく弾かないギタリスト」と「ライブ嫌いの直立不動のキーボーディスト」は、今、SCHAFTでどんな音楽を作り出そうとしているのか……。メディコ・デッラ・ペステ、ペスト医師を彷彿とさせる不気味な風貌のアーティスト写真に震えがとまらないのである。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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