小野島大が"鬼才音楽家”を直撃インタビュー
CMJKが明かす、J-POPのサウンド制作最前線「アイドルの仕事こそやりたいことができる」
「今ほんと、自己表現なんてしたくないんですよ」
ーー初期のテクノでも、たとえばケンイシイがアニメ・カルチャーと結びついて、特に海外にアピールしていてましたね。(CMJKもCT-SCANとしてシングルを出した)テクノ・レーベルの「FROGMAN」を、渡辺健吾とやっていた佐藤大は、その後アニメやゲームの脚本家になるし。
CMJK:あの頃はオタク~サブ・カルチャーとテクノってすごく親和性が高くて、あんまりオタクが気にならなかった時代だったんですね(笑)。そういうフィールドの友達がいっぱいいて、いやじゃなかったんですよ、90年代頭ぐらいは。今はそういう雰囲気に近くなってるのかな、とは思わなくもないですね。
ーーアニメに関しては以前と比べてはるかに市民権を得てますよね。
CMJK:そうですね。僕もモノによってはいやじゃないものもあるんだろうなと思います。勉強不足なだけで。
ーーなぜ好きじゃないんです?
CMJK:うーん…だいたい日本に来る外国の方って、シュッとした小ぎれいな方でも、日本のアニメとかマンガで育った人がたくさんいて。凄いな、と、外人のフィルターを通してようやく気づいてるというか。子供の頃は人並みにアニメとか見てましたけど、中2ぐらいから一切やめて。邦楽も聞かなくなりましたね。
ーーアニメの世界観やオタク的なイメージがイヤだったとか?
CMJK:……ものすごく冷静に自己分析すると…バブル世代ーーと言われるはイヤですけどーーなんで、とにかく新しいものが好きなんですよ。だから1カ所にずっといて執着するのがイヤで。オタクの人たちって、情報に左右されず何かを徹底的に掘り下げる人たちじゃないですか。僕は最新情報をチェックして、広く浅く、ハイ次のもの、ハイ次のものってタイプなんで。そこが合わないだけだと思います。今これがキテる!とか。人が言ってるのを聞くとムカッとしますけど、自分もそういうタイプなんで。もちろん、結局ジョイ・ディヴィジョンが好きだとか、そういうのは根っことしてあるんですけけどね。
ーーその「最新情報」は、JKさんの場合やはり洋楽ってことになるわけですね。
CMJK:はい。J-POPでもアイドルでも、ディレクターが売れてるJ-POPの参考曲を3~4曲あげてくるんですよ。なるほどなあと思い、半分嫌々ながらやるんですよ。でもそれだと悔しいから、僕なりの洋楽的アプローチを加えるじゃないですか。そうすると必ずいやがられるんですよ。売れてるものを真似して手堅く稼ごうという人の方が多いんで。でも実はそういうものって大して売れないんです。そういう手堅いだけのアプローチを続けていくと目減りしていくし、確変も起きないじゃないですか。
ーー縮小再生産していくだけ。
CMJK:そうそう。手堅く同じようなことをずっとやってる人たち、そういうグレート・マンネリズムみたいなものも素晴らしいと思うんですよ。「笑点」とか「水戸黄門」みたいなの(笑)。日本人はそういうの大好きですし。でも僕が「笑点」のメンバーになるのはおかしいかなと(笑)。ありえないですよね。
ーー常にプラスアルファがあって、予想もできないような変化があって、新しい刺激があって、まったく違う方向に進化していくような音楽を目指している。
CMJK:いろんな人がいる中で、そういう役割の人がいてもいいと思ってます。
ーーそしてそれが独りよがりのマニアックなものになっては、JKさんの活躍するJ-POPの世界では意味がないわけですが、浜崎あゆみのライヴに行ったら、自分がフェイクで入れたアレンジの部分で気の利いた演出が施されていて感動した、とブログに書かれてましたね。
CMJK:はいはい、ありましたね。
ーー最先端のつもりでやったことが、ちゃんと彼女のフィルターを通して普通のポップスとして翻訳され、それが受け入れられている。
CMJK:それは嬉しいですよね。僕はいつも言ってるんですけど、僕は世の中をアッと言わせることはできないけど、エッと言わせることはできると思うんで(笑)。その「エッ!」というものがいつのまにか一般に受けいられているなら嬉しいですよね。また次の「エッ!」とやらなきゃと思うし。
ーー浜崎さん以外でそういう例はありますか。
CMJK:たとえば去年出たSMAPの「トップ・オブ・ザ・ワールド」て曲はMIYAVI君が曲で、僕がアレンジなんですけど、あるお店にいたら、その曲が流れていて、仕事終わりのキャバ嬢が踊りながら店内に入ってきたんですよ。あ、こんな難しい7拍子の曲でキャバ嬢踊るか!やった!って(笑)。
ーーそのあたりはアーティスト時代のJKさんとは変わってきたんですかね。つまり、アーティスト時代は自分のやりたいことをやって、それが実際にどういう風に受けいられるかに関しては無頓着な面もあったわけですよね
CMJK:あっ、それはもちろん。アーティストって自己表現しなくちゃいけないじゃないですか。今ほんと、自己表現なんてしたくないんですよ。
ーーあ、そうなんですか。
CMJK:ええ。自己表現って、音楽を通じて自分のことをわかってくれって作業じゃないですか。ふざけるな!という気がしてまして。
ーーほお。
CMJK:今は逆なんですよ。自分を使って音楽を表現したい。そうシフトしたら、こんなに気持ちがラクになるんだ、っていう。音楽に恩返しもしなきゃいけないですし。自分が若いころに味わったドキドキを今の若い子にも味わってもらいたい、と思ったら、この先何年も続けていけるなって気持ちになりましたね。歌詞もたまに書きますけど、人が歌うのはいいけど自分で歌うなんて、もう死んだ方がマシってぐらい(笑)。
ーーへえ、そうですか。じゃあアーティスト活動への執着みたいなものは…。
CMJK:ないですね。ま、今もバンドやってますし、たまに欲求不満のはけ口としてはありますけど。売れるわけないと思ってるし、それでいいと思ってます。
ーー自己表現はしたくないけど、自己表現をしている人のサポートはしたい。
CMJK:うーん、そうでもないんですよね。なんか…子供の頃から音楽の聴き方として、最終的に一番かっこいいのはプロデューサーだと思ってたんですよ。
ーー若いころから人生設計を考えてたんですよね、30代で表から退いてサウンド・プロデューサーに専念する、って。
CMJK:そうそう。子供の頃から憧れの人はプロデューサーばっかりでしたから。
ーー理想のプロデューサー像とは?
CMJK:うーん…やっぱり楽曲ありきなんで。楽曲が求心力になって、いっぱいいいブレーンが集まってきて、というのが理想的なんですよ。凄い曲がどーんとあれば、自ずとうまくいくんじゃないかな、ぐらいしか思ってないですけどね。
ーー「凄い曲」ってどういう曲ですか。
CMJK:難しい質問だな…わかりません(笑)。
ーーじゃ訊き方を変えると、凄いと思った曲の共通点は?
CMJK:あ、いい質問ですね(笑)。それはですね、最初に笑うんです。絶対。なるほどね、じゃないんです。絶対笑うはずなんです。
ーーなんじゃこりゃ!という。なにか新しい、突拍子もないものがある。
CMJK:そうそう。たとえバラードであろうが、ビートがない曲であろうが。絶対笑うんです、「凄い曲」は。
ーー一番最近笑ったのは?
CMJK:一杯笑ってますよ。ミトさんも言ってたけど、Arcaは僕もハマってるし。FKAツイッグスもビョークもArca本人のも。
ーーFKAツイッグスの新曲のPVが凄かったですね。
CMJK:あれ笑いましたね!
ーーあれヒドいですよね(笑)。
CMJK:やってくれましたねえ(笑)。いきなり妊娠してますからねえ(笑)。そういうことですよ、うん。