CMJKが明かす、J-POPのサウンド制作最前線「アイドルの仕事こそやりたいことができる」

「ベテランが70%の力しか出さないのも正義」

ーー確かに型通りの音楽性をなぞっているだけで満足してる人たちも多い。

CMJK:だからバンドやってる今の子たちって、将来どう考えてるのか、こっちが聞きたいですね。そんな型にはまったバンドを10年20年やりたいのか、ディレクターになりたいのか、僕らみたいにサウンド・プロデューサーになりたいのか、とか。ミュージシャンとしての人生設計。

ーーそういうの、若い人で考えてる人の方が珍しいんじゃないですか?(笑)

CMJK:僕は考えてましたよ!(笑) 30代40代になってまで「僕のことをわかってくれ!」なんてやっても痛いかなと、若いころから思ってましたから。だから、その時ににしかできないことをやろうと思ってました。それは今でも。今だからこそやれることがある。

ーーたとえば?

CMJK:日テレ系ドラマ『バーチャルガール』の劇伴の仕事でロンドンにレコーディングに行ったとき、たまたま隣でスティーヴ・アルビニが新人のバンドをやっていたんです。まだ時間が早くバンドは来てなくて、アルビニがひとりでスタジオであれこれセッティングしてるんです。見たら、マイクの立て方とかアンプの位置決めとか、あれこれごちゃごちゃやってて、何をやってるのかよくわからない。いろいろ独自の施しがしてあって。それでバンド・メンバーがきたらウワーッとテンションあげて、2回しか演奏しないんですよ。それで卓も何も調整しない。フェーダーもほとんどフラットのまま。それでもう、CDのようなできあがった完璧な音になってるんですよ。録りが素晴らしくて。アルビニ・マジックですよ。それがもう、僕にとっては物凄くエポックメイキングな出来事で。自分のやらなきゃいけないのはこれだと。バンドのプロデュースをやったら、そういう体験をさせてあげたい。だめ出しして1000本ノック方式じゃなくて。

ーー思いきり演奏してみろ、あとはあこっちに任せろと。

CMJK:お前らがここまでできるなら、オレがここまでにしてやるってプロデュースをやってみたいですね。置きにいくような演奏じゃなくて、荒くてもいいから、思いきりやってもらう。細かい注文をあれこれつけるんじゃなくてね。あとはプロがなんとかするからっていう。歌もそうなんですけどね。

ーーなるほど。それはやりがいがありそう。

CMJK:あと、今の自分のキャリアだからこそできることといえばもうひとつ。だいぶ前に猿岩石の仕事をしたんですね(1997年「コンビニ」)。プロデューサーが高井良斉さんていう、秋元康さんの変名なんですけど、レコーディングの時に、すごくいい言葉をいただいて、今でも残ってるんですけど、「これから君もどんどんキャリアを重ねていくだろうけど、ほんとはドミソのCでバーンと弾きたいのに、ちょっと変わったコード弾いて、どうだオレの音楽性は高いだろう、みたいなことはやるな」と言われたんですよ。キャリアを積めば積むほど簡単なことをしていきなさいと。若者が120%の力で頑張るのも正義だけど、ベテランが70%の力しか出さないのも正義なんだよって言われたんですよ。何を言ってるんだこの人、と思ったんですけど、今はものすごくそれがわかります。ベテランが引き算割り算ようやく覚えて、ほんとはすごいできちゃうんだけど、6~7割の力でやる残りの30~40%の「余白」が、ポップなんですよ。それが最近ようやくわかってきました。

ーー余白が想像力をかきたてる。

CMJK:そうですね。あと、むかしトラックダウンの時、自分の上げてほしい音がさがって、下げてほしい音があがってたりすると、昔だったらキーッ!となってたんですけど、今は、まいっかと(笑)。まいっかと思った作品の方が売れてるんですよね。要は自分の脳内の解像度と同じものをみなさんに求めるのは無理なんです。自分がこだわっているここのトーンがエンジニアには重要に聞こえないなら、まいっかと。言ってみればそのエンジニアは僕の作品の初めてのリスナーですよ。彼にはそう聞こえた。それでいいじゃないか。すごい苦労して作ったとしても捨てていいんですよ。理解してもらいたいと思ってる時点でダメ。一生懸命作ったトラックに(相手が)乗ってこないってことはざらにありますからね(笑)。

ーーでもJKさんは自分の脳内に理想型があって、それに近づけるように音を作っていくわけですよね。エンジニアにそれとは違うものを提示されてもかまわないと?

CMJK:しょうがないから次いってみようと思います。100%の満足しちゃったら終わりですからね。

ーーそこで自分の理想型とエンジニアの提案が一致するのが理想?

CMJK:いや、そこは難しくて、完全に一致しちゃったら売れないんですよ、僕の場合(笑)。たとえばリミックスだと自分だけで完結しますよね。それをニューヨークのマスタリング・スタジオにもっていって作業したりするんですけど、「かっこいいけど難しいね」って言われます。僕が100%やりきっちゃうと、そうなるんです。寝っ転がって鼻くそほじって足で作ったようなものの方が、売れます(笑)。それはもう、しょうがない。だから…若者の足し算かけ算も正義だけど、ベテランの引き算割り算も正義なんですよ。今のトシだからわかるんですよ。昔はわかんなかったです。でも自分の周りの同世代のミュージシャンが、いい感じで等身大で引き算割り算をやってるのは、見てて気持ちがいいですね。スチャダラパーにしても電気グルーヴにしても。みんなが求めているものをやってあげようか、という余裕もありますよね

ーーそうなんだよね~。そこに至るまでの長く曲がりくねった道が…(笑)。

CMJK:そうそう。スチャダラアニなんて、その権化ですからね(笑)。反抗心の固まりみたいなところから出てきた我々の世代が、みんなが求めてるならやるよ~って境地になって。ついにはピエール瀧というモンスターを生み出したわけですよ(笑)。

ーーモンスターですか(笑)。

CMJK:僕、尊敬する人物は関根勤さんなんですけど、関根さんてピークを目指したことがない。でも誰と絡んでも自分を見失うことがない。タモリと絡んでもダウンタウンと絡んでも。ずーっと低空飛行で自分の好きなことを延々とやっている。70%の力でやっている。だから、この時代の椅子に座ってください、というふうにはなりたくないと思ってるんです。ピークに達したらあとは下るだけなんで。それじゃつまらない。

ーー実際にプロの第一線で活躍されていると、CDが売れないとかダウンロードも伸び悩んでいるとか、肌で感じることも多いと思いますが、そういう状況でご自分がやるべきことはなんだと思いますか。

CMJK:…いやー…仕事がなくならないように頑張るしかないんですけど…そのためにどうするか。僕が出した答えは、ますますこれまで以上に顔色を窺わないで仕事をしようと。

ーー自分の個性を大事にする。

CMJK:そうです。こだわりのラーメン屋であり続けようと。こないだミトさんのインタビューで、アルバムを出す意味みたいな話になってたじゃないですか。いまや一曲一曲の機能性が求められる時代になってると思うんで、フラれたから悲しい曲を聴きたいとか、あいつをぶっ飛ばしたいからそういう気持ちを盛り上げてくれる過激な曲を聴きたいとか。探せばその曲だけダウンロードできますからね。アルバム・トータルの作品性みたいなのは、今の時代にはめんどくさいだけじゃないか。

ーーああ、さっきの話のように、裏の意味を探るとか、そういうのは求められてないと。

CMJK:そう。僕、後輩の音楽家によくいうんですけど、お前またこれかと。すごくよくできてるけど、お前は1週間3食、同じ幕の内弁当作ってるようなものだと。

ーー無難なだけの総花的なものではもうだめだと。

CMJK:今回はハンバーグ弁当、次はカレー、みたいなものが作り方をしないと、今はダメだと思います。

ーーそういう意味で好き勝手やらせてもらえるのが、実はアイドルであるということですね。

CMJK:そうです。去年の暮れにチームしゃちほこのプロデューサーと飲んでいた時に、JKさん最近なに聞いてますかって訊かれて、ちょっとマニアックなエレクトロニカ、ちょっとポップなものでもせいぜいフォー・テット、せいぜいブリアルぐらい…。

ーーブリアルがポップですか(笑)。

CMJK:ま、そこそこ有名?(笑) “ふだんはそういうのをばっかり聞いてますよ、本当はこういうのをやりたいけど、やっても絶対ボツですよ~”とぼやいていると、”アイドルならできます”と。”B級C級のガレージサイケみたいなのも好きですけど、一生やる機会ないですよね~”と言うと”アイドルならできます”と。だんだんこっちもその気になってきちゃって(笑)。

ーーそれに最近のお仕事は、JKさんのクラシック・ルーツを感じるような曲が多くなってますね。子供のころお母様にたくさん聞かされたんですよね。

CMJK:そうなんですよ。今やってる曲もそういう要素があって。生きててムダなことって何もないんだなって思いますよ。

ーー以前後輩の作曲家に、JKさんの作る曲はクラシック・ルーツが強すぎてヒット曲のストライクゾーンからは微妙に外れている、と指摘されたんですよね。

CMJK:そうそう!そうなんですよ。

ーー状況が変わってきたってことでしょうか。

CMJK:ちょっとネガティヴな言い方をすると、それだけ飽和状態なのかもしれないですね、アイドルシーンとか。でもグラミーをとったクリーン・バンドィットの「ラザー・ビー」とか、アヴィーチーとかもそうですけど、弦楽器とかアコースティックなどオーガニックな要素と最先端なエレクトロニカの融合はトレンドですから。冷静に見ればそういうことなのかなと思いますけど。

Clean Bandit - Rather Be ft. Jess Glynne [Official Video]

ーーついに自分の時代が来たと(笑)。

CMJK:そんなこと自分では言えないですよ(笑)。でも得意なこと、好きなことができてる状態なので、非常に幸せを感じてます。ぶっ飛んだ打ち込みと、ギーギーガーガーいうシンセサイザーと、アコースティック、オーガニックなものをなんとか合わせようという。だから昔に比べればお金は儲かってないですけど、楽しいですよ(笑)。さっき昭和歌謡の話をしましたけど、今ちょっと状況が似てるなと思って。あの時もバンドものはあったわけですよ。ゴダイゴとかツイストとか。でも結局「ザ・ベストテン」に出たら、もう全部歌謡曲じゃないですか。わりと今そういう感じになってきてるのかなと。やれアイドルだアニソンだバンドだっていうけど、全部まとめて「今の歌謡曲」みたいなフィールドになってきてるんじゃないか。だから新しい歌謡番組も増えてきてるじゃないですか。それだけプロの手によるファンタジーみたいなものをみんなが求めてるんじゃないか。

ーー歌謡曲=エンタテインメントというファンタジー、ですね。

CMJK:お前のリアルなんて知らねえよ!みたいになってきてるんじゃないですかね。もっと練りに練られたUSJのハリーポッターに乗るみたいな感覚を、みんな求めてる気がします。

(取材・文=小野島大)

200150418-cmjk-03th_.jpg

 

■CMJK
1991年、石野卓球、ピエール瀧と共に電気グルーヴとしてデビュー。電気グルーヴ脱退後はCutemen〜Confusion〜Alex incとユニットを経て活躍し、90年代初頭の黎明期の日本のクラブ/テクノ・シーンの礎を築いた。また自身のソロ・ユニットC.T.Scan名義ではデリック・メイ、カール・クレイグ、UR 等と共演。日本初の国産テクノ・レーベルFROGMAN RECORDS第1弾リリースとなった名曲“COLD SLEEP” は、英国を始め欧州各地で話題となり、英欧の主要ラジオ局でのパワープレイと好セールスを記録した。現在は浜崎あゆみ、SMAP他多数のアーティストのサウンドプロデュースを手掛ける傍ら、自身のバンドClockwork yellowの他、DJとしても活動中。多忙な日々を送る。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる