円堂都司昭が「カバーされ続けるバンド」の魅力解説
クイーンが40年以上も“トップ洋楽バンド”である理由 リスナーを魅了する独自性と一般性とは?
短髪。鼻の下に髭、はだけた上半身に胸毛を貼る。こぶしを握って右腕を上に伸ばす。バックにドン・ドン・タと「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のリズムを流す。これをやれば、クイーンのフレディ・マーキュリーのものまねになる。以前から神無月とか世界のナベアツとか何人もの芸人がまねしてきたし、最近ではコスプレしてフレディのネタをやるスベリーマーキュリーという芸人もいる。日本においてイギリスのクイーンは、広く知られた洋楽バンドになっている。
デビューした1970年代に英米に先がけて日本で人気が出たこと、2004年に木村拓哉のドラマ『プライド』で「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」が主題歌になり再注目されたこと、CMでたびたび曲が使われてきたことなど、いくつもの背景があって人気が長く保たれている。ヴォーカルのフレディは、91年にエイズで亡くなった。だが、日本のテレビ番組では、オネエをとりあげたコーナーでゲイだったフレディの歌声が流され、スポーツの優勝シーンで「伝説のチャンピオン」、自転車の話題で「バイシクル・レース」がBGMに使われるといったことが繰り返されている。
そんなクイーンに関して、今年はいろいろ動きがあった。最新のトピックは、『クイーン・フォーエヴァー ベスト・オブ・ラヴ・ソングス』の発売だ。ラヴ・ソングや穏やかな曲を集めたもので、バラード中心の内容である。1枚ものと2枚組の両タイプがリリースされており、ヒット曲集では出会えない隠れた名曲が聴ける。例えば、フレディにはマッチョで声を張るイメージがあると思うが、若い頃の「谷間のゆり」などでは、繊細で高音が美しい少年的な歌唱にうっとりさせられる。シングル以外にもいい曲は多い。
とはいえ目玉は、2タイプどちらのアルバムにも収録された“新曲”たちだろう。クイーンの過去の未発表セッションを仕上げた「ユア・ハート・アゲイン」、フレディのソロとして発表されていた「ラヴ・キルズ」と「生命の証」のクイーン・ヴァージョンの3曲である。
このうち一番注目されるのは、故マイケル・ジャクソンとフレディの埋もれていたデュエット音源を磨きあげた「生命の証」だろうが、私は「ラヴ・キルズ」を推したい。オリジナルは、84年に発表されたフレディ初のソロ・シングル(それ以前に変名で出したことはあった)であり、ディスコの巨匠ジョルジオ・モロダーがプロデュースした曲だった。そのアレンジが四つ打ちのエレポップだったのに対し、新アレンジではヴォーカルにギターが寄り添うロック的なバラードへと変貌し、ドラマチックな出来である。