乃木坂46、“選抜とアンダーの壁”が再び焦点に グループを次のステージに引き上げるメンバーは?

 一方で、ではアンダーメンバーに希望が見出だせる選抜発表だったのかといえば、そう素直にも言えないのが実情である。盤石の常連メンバーをもはや選抜から容易に外せない現状は、メンバーの活発な入れ替えをなかなか期待できず、アンダーメンバーに光が当たる場を用意できないということでもある。それは乃木坂46が抱える以前からの課題だったが、アンダーライブの成功を中心とした昨年のアンダーメンバーの活躍は、そこに新しい活路を拓くかに見えた。しかし実際には、選抜メンバーの構成に大きな地殻変動をもたらすには至らず、また選抜枠が微増したことでアンダーメンバーの絶対数も減り、昨年のアンダーライブのような勢いを見せる場が今後あるのかどうかも不透明なままである。二期研究生の相楽伊織が正規メンバーに昇格し選抜入りを果たしたことは、二期生のほとんどが加入から一年ほど、自らをアピールする場が満足になかったことを思えば、もちろん前向きな要素ではあるはずだ。しかし同時に、増えた選抜枠に二期研究生が起用されることで、アンダーを支えてきた一期生メンバーがなおこれまでと同様の位置に留まっていくことは、モチベーション維持の面でも決して得策ではないだろう。

 アンダーから7thシングル『バレッタ』以来の選抜に復帰した齋藤飛鳥は、11thシングルの選抜発表が行われた18日夜放送分の『乃木坂って、どこ?』(テレビ東京系)で、選出メンバーが固定化しつつある選抜発表というイベントについて、「自分の中で緊張するものじゃなくなってしまっていて」と明かした。齋藤はその心情について「私の性格があんまり良くないので」と補足を入れたが、選ばれてなお素直に喜ぶさまを見せることのできないその振る舞いは、彼女一人の実感のみならず、一期アンダーメンバーの置かれている難しい状況を象徴するもののようにも感じられた。齋藤や同じく選抜復帰を果たした伊藤万理華ら、かねてよりスポットの当たる場所に配置されることが待望されてきたアンダーメンバーは多い。実際、彼女たちのシングル選抜復帰は、乃木坂46の選抜メンバーにとって心強い色を添えてくれるものになるはずだが、選抜メンバーへの選出が「喜びの場」にならないところに今のグループ内の難しさがある。

 11thシングルの布陣は選抜メンバーのラインナップを見ればまさに充実期に入り、昨年の実績を経てさらに上昇するための準備は万端であるように見える。まだまだグループの世間的認知を高めていかねばならないことを考えれば、これは2015年の第一歩として大きな希望を感じさせる、順調な状態にあると見ていいだろう。ただし、アンダーメンバーの置かれた立場は以前歯がゆい状態が続く。昨年のアンダーライブのみならず、『装苑』2014年12月号の伊藤万理華単独起用や、直近では『CUTiE』2月号の表紙に齋藤飛鳥が抜擢されるなど、アンダーメンバーの位置にありながらも、このところ彼女たちには目を引くメディア露出の機会が増えていた。あるいは大晦日から年明けにかけての『CDTVスペシャル!年越しプレミアライブ2014→2015』(TBS系)では、アンダーのセンターだった井上小百合が「何度目の青空か?」で選抜メンバーの中でセンターに立ちパフォーマンスをした。このように選抜かアンダーかにとらわれず、個々のメンバーに目立った活動の場が多くなってきたのが、昨年から今年初頭にかけてのグループのポジティブな機運のひとつだった。

 このように選抜とアンダーとが高いレベルで融解し始め、それまでの選抜/アンダーという壁とは異なった枠組みで新しい光が見え始めた時期だっただけに、シングル選抜発表という定期的にやってくる恒例儀式は、その流れに容赦なくピリオドを打ってしまうものでもある。そんな中、10thシングルでアンダーのセンターとして牽引役を務めてきた井上は、再度アンダーに留まる結果を受け止めながらもブログ等ですでに前向きな言葉を積極的に発信し、選抜に上がった伊藤万理華や齋藤飛鳥の抜けた部分まで背負う覚悟を宣言している。また昨年のアンダーライブでは井上、伊藤、齋藤に次ぐポジションに位置し、選抜のチャンスには恵まれないながらもメディア露出の機会に存在感を見せてきた中元日芽香も、選抜入りした伊藤からの激励を受けて今期アンダーの中核となる構えを見せている。井上、中元らを軸としてアンダーの熱を維持しつつ、選抜メンバーに匹敵する盛り上がりを作ることができるならば、そこから新たに頭角を現すメンバーも生まれ、選抜とアンダーが良い意味で競い合う環境が実現するだろう。選抜の充実とアンダーのテンションとがうまく噛み合う年になることを期待したい。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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