FORWARD・ISHIYAが国際色豊かなイベントに潜入
インドネシアから中国まで……世界中のアーティストが集った『SOUL BEAT WORLD 2015』レポ
四番手は去年初来日を果たし、日本のパンクス達の心を鷲掴みにしたMARJINALのアコースティックユニットMAJIK。ここで、MARJINALの中心人物であり、MAJIKの2人、マイクとボブについて触れて行きたいと思う。
MARJINALの中心人物マイクとボブは、スハルト独裁政権中のインドネシアの首都ジャカルタで1996年にMARJINALを結成した。かつて活動家として反体制を叫び、学生運動を続けて来た2人は、その運動中に知り合い、政府に対する怒りや不正だらけの世の中で起こっている事実を記録し、自分たちのメッセージを伝える手段として音楽を始めた。「自分たちの経験と知識を共有することで、誰かの人生の選択肢が増えればいい」というのが彼らの活動方針だ。
インドネシアはスハルト独裁政権下、汚職と腐敗と不条理がはびこり、インフラは整備されず医療制度は機能しない。警察は賄賂を受け取り、官僚は富に浸り、国民の多くはスラムに生きている。子どもが必死に働き、信号待ちをする車に裸足で駆け寄り小銭をせがんでいるのが実情だ。
マイクとボブは、バンドより以前から独自の生活共同体「タリンバビ」を運営しており、その家ではそういった孤児を含む無職のパンクスを無償で受け入れ、音楽やアートを体験する空間として解放し、生活の場を提供している。食事ができない日もあれば、幼い住人を学校へ通わせることもできない。だからこそ、この場所が生きて行く術を習得する「学びの場」となって欲しいと。「クリエイティビティこそが、自分を救うことができるのだから」と言う彼らは、「バンドはツールに過ぎない。自由を獲得するため。この国を変えるため、革命を起こすために僕たちにはやるべきことがある。守るべき仲間がいる。だからこれだけ長い間、目標を見失わずに活動を続けていけるんだ」と話す。
彼等の未完成ドキュメンタリー映画『マージナル=ジャカルタ・パンク 2015年版Jakarta, Where PUNK Lives - MARJINAL』を観て、彼らの人間性に触れると、彼らの音楽は心にも体にも、人生そのものにも深く強く響いてくる。
ボーカルのマイクは2013年に単独で来日し、映画上映と共に日本のパンクス達と交流を深め、翌2014年MARJINALとして橋の下世界音楽祭に出演したほか、日本各地をツアーして一気に日本のパンクス達の心を鷲掴みにした。
惜しみないシェアの精神と、心の底から人を尊敬し学んでいこうとする彼らに触れたときに、どうしようもなく惹かれて行く自分に気付く人間は多いだろう。
常に優しく、楽しく、ときにはふざけ合いながらも助け合う彼らのスタンスは、日本においてもジャカルタにおいても、決してぶれることなどないのだろう。そんな彼らが全身全霊で演奏し、歌う楽曲を聞くと、自然と感動が溢れてくる。言葉がわからなくても、必ず通じ合うものがあるということを、彼らはいつも教えてくれる。
前回来日時に、日本のパンクスがMARJINALの「LUKA KITA」という楽曲のカヴァーをして、日本語訳をしたところ、彼らはそれを懸命に覚えて、前回来日時と今回のアコースティックバージョンでも歌ってくれた。新曲でも日本語で作った歌を披露していて、彼らの「伝える」という意志と姿勢が心に深く刻まれる。ここまで素晴らしいバンドがあることはパンクス達の誇りであり、ひとりの人間としても誇りだと思う。
彼らのことをより知りたい方は、映画『マージナル=ジャカルタ・パンク 2015年版Jakarta, Where PUNK Lives - MARJINAL』を観ることを薦める。今でも進化し続ける彼らの様子を追ったこの映画は次回、6月21日に名古屋大須七ツ寺共同スタジオで上映される。当日は監督の中西あゆみさんのトークもあるとのことだ。
そして最後に登場したのが中国内蒙古から今回で5回目の来日となるHANGGAI。彼らは2011年にはフジロックにも出演し、2012年から橋の下世界音楽祭に出演している。彼らの音楽は壮大なモンゴルの大地を連想させる、今までに感じたことも聞いたこともない世界だ。モンゴル民俗伝承のホーミーと馬頭琴による世界観にロックを融合させた演奏は、初めて聞くものに必ずといって良いほど衝撃と感動を与える。新しいアルバムからの楽曲でもそうだが、モンゴルの広大な大地を馬に乗って疾走するかのようなリズムは、自分がいま、馬に乗って走っているかのごとき錯覚を起こす。このバンドを知らないということは人生を損しているのではないか。そう感じるほど素晴らしい楽曲と演奏、ステージだった。
橋の下世界音楽祭はフリーライブだが、観客に「投げ銭」と称し、そのイベントを楽しんだ対価を、観客の気持ちにまかせて払ってもらっているという。今回のようにライブハウスでやる際にはそうは行かないが、この橋の下世界音楽祭は独特の魅力と精神が生きている本物のフェスティバルだと思う。来年も行われるのであればぜひ足を運んでみたい。世界に向けて「これが日本の音楽フェスティバルだ」と堂々と誇れるフェスだと、心の底からそう思う。
■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST
(PHOTOS BY AYUMI NAKANISHI)
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