今井寿と藤井麻輝によるユニット・SCHAFT再始動の衝撃ーー名盤『SWITCHBLADE』を改めて振り返る

 2008年、国内外アニメファンの中で話題になった曲がある。外国人女性ボーカルの優美な歌ながら、ヒトラーの演説をコラージュし、無機質なマシンビートと緊迫感漂う管弦楽アレンジが融合して生みだされる帝国主義的な昂揚感──。アニメ『HELLSING』OVA版の海外用トレーラーとして使用された(のちにOVA第五巻にも挿入歌として収録)、今井寿(BUCK-TICK)と藤井麻輝(minus(-) 、睡蓮、ex.SOFT BALLET)によるユニット、SCHAFTの「Broken English」だ。1994年リリースのアルバム『SWICTHBLADE』収録の同曲は、ジュリアン・リーガン(All About Eve)をボーカルに迎えたマリアンヌ・フェイスフルのカバーである。原作者の平野耕太がSCHAFTのファンであることから使用に至り、2009年には藤井と芍薬のユニット、睡蓮が同OVA第六巻で「Magnolia」を書き下ろし、同じく睡蓮の「浸透して(Hellsing ver.)」は第七巻のエンディングテーマを飾っている。

 移り行く90年代シーンの中、あらゆる潮流を汲んだ前衛的な音楽センスを以て、ロックと電子音楽の狭間に新たなエレクトロ・ミュージックの金字塔を打ち立てたSCHAFT。鬼才、奇才、異才、異彩……、そんな言葉がもっとも似合う二人が1994年以来、20年以上の年月を経て、2016年再び本格始動するという。

 SCHAFTの音楽を説明するならどんな言葉を用いればよいのだろうか。〈今井寿 – Guitars, Noises, Vocals/藤井麻輝 – Electronic Devices, Computer Programming, Acoustic Piano, Noises〉という当時のクレジットからも得体の知れないユニットであることがわかるだろう。

 1994年9月にリリースされた唯一のオリジナルアルバム『SWITCHBLADE』(※ 現在は廃盤)は、KMFDMの初期メンバーであり、PIGのレイモンド・ワッツを第三のメンバーのポジションに据えて制作された。インダストリアル、アンビエント、アブストラクト……、様々な前衛的とも実験的ともいえる音楽をやりたいようにやっている。方向性により様々なアーティストが迎えられる楽曲群は、良くいえば「バラエティに富んだ」であるが、作品としての統一感はなく、むしろ「制作者の自我が全面に出た」と言ってしまったほうが正しいのかもしれない。万人に薦められるものではなく、ロックやポップスとしては完全に破綻している「難解な音楽」としか説明しようがないのである。当時、バンド/アーティストとして高い人気と確かな地位を誇っていた今井と藤井が、なぜこのような作品を作ったのだろうか。

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