「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第9回 武藤彩未『OWARI WA HAJIMARI』
武藤彩未、ワンマンで予感させた“終わり”と“始まり” 2015年に向けた変化の兆しとは?
2014年12月27日に赤坂BLITZで開催された武藤彩未のワンマンライヴ「OWARI WA HAJIMARI」は、まさにこの1年間での武藤彩未の成長を鮮やかに実感させ、同時に2015年に向けた大きな変化と飛躍を予感させるものであった。
開演直前に音声によるMCが流れたが(MCだけにM.C.ハマーの『U Can't Touch This』がBGMとして流れていたのはさりげない洒落だろう)、それは武藤彩未ではなく今日のバンドメンバーによるもの。キーボードのnishi-ken、ドラムの楠瀬タクヤ、そして初参加のギターのSHINJI OHMURAの声だった。リハーサルをした段階でツアーをしてきたほどの仕上がりだという。
そしてライヴで流れるのが恒例の「ナウシカREMIX」をBGMに、バンド・メンバー、そして武藤彩未がステージに登場した。1曲目はいきなりキラーチューンの「A.Y.M.」。しかも冒頭からレーザーがフロア上を飛び交い、2階席から見るとフロア上にカーペットが一面に敷きつめられたかのような光景で圧巻だった。さらに、80年代アイドル歌謡オマージュの最高傑作「Seventeen」では、ステージ背後に広げられた無数の傘も、照明で色を変えていく。
ドラムの楠瀬タクヤは、Hysteric Blueを経て、現在は数々のセッション・プレイヤーとして活躍し、Hysteric Blue時代からの仲間であるTamaとのSabãoでも活動するドラマーだ。彼のドラムの音圧にも負けない武藤彩未のヴォーカルの安定感、そして力強さとしなやかさをしっかりと確認できた。2014年4月29日のワンマンライヴはオケであったし、DVD「A.Y.M Live Collection 2014 ~進化~」にも収録されている2014年8月1日のワンマンライヴもバンド編成ではあったが、そのときはnishi-kenと楠瀬タクヤのみ。そこにSHINJI OHMURAのギターを加えた編成でも揺らぐことのないヴォーカルに、1年弱での武藤彩未の急成長を感じた。2014年6月10日のアコーステイックライヴ、2014年8月10日の「ROCK IN JAPAN FES 2014」でのフェス出演など、さまざまな編成や状況を経験した強みがこの日のステージには結実していた。MCで武藤彩未が「1年のいいとこ取りライヴ」と言っていた通りだ。コンスタントにワンマンライヴを開催してトライアルと成長を見せることはなかなかできないし、周囲のお膳立てに応えられる武藤彩未の度量にも感服させられる。
そしてこの日は新曲が4曲も披露された。そのひとつである「Doki Doki」はキャッチーで、サビで声の伸びの良さを感じさせるナンバー。新曲ながらダンスには安定感がある。「桜 ロマンス」は愁いのある楽曲だが、キーボードのソロから始まり、ギターとドラムがワイルドに鳴り響く展開を聴かせた。そしてデビュー・アルバム『永遠と瞬間』のリードチューンであった「宙」は、もはやアンセム感がある。ステージ前の4つのミラーボールは回転しながら輝き、会場全体を照らした。サウンドも原曲と感触が大きく異なる生っぽさだ。バラードの「とうめいしょうじょ」では、ヴォーカルの細かな表現力を感じさせる。
そして「ミラクリエイション」も新曲。激しいドラムを中心としたセッションの後に、武藤彩未が衣装を替えて歌い出したミディアムナンバーだ。Perfumeやさくら学院、BABYMETALも手掛けるMIKIKOによる振り付けもキュートだ。
MCでは、高校最後のテストを終えたとのこと。そう、身長149センチの小柄な彼女ではあるが、もう高校3年生を終えつつあるのだ。ちなみにテストの結果は、公民81点、国語表現85点、歴史87点、英語88点、家庭科91点、ライディング92点。音楽とはまったく関係がないのだが、優等生ぶりに感心したので書き残したい。しかし本人はその優等生ぶりを「つまんなくないですか?」と笑うのだ。
「パラレルワールド」も新曲。「高揚感のある曲」と武藤彩未は紹介していたが、なんとサウンドはEDMだ。会場はレーザーが飛び交いダンスフロア状態に。しかし、ヴォーカルをメインとした音作りになっていることには感心した。その一点は外さないのだ。「RUN RUN RUN」は、武藤彩未とファンがタオルを回す楽曲。前述の「ROCK IN JAPAN FES 2014」でも歌われた楽曲だ。「交信曲第1番変ロ長調」では、ファンとのコール&レスポンスも。「彩りの夏」の終盤では、武藤彩未にマイクを向けられたファンの大合唱も起きていた。
MCで武藤彩未は「ソロって簡単じゃないな」とこれまでの感想を述べた後、だからこそ「ソロで一番を目指す」と明言した。これはハッタリでは終わらないだろう。
本編ラストのバラード「明日の風」は、まずアコースティック・ギターのみをバックにして始まり、美しくステージを締めくくった。