冬将軍がももクロ『泣いてもいいんだよ』を徹底分析
ももクロ×中島みゆき『泣いてもいいんだよ』の歌詞はなぜ刺さる? 瀬尾アレンジが示す“歌の本質”とは
中島みゆきが作詞・作曲を手掛けた、ももいろクローバーZ、5月8日リリースのシングル『泣いてもいいんだよ』が自身初となるオリコン首位を獲得した。アイドルと生粋のシンガーソングライターという、意外にも思える組み合わせが話題を呼んでいるが、中島は古くから研ナオコ「かもめはかもめ」、桜田淳子「しあわせ芝居」など、歌手やアイドル楽曲の作家としても多くのヒットを出している。
そして、注目したいのは編曲・瀬尾一三である。徳永英明「壊れかけのRADIO」、バンバン「『いちご白書』をもう一度」など、上げればキリがないほどの日本音楽界屈指の編曲家であり、中島とは1988年リリースのアルバム『グッバイガール』以降、ほとんどの楽曲でアレンジを担当する、中島作品に無くてはならない存在である。だが、多くの歌手・アーティストに提供されてきた中島楽曲では、実は瀬尾がアレンジを施した作品は少ないのだ。そんな中、同曲は簡潔な楽曲構成ながらも中島みゆき節とも言える個性とともに、瀬尾の起用が功を奏し、近年のアイドルソングとしては異色な仕上がりになっている。
瀬尾アレンジの十八番とも言うべき、主題的に登場するストリングスが印象的である。特にBメロ、2番Aメロ裏で鳴り響くフレーズはドラマチックな高揚感を誘う。そして、他アイドルソングやJ-POP楽曲に比べ、キック(バスドラム)が引っ込んでいることに気付くだろうか。アタックが弱めでベースと一体化した低音域を埋める役割に徹している。力強さを感じるリズムの要となるのはスネアドラムだ。JPOPに多く見られるキックではなく、スネアが主軸となり、軽快に刻まれるアコースティックギターと併せて躍動感を煽る手法は、アメリカ西海岸流の瀬尾ロックアレンジの王道でもある。これほどまでに中島&瀬尾色を出したアイドルソングというのも珍しいところだ。
90年代後半、タイアップの興隆やカラオケ、そしてオーディオ機器の低音重視志向により、派手に聴こえるサウンドが求められた風潮があった。コンピューター主体の音楽制作が主流となり、“オケ”は“トラック”と呼ばれ、制作側のクリエイター気質が高まったこともあるだろう。そこから生まれた多彩なシーケンスのきらびやかなアレンジと、音圧のあるサウンドは今でも“メジャーっぽい”クオリティと呼ばれるような要素の一つでもある。