柴 那典「フェス文化論」第10回(インタビュー前編)
VIVA LA ROCKプロデューサー鹿野 淳が語る、フェス2年目の挑戦「フリーエリアをなぜ増強したか」
「我々が作ろうとしているのは音楽の展示場」
ーー3日間のヘッドライナーについても聞かせてください。初日は[Alexandros]、2日目は10-FEET、3日目はthe telephonesがメインステージのトリをつとめます。彼らはどういった意味で今年の象徴になるんでしょうか。
鹿野:まず、今の時代の首都圏のフェスティバルは若い人たちが来るので、若いバンドがメインアクトになりがちです。ただ、そういう人たちのことだけ考えてやるなら、KANA-BOONから夜の本気ダンスまで、勢いのある若いバンドだけで構成すればいい。しかし、VIVA LA ROCKとしてはそれをやる意味がないんじゃないかと思いました。我々が作ろうとしているのは音楽の展示場であるし、フェスはメディア性を持った場でありたいと思っている。音楽には縦軸と横軸があって、「こういう音楽があったからこそ、今こういう音楽がある」という流れがある。ベテランや中堅の方々にも出ていただきたい。
――世代を超えたラインナップになっていることが前提になっている。
鹿野:そうなるとバランスがとても大事になってくるんです。若い人からベテランまで万遍なく並べて、その中でもアリーナクラスの会場でライブをやれる人がヘッドライナーをやる、という流れは一つのやり方として普通にあり得るものですよね。でも、それではフェスの持つ物語、フェスが持つメッセージというものが感じられない。マーケティングでしかなくなってしまう。そういうことを考えて、1日に2万人を動員するクラスのフェスティバルのヘッドライナーに[Alexandros]をお願いしました。これからメジャーデビューして世界で羽ばたくバンドが、まずは日本で天下を獲る。そういうことを実証するためには今が一番いいタイミングなんじゃないかと思います。それをこのフェスで彼らに担っていただきたい。
――2日目の10-FEETについてはどうでしょう?
鹿野:ベテランでありフォロワーも沢山いながら、いまだにキッズの味方であるバンドが日本のパンクシーン、ミクスチャーロックのシーンにはいます。そういうバンドであるDragon Ashや10-FEETは、VIVA LA ROCKというフェスに同志的な意識を持って出演してくれます。今年はその中で、10-FEETというベテランでありながらエバーグリーンな感性を持ってキッズたちにも同じ目線で愛されている人たちにヘッドライナーをやってもらいます。彼らも、世代や音楽の縦軸と横軸をつなげてくれる素晴らしいアクトになるのではないかと思ってのことです。
――3日目のthe telephonesは?
鹿野:さっきも言ったように、このフェスのポイントは埼玉県の音楽マーケットを拡大するきっかけになりたいと本気で思っていることにある。そういう、このフェスの哲学をカジュアルに、そして最も体現して協力してくれているのが埼玉県出身であるthe telephonesというバンドです。非常に残念ながら、このバンドは来年から無期限活動休止状態になるということで、今後はどうなるかわかりません。だからこそ、この機会に彼らに大トリをやっていただく。ポジティブで感動的に、このフェスなりの送り出し方をしたいと話し合っているところです。
ーー3日間のそれぞれの日に違った意味合いや物語がある、ということですね。
鹿野:今年は、隣県で同時期にVIVA LA ROCKと出演アーティストの半分くらいが被るフェスティバルが行われます。そのことが決まって、去年の秋頃からずっと悩んでいました。ライバル視している、ということではなくて、その位置付けをきちんと考えなければいけない、と思って。良いのか悪いのかわからないんですが、僕がたどり着いた答えが「両方来てもらう」ということでした。どちらか一方ではなくて、両方来てもらえるような形をとる。お客さんに選択肢を持っていただく、ということです。
――というと?
鹿野:具体的には、今年は3日間でそれぞれの色を明確に分けたブッキングにしています。「こういうタイプの音楽が好きな人はこの日のVIVA LA ROCKに行けばいい」ということが明確に伝わるラインナップになっている。本来はどの日でも同じように楽しめて、同じように発見があって、好きなジャンルと違う音楽も沢山鳴っている、というのがフェスのあり方だと思っているんです。けれど、今回に関しては3日間それぞれが一定の方向性を持っている、ということを明確にプレゼンテーションしました。特に2日目は、パンクやメロコアが好きな人にとっては激アツと言われています。