「ロックのマーケットを再構築したい」鹿野 淳が新しいロックフェスで目指すものは?

 5月3、4、5日の3日間、さいたまスーパーアリーナにて開催される新たなロックフェスティヴァル『VIVA LA ROCK』のプロデューサー、鹿野淳氏が、音楽シーンにおけるフェスを巡る状況と、自らのフェスの設計思想を語るインタヴュー。

 前編【VIVA LA ROCKプロデューサー鹿野 淳が語る、ロックフェスの「物語」と「メディア性」】では90年代の黎明期以降ロックフェスがメディア化してきた流れについて、またフェスの持つ二つの要素「ローカリズム」と「物語性」について話を訊いた。そして後編では、フェスブームがさらに拡大し飽和状態を迎えている状況、そしてその中での「VIVA LA ROCK」の戦略について語る。

「フェスがありすぎる」という疑問が出るのもひとつの現実

――今のロックフェスを巡る状況としては、夏の野外フェスだけでなく春も冬も含め年間通じて様々な時期にフェスが行われ、ある種の飽和状態になっているという認識もあると思います。そういった中で「VIVA LA ROCK」を立ち上げるにあたって、どういった差別化を意識されたんでしょうか。

鹿野:その話の前に、フェスが飽和状態だということ、それをネガティブな部分として言われているところが多いと思うので、そこのところをはっきりさせたいですね。今、フェスは沢山あります。「こんなになくてもいいんじゃないか」という意見は、もっともだと思います。けれど同時に、これだけあるフェスの多くが音楽ビジネスとして成功しているわけで、ビジネスである以上、成功してるところにパワーと技術と人と資本が回ってくるのは当たり前のことなんですよ。今、音楽業界がCDなどからライヴの現場にパワーバランスが変わって来ているのと同じです。音楽で遊ぶならフェスがいい、音楽に投資するならフェスがいい、デビューから這い上がるきっかけを掴むにはフェスがいいーーそれが今、必然的にフェスマーケットというものを作っている。飽和していることによって、いくつかのフェスのクオリティやコンサート業界のオーガナイズが進歩しているという現実もある。音響や照明機材の進化も含めて、いろんな意味で日本のこの10年間のフェスブームっていうものが音楽業界の現場を変えた部分がある。でも、やっぱりその一方で、最近はフェスのチケット料金が高いから、お客さんがそればかりに行くことによってワンマンライヴに行かない、CDを買わない、そんな状況も生まれているーー勿論それはフェスだけが原因ではなく、一番大きな原因は売れないCDを作る側と入らないライヴをやる側にあることが前提ですが。それは一体どうなんだ?というアーティストの声が、ツイッターとかで出てきたりとかしている現実もある。

――そこに対してはどうでしょう。

鹿野:僕はそのすべてが現実だと思います。いい悪いではなくて、まずアーティストがフェスに文句を言うというのは、アーティストにとって非常に深刻な問題を述べているわけだから、これはこれでひとつの現実だと思う。いろんなフェスがあって、どのフェスに行こうか迷ってる人が「フェスがありすぎるじゃねえか」と素朴な疑問を感じることもひとつの現実だと思う。で、まだフェスバブルが消えていない中でフェスがさらに増えていっているのも、ひとつの現実だと思う。その中で、僕がフェスのプロデュース側として答えられることは、飽きられたら終わりだ、ということ。たぶん皆さんもそういう覚悟を持ってるんじゃないかなと思いますね。今はフェスシーンが上手くいっている、でもだからこそやっかみもツッコミもある。規模が大きくなると足元にはトラップもあるし、それを踏んだフェスはやっぱりダメになっていくと思うんです。それだけの覚悟を持って皆さんやられてると思うし、自分も覚悟しているところがある。

――なるほど。

鹿野:特に今回立ち上げる『VIVA LA ROCK』はそうですね。2010年に『ROCKS TOKYO』というフェスを何社かと一緒に始めた時は、いわゆる「春フェスブーム」の始まり、つまり春にフェスをやるのは新しいことだったんです。2010年の時点では春という時期にフェスをやるっていうことを確立させることはすごく難しかったんですよね。そこからわずか3、4年で拡大して、今や夏とか年越しだけじゃなく、全ての時期のフェスが地続きになって行われるようになった。その中でも、僕はゴールデンウィークに首都圏でメガフェスを毎年やるということで、新しい大きな現場を作れるんじゃないかと思ったんです。前週の4月末には東北で『ARABAKI ROCK FEST.』を毎年やっています。その後の5月の3日、4日、5日というスケジュールで、全国の音楽ファンとフェス好きな方にちゃんと認識をされるフェス、そして今まで大規模フェスが存在しなかった埼玉県の新しい音楽名物となるロックフェスを自分たちで作ろうと思って立ち上げたのが、『VIVA LA ROCK』というフェスなんですね。すでに各日1万枚以上は今の時点でチケットが売れているので、少なくとも毎日1万人以上人が集まるフェスティバルとして毎年これを行うことになる。すると現実的に、このフェスが全国で人口が3番目に多い埼玉県での最大のロックフェスティバルになるんです。この役割と責任はとても大きいです。もの凄いプレッシャーです。しかし埼玉県にもそういうものが必要だと思うし、ここから新しい音楽マーケットを作っていくっていうことはすごく大事なことだと思う。いろんな意味で、必然的な意義があったんですよね。その一つ一つのポイントをちゃんと線にできればきっと上手くいく。それが明確だったので始めることにしたわけです。僕はこのフェスを何度か開催し続けることによって、少なくとも埼玉県内でみんなが音楽をより聴くようになった。前よりライヴに行くようになってワンマンライヴも増えたり活性化してきた。そういう状況を夢中になって作りたいです。

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