9月12日に約12年ぶりの復活ライブ
YEN TOWN BANDの音楽はなぜ古くならないのか 小林武史がシーンに与えた影響を読み解く
岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』(1996年公開)の中で誕生したバンド・YEN TOWN BANDが、9月12日に新潟・越後妻有で開催される芸術祭『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015』で復活ライブを行うと発表した。
同バンドは、映画内でChara演じる主人公・グリコがボーカルを務める架空のバンド。サウンドプロデュースは同映画の音楽を担当した小林武史が務め、1996年7月にリリースしたシングル『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』は85万枚を超えるヒットを記録した。なお、同イベントは過疎高齢化の進む日本有数の豪雪地・越後妻有を舞台に、2000年より3年に1度開催されている国際芸術祭で、小林は金融グローバル社会から取り残されていく地域にアートの力で世界の注目を集めていることに目を付け、お金中心の世界にアンチを唱えたYEN TOWN BANDを“概念”として登場させるというアイデアを思い付いたという。
2003年10月のイベント出演以来およそ12年ぶりの復活を遂げる同バンドが、約20年の時を経てなお支持されている理由とは一体何なのだろうか。音楽ライターの森朋之氏は、彼らが当時の音楽シーンに与えた影響についてこう語る。
「YEN TOWN BANDの音作りは明らかに一線を画しており、 “60年代~70年代のアナログ感を現代的な日本のポップスのフォーマットにどう落とし込むか?”というスタンスに忠実でした。当時、海外ではレニー・クラヴィッツ、オアシス、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、60年代、70年代の音楽を再解釈したバンドが活躍していたので、その動きともリンクしていたのかもしれません。YEN TOWN BANDのサウンドは日本の音楽シーンに新たなトレンドを生み出しましたが、ジョン・レノンの『ジョンの魂』を音楽の原点に挙げている小林武史氏にとっても、自らのルーツとメインストリームで支持される音楽を結びつけたという点において、大きな成果だったと思います」
また同氏は、小林が今回の復活について「映画と同様に、20年近く経っても古くなっていない。アジアや(一部)ヨーロッパなどでも時代を超えて高く評価されている」とコメントしていることについて、「映画の世界観」をキーワードに挙げた。
「YEN TOWN BANDの音が古くならない理由としては、映画「スワロウテイル」の世界観が作用していると思います。架空の歴史をベースにしたストーリーを持つ『スワロウテイル』は、日本が舞台ではあるものの、独特のエキゾチズムが全編に流れていて、いつの時代なのかもよくわからない。その劇中バンドとして登場するYEN TOWN BANDにも当然、無国籍なムードが反映されていました。今回改めて『MONTAGE』を聴き直してみましたが、“アナログ感があるのに未来を想起させる”“聴いたことがない音楽なのに懐かしい”という不思議な手触りはまったく変わっていませんでした」