aikoが33枚目のシングル『夢見る隙間』で見せる、飽くなき音楽的冒険とは?
今作では、前作『あたしの向こう』から引き続きOSTER project、川嶋可能がアレンジャーとして参加。OSTER projectは1曲目「夢見る隙間」と3曲目「さよなランド」、川嶋は2曲目「未来を拾いに」をそれぞれ手掛けているのだが、前作に匹敵する音楽的冒険を楽しむことができる。
もちろんサウンド面のみならず、aiko自身が手掛ける歌詞も力が入ったものとなっている。軽快なシャッフルビートに乗せて歌われるのは、文字通り“夢見る隙間”もないほどに切ない思い。たとえ両思いであっても「これが最後かもしれない」「もう逢えないかもしれない」と不安な気持ちを訴え、その思いはサビで「明日も明後日も来年もやってきてくれるのかな わからない」とより強まる。しかし、この曲の主人公はただ不安なだけではなく、「あなたの愛だけで生きていたい」「すべてあの人にあげれば」という強い意志も覗かせる。そんな中で登場する「心があなたの事で全部埋まってしまった 夢見る隙間も残ってない」という象徴的なフレーズは、aikoにとって「好き」の究極的表現と言えるのではないだろうか。
さらに、この歌詞はaikoのファンがライブを観た後に感じる気持ちにも通ずるものがある。aikoに対するいろんな思いがありながらも、最終的には「心があなたの事で全部埋まってしまった 夢見る隙間も残ってない」という思いに達する。恋愛についてつづりながらも、視点を変えれば自身とファンとの関係性にも置き換えられる。そういった点でも、今回の「夢見る隙間」は現時点におけるaikoの「好き」の究極が詰め込まれた楽曲なのだ。
意欲的なシングルを2作立て続けに発表しているaikoだが、実は前アルバム『泡のような愛だった』リリースからまだ1年も経っていないのだから、ただただ驚かされるばかり。この音楽的冒険が次のアルバムでどのように結実するのか、早くも楽しみでならない。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。