香月孝史が読み解く、グループの画期性
清竜人25がアイドルシーンに持ち込む、「虚構」のエンターテインメント
印象的な場面が、11月11日に渋谷・TSUTAYA O-EASTで開催された『ハーレムフェスタ2014 Vol.2』の終盤にあった。ひと通りのライブパフォーマンスを終えたのち、メンバーのうち清竜人と第6夫人・清可恩の二人がステージ中央に残り、清可恩の口からCDリリースの告知が行なわれた。この時清竜人は彼女の首に背後から腕を絡ませ、睦言を囁くようにして彼女が話すべき告知事項を耳打ちしてみせた。それは明らかに、カップルの親密さをあらわすやりとりである。けれども同時にそれは、アイドル当人の生っぽいセクシャルさを表現するようなものからはほど遠かった。これは清竜人25のパフォーマンスが、いわゆる「ガチ恋」という言葉につながるようなリアリティとは明らかに異なった水準にあるからだ。アイドルが男性との仲睦まじいセクシャルな関係を見せつけているのではなく、「夫人役が夫役と仲睦まじい関係を演じている」のだ。そして、あらかじめその虚構の関係性が前提になったステージに我々観客は熱狂している。さらに言えば、清竜人25が体現するエンターテインメントは、ほぼその虚構の内側で行なわれている。
つまり清竜人25は、「一夫多妻制」や「婚姻」という設定それのみによってアイドルと受け手との関わり方を革新したわけではない。ステージ上にアイドルのむき出しのパーソナリティを求めずにファンタジーの水準で陶酔できるパフォーマンスを、こちらがそうと気付かないうちに今日のアイドルシーンに忍び込ませた。それがこのグループの爽快さである。一対一の関係ではなく「一夫多妻制」という明らかな虚構が設定されていることは、何より嘘の世界を嘘の世界として皆で楽しむことにこそ貢献しているのかもしれない。
ひとつ重要なのは、清竜人25は大胆な批評性をもってアイドルシーンに現れたが、他方でこの独特なグループはその成り立ちゆえに、現在のアイドルシーンに100%コミットする必要のない立ち位置にいるということだ。だからこそ、アイドルというジャンルが抱える「恋愛」にまつわるいびつさを、軽やかに批評することもできる(逆に言えば、仮にこの先アイドルシーンに強くコミットした活動に向かったならば、現在のバランスは持続しないのかもしれない)。それはたとえば、アイドルというジャンルがはらむいびつさに翻弄されたのちに、ジャンルのど真ん中からその息苦しさを相対化してみせたHKT48の指原莉乃のような批評性とは性格が大きく違うだろう。
アイドルの多様なあり方が前提になっている現在、アイドルファンはアイドルシーンに向けて登場した種々のグループを、「アイドル」というジャンルの内部に取り込んで受け止めることに慣れている。それゆえに、清竜人25もアイドルシーンの内側にある存在として自然に受容されるし、その環境を最大限に活かしながら、同時に鋭い批評性も生み出している。このグループが憎いのは優れた批評性を持ちながら、その批評性を意識することがすぐさま野暮ったく感じられるほどに、虚構のエンターテインメントの楽しさが批評を凌駕していくことだ。だからこそ、何も考えずに虚構の世界のミュージカルに踊りたいし、野暮ったく考え込みながらその批評性に唸っていたい。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。
■リリース情報
『Will♡You♡Marry♡Me?』
発売:2014年11月12日(水)
価格:完全限定生産盤(CD+DVD)¥1,500+税
<CD収録内容>
1.Will♡You♡Marry♡Me?
2.ラブ♡ボクシング
3.Will♡You♡Marry♡Me?(Instrumental)
4.ラブ♡ボクシング(Instrumental)
<DVD収録内容>
・「 Will♡You♡Marry♡Me?」Music Video
・「 Will♡You♡Marry♡Me?」Music Video メイキング映像
・ 京都平安神宮ライブ映像
・ ハーレム♡フェスタ2014 ライブ映像