西廣智一がGLAY新作を徹底解説
TERU&HISASHI曲に見る「GLAYらしさ」とは? 52ndシングルが示すものを考える
そしてHISASHI作詞作曲の「微熱(A)girlサマー」は、彼らしい言葉遊び満載の歌詞が魅力的なスカテイストのロックチューン。HISASHIの楽曲にしてはシンプルな印象を受けるサウンドだが、これについて彼は「音数が少ない、ちょっと力の抜けたスカパンクみたいなのをやりたいなとずっと思っていて。歌詞は淡い夏の思い出がテーマで、結構いろんな言葉遊びをしてます」と説明している。歌詞にも登場するFPM(Fantastic Plastic Machine)こと田中知之は実際に同曲にゲスト参加しており、“らしさ”を存分にアピールしている。そのほかにも歌詞には浜田麻里の「Return to myself~しない、しない、ナツ。」やアニメ『さすがの猿飛』の主題歌「恋の呪文はスキトキメキトキス」などをモチーフにしたフレーズが飛び出す。この80年代テイストはHISASHIの「学生の頃に感じた、弾けるような夏の瞬間というのを切り取りたかった」という思いから生まれたもので、30代後半から40代半ばのリスナーなら思わずニヤリとしてしまうはずだ。
TAKURO以外の人間が「GLAYらしさ」を存分にアピールするシングル曲を用意したという事実以外にも、興味深いポイントは存在する。それは、これらの新曲群がどれも夏を彷彿とさせる作風だということだ。タイトルからしてそのまんまの「微熱(A)girlサマー」はまだしも、「HEROES」に関してもTERUは「甲子園球場の夏の大会とか、あの日差しの強い、ちょっと蜃気楼がフワーっとしてるような暑さを曲の中で表現したかった」と語っている。その結果、5月のリリース作品にも関わらず早くも夏が待ちきれなくようなトータル性が誕生。そんな中に、清涼感を感じさせるバラード「つづれ織り~so far and yet so close~〈Live from Miracle Music Hunt 2014-2015〉」が入ることで、絶妙なバランス感が生まれたのも非常に面白い話だ。
この“少し気の早い夏シングル”を携えて、GLAYはいよいよ20周年イヤーの総決算として、10年ぶりの東京ドーム公演を行う。彼らにとって特別な場所である東京ドームで、2日間にわたりどんな選曲を聴かせ、どのようなステージを見せてくれるのか。そして今回の新曲がどのタイミングに登場するのかなど、楽しみは尽きない。さらに彼らは6月以降もその歩みを止めることなく、LUNA SEA主催フェス『LUNATIC FEST.』への出演や、地元函館に完成した函館アリーナのこけら落とし公演『GLAY Special Live at HAKODATE ARENA GLORIOUS MILLION DOLLAR NIGHT Vol.2』などが控えている。この1年の大掛かりな活動で一区切りを付けてしばらく休みを取るわけでもなく、そのまま何事もなかったかのように活動を継続するのは今に限ったことではなく、GLAYの場合はこの20年間ずっとそうやって途切れることなく活動を続けてきたのだ。この勤勉さは非常に日本人的とも言えるが、それ以上に「音楽が究極の趣味であって、好奇心が止まらい、すごくクリエイティブなメンバーだったから、というのが一番大きいんじゃないかな」(HISASHI)、「『微熱(A)girlサマー』をレコーディングしたとき、亀田誠治さんが『GLAYすごいよ! すげえ音楽やってるよ!』と言ってくれて。それがこれまでの20年間真面目にやってきたことに対する答えなのかな。4人が4人とも真剣に音楽と向き合ってこれたからこそ、今があるんだなっていうのを強く感じた」(TERU)という2人の言葉がすべてを物語ってるように思う。もっとも日本人らしくて、それでいて誰も真似できない領域にまで到達したデビュー21年目のGLAYがどこへ向かっていくのか、ぜひこれからも注目していきたい。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。