『アイドル楽曲大賞』アフタートーク(前編)
4人のアイドル論客が語る『アイドル楽曲大賞』の始まりと現在地「真の楽曲派は現場に多い」
「推しメンは推しメンで、楽曲部門は自分が良いと感じた曲に入れる、というモラルが働いている」(ピロスエ)
宗像:「17才」が1位だったことが静かに波紋を呼び続けているのと対照的に、メジャー部門の1位がDorothy Little Happyと発表されたときには「大正義」というコールが巻き起こりました。でんぱ組.inc(メジャー部門4位:「サクラあっぱれーしょん」)、清竜人25(メジャー部門3位「Will♡You♡Marry♡Me?」)、BABYMETAL(メジャー部門2位:「ギミチョコ!!」)と世の中的にも売れているメジャーなところがきたところで、最後にDorothy Little Happyが1位になったときの歓声が印象に残っています。
ガリバー:現場やフェスによく行っている人はヲタじゃなくても体感した事がある人が多いと思いますし、「nerve」に続くアンセムがない中で、それに一番近づいた新曲がこの曲だったということでしょう。
岡島:楽曲派のガチ勢って在宅派だと思われがちなんですが、実は現場派なんですよね。現場に行かなきゃ買えないCDがあるし、YouTubeだと音質が悪いから、真の楽曲派は現場に多い。ハロプロ楽曲大賞でもそうでしたけど、「卒業する子の最後になる曲だから」というような、変にストイックで物語性のある曲が1位になったりはしないんですよね。そういうことではない本気感があるのが良いと思います。
ピロスエ:2位から4位がトイズファクトリーというのも面白いですね。
宗像:これだけトイズファクトリーが並んだのは本当にすごいですし、今年リリースしたものの中ではやはり清竜人25が象徴的ですね。清竜人25は批評的なことを言い出すとキリがなくなって、批評性の自家中毒になって滑稽なことになる、というグループなんですが、BABYMETALやでんぱ組があったお陰でこの企画が通ったと思うと、2014年のアイドルという感じですよね。これが00年代だったら企画も通らないと思います。
岡島:いろいろなことがすごくよくできていますよね。現場でしか聴けない曲がまだまだたくさんあって、現場で清竜人を見たくない人はステージ上の女の子だけ視界にいれておけばいい、ということもできる。でも清竜人とチェキを撮れたりして。そのあたりもしっかり作っていますよね。
宗像:BABYMETALに関しては、「Give me chocolate!」って敗戦後の日本で子どもたちが占領軍に言っていた言葉ですからね。海外のフェスの動画で、その言葉を外国人がこの3人の子どもたちに言っているのを見ると「戦後が終わったな」という気がします。
岡島:でんぱ組.incも同じように狙って作りこんでいて、今年はBABYMETALとでんぱ組.incがグッと動員数を上げた感じがしますね。BABYMETALは「坂本九以来の成功」とも言われていますし。
宗像:あとは、トップ10にNegiccoが2曲が入ってるんですね。
ガリバー:いつも思うんですけど、NegiccoとEspeciaは、入れている人が同じなんじゃないですか?
ピロスエ:だから票が割れて、上位には入りにくいのかも。
宗像: Especiaに関しては、あれだけ票が分散してもベスト10や20に入ってきます。一方、推し箱部門の1位だった東京女子流はベスト20に1曲も入っていません。
ピロスエ:「ずっと 忘れない。」の21位が最高です。女子流もけっこうキャリアが長いんですが……。
岡島:「女子流は好きで期待しているけれど、今年は飛びぬけて良かった曲は無い」という評価が如実に表れているのではと。
宗像:その勢いの違いは不思議だ……。
ピロスエ:ハロプロ楽曲大賞にも推しメン部門があるので同じことが言えるんですけど、推しメン部門で上位のメンバーがいるグループが、楽曲部門の方でも上位に入っていたら、それは要するに人気投票になっていると解釈できる。でも、必ずしもそうはならなくて、推しメンは推しメンで入れるけれど楽曲部門は自分が良いと感じた曲に入れる、というモラルのようなものが働いているから面白い結果になっているんだと思います。今のところハロプロ楽曲大賞にもアイドル楽曲大賞にもそれが機能しているのかな、と。それが今後票数が増えることによってどうなっていくのか、という危惧も少しあります。
ガリバー:ゆるめるモ!のインストアに行こうと渋谷のタワレコに行ったら入れなかったんです。驚きましたが、そういう意味で去年リキッドルームのワンマンライブがソールドアウトしたのはすごい事件だったんだな、と思います。ところが今回の大賞では24位に1曲入っていただけでした。そういうところが反映されるためにも、投票数が増えたほうが良いと僕は思うんです。
岡島:でも、どこを境に単なる人気投票になるか、ということもありますよね。
ピロスエ:ジャニーズ楽曲大賞というのをジャニーズファンの人がやっていて、数年前に1位になったグループのメンバーがそれについてラジオで言及した、ということがありました。そのことによってその後の投票バランスがどうなったのか、くわしくは知らないんですが、場合によっては「彼を喜ばせるために投票しよう」と言い出す層が増えて人気投票化してモラルが失われる可能性もあるわけです。そのあたりのジレンマが難しいところだと思いますし、ジャニーズにかぎらずアイドルでもそれは十分に起こりうることだから、投票の母数を増やしたいとは考えてますが、単純な問題ではないんですよね。
ガリバー:ただ、投票に参加していない界隈がまだまだいると思うんですよ。例えば、元日に見たPASSPO☆の、まこっちゃん(奥仲麻琴)卒業ライブでは、TOKYO DOME CITY HALLが埋まっていたりするわけで。極端な接触現場は別ですけれど、愛乙女★DOLL等のアークジュエル系やprediaのように、楽曲も良いしお客さんも入っているグループが楽曲大賞で上位に来ないということは、彼女たちを好きな層が参加していないということでしょう。
岡島:ある程度の規模のアイドルにとっては、ここで上位になることにさほど価値がない、ということもあってファンも頑張れないのかもしれません。